第5話 物語は最初から既にズレていた。
5月も中盤となり雨雲が厚く空を覆う。
今年も例年通りに梅雨の季節がやって来たようだ。
「この時期なると異様に床とか机濡れてね?」
「わかる、それ拭くところから1日始まるよな。不快指数ハンパねぇし」
「俺はそれでも2度寝する」
「せめて除湿機つけろよ」
そんな会話から始まる今日の1日。
新歓が終わりある程度仲の良いグループがちらほらとできはじめた所だ。
それは俺たちもそうで集まるメンバーが大体固定されてきた。
とりあえず、いつものメンツで駄弁りながら今日のエンジンをかけていく。
「なぁ九、最近の食料は大丈夫そうか?」
最近仲間入りした九条九、顔はいい方なのだがファーストインプレッションがアレなだけにちょっとだけ頭イカれた奴だと思っている。
よって常識人の俺が面倒見てやらなくちゃという使命感が密かにあったりする。
「大将から賄い貰えるし、それにもらった米も少しは残っているから一応大丈夫そうだな」
「そりゃ良かった」
なんだかんだうまくやっているらしい。最初のアレは何だったんだろうか?
「だが、何故か大将がな、俺が賄い食べてるときだけすごい優しい目をするんだ。なんでなんだろうな?」
俺にはその状況は分からんが、飯食う金が無いって正直に言ったとしたらお前に同情して居るんだと思われる。
「まぁ、お前が食ってる姿が料理人冥利に尽きるんだろ」
「そう言うことか!なるほどな」
九は天然なのか鈍感なのか世間知らずなのかそういった一面がたまに顔を覗かせる。
「そういや、今日のニュース、見た?近所で行方不明者って。ヤバくね?」
「最近なんか物騒なんだよな」
「妖怪の仕業とか?」
「だからよー」
……
「……あれ?話し終わり?」
きょとんとしているのは九だ。
「今の文脈だったら話続かないか普通」
「知ってるか?沖縄ではこれが会話のピリオドだ。」
「そ、そうなのか!」
「適当なこと教えてんじゃないわよ」
そう言って野郎の会話に入ってきた優花に後頭部チョップされる。威力はそんなに無いがとりあえず挨拶の一言位言ってやろうと振り返る。
「おぉ優花。今日は癖毛がハネてんな」
「早々に人が気にしてることを口にすんな馬鹿」
「だからよー」
「何勝手に会話終わらそうとしてんの!」
そんなこんな朝から騒がしい時間を過ごしていたがどうやらHRのチャイムが鳴り皆、自分の席に戻っていく。
「仲、いいですね」
そう声を掛けてきたのは絶賛人気者の白城くんだ。前の席だから聞こえてても仕方ないか
「すまんな、朝っぱらからうるさくして」
「いやいや、男友達が多くて羨ましいよ。」
転校初日からそれはそれは女子に人気があるのだがそのお誘いをことごとく断っている噂は耳にしている。
「そうかい白城くん。俺的にはそっちも花があって変わりたいことこの上ないぜ?」
「高校生女子と会話するのも疲れるんだよ、それにここ最近同じ話題の繰り返しだしね」
女子がウザいとな。俺にはとても口にできない言葉だ。やっぱ顔がいい男は言うことが違うぜ。
「どうせなら君たちのグループに混ぜてもらったら分散するかも」
ふむ。
俺の頭の中で超高速な打算が始まる。
白城くんを入れる→女子がこちらに寄ってくる→白城くんの負担が減る→女子含めてグループで遊びに行こーぜ→彼女ができる→WIN WIN
「なるほど……ものすごくいい案だ。今後ともよろしくな白城くん」
「ものすごい下心が渦巻いてそうだけど……まぁよろしく」
-
昼休みが始まると同時に自然と俺の席にみんなが集まり出してきた。
「よし、おまえら。新しい仲間を紹介するぜ」
「白城くんってまじ?」
「さすがコミュ力モンスター、やることが違うな」
九が感心して頷いているがコミュ力モンスターってなんだ?なんか承認欲求の塊みたいじゃねぇか。
「女子にだけ白城くんを独り占めされるのもアレだし連れて来てやったぜ」
「と言う事は……もう仲間なんだし長慶って読んでもいいって感じか?」
そう中曽根が言うと確かにと俺も思考を走らせる。
正直しらぐすくもちょーけいもそこそこ呼びづらかったりする。
あだ名とか考えるか?しかしまだそんなに親しいって訳でも無いしと考えてた所に白城くんが提案をしてきた。
「それでもかまわないけどハクって呼んでくれ」
ハク……か、白城だしシロでも良いかなって考えたけど犬の名前じゃねぇんだしまぁ良いんじゃないか。
「かまわんけどいいのか?」
「苗字も名前も呼びづらいでしょ。前の学校の頃から呼ばれてたあだ名だから呼びやすいかなって思ってね」
前の学校。まぁそう言えばそういう学校から編入
「そうか、それならハク、そろそろ飯にしようぜ」
そうして周りの席の持ち主に許可を得つつ机を動かしつつ即席ボックス席を作り皆が椅子を拝借して座る。
九がこれが1軍ボックスか……と呟いていたがこいつはさっきから何を言っているんだろうか?とりあえず無視しておこう。
「今思ったんだけどハク含めると俺ら結構注目されてね?」
嘉数がそう言って辺りを軽く見回す……所々からチラチラと視線を感じる。
多分ハクが入ってきた事がデカいだろう。それに一応九も中身の残念さを知らなければ顔は立つ。優花も幼馴染みのひいき目でみて可愛い部類に入るだろうしまぁ確かに注目される要素はいくつもある。嘉数と中曽根は……野球部だしな。
「まぁそれも次第に落ち着くだろ。俺たちにも恩恵あるかもな」
「ほぅ~?その心は?」
向かいに座る優花が半目で俺を睨む。
「まぁ、ハクを目当てに来たらちょっと他に刺さる奴がいたとかな」
「ハッ、あんただけ取り残される未来が見える」
「そんな事はねぇだろ俺身長180あるんだぞ」
「その利点をかき消す位のシスコンじゃない」
「それは認める」
「そこ認めちゃうんだ……」
「というか……月見里くんは清水さんと付き合ってるんじゃないの?」
「「ぶっ!!」」
九がいきなりぶっこんだ質問をしてきて飯が肺に入りかけて咳き込む。
「九くん?どこでそんな噓を吹き込まれたのかな?」
「いや、なんとなくというか雰囲気的に……」
中曽根と嘉数が九の肩を叩きうんうんと頷く。
「わかる。わかるぞ九」
「あぁ、お前は俺たちの気持ちを代弁した代弁者だ」
どうやらかなり前からそんな感じに思われていたらしい。
「いやまてっ!付き合ってねぇからな!」
「……っまじ?」
「マジだって」
目を見開いた九がそういった。ガチでそう思ってたのかよ。
「ちょっ、炎司うるさいから」
俺の計画が台無しになる前にそこら辺は明確にしておかないとマジで俺の1人負けが確定してしまう。ここはしっかりとだな。
「とにかく、俺は彼女がいないという事だ!」
それだけは言い切った。
-
男子トイレの個室に入り少し考える。
何かおかしい。
僕が知っているグラフティデイズ3の世界では月見里炎司と清水優花は付き合っている。記憶が薄れているとは言えここは結構斬新だった部分であったので覚えていて彼氏彼女と言うより騎士と姫みたいなそんな感じではあるが付き合っていると公言していた記憶があった。
前々からやけにフレンドリーな2人に違和感があったのだが。2人が付き合っていないとなると過去の事件が起こっていないのか?どういうことだ最神?お前は俺をどういった世界に転生させたんだ?
と悶々としていたら2人組が連れションで入って来たみたいだ。
ウンコマンと悟られないように僕は気配を消した。
「なぁ聞いた?清水さん月見里と付き合ってないって」
「聞いた聞いた、アレでまじ?」
「ってことは、ちょっと俺誘ってみようかな?」
「まぁ待てって、最初にサシだったらアレだし何人か誘ってから」
「いいねそれ、ちょっとやってみようぜ」
……
うーん最初の心象世界は清水優花の心の闇が怪異に浸食されて起こるんだが……これは物語始まらないのでは?
◆Topic◆
○九条のバイト先の大将
⇒余りにもうめぇうめぇ言ってたべるものだから情が湧いてしまった。
○嘉数と中曽根
⇒月見里炎司の中学からの友達。
○月見里グループ
⇒1軍になりかけているリア充グループというのがクラスの認識。
読んで頂きありがとうございました。
作者のモチベーションに繋がるため、『ブックマーク』と『いいね』をお願いします。
お時間が空いているようでしたらポイントも付けてくれると嬉しいです。
下の ★ でポイント付けられます。最小★1から最大★5です。
『★★★★★』なら頑張れます!