幸せの再生回数
私達は毎末に映画を観るのが恒例だ。
場所は蛍の部屋。
蛍はひとり暮らしで、ふたり自由に過ごせるから。
映画はいつも蛍が選ぶ。
妃奈は彼女が選んだ作品を鑑賞して楽しむスタイル。
選んでくれる作品をいつも楽しみにしている。
ソファに座り、妃奈は用意した山盛りのポップコーンを手にして、蛍が選んだ映画の再生を待っていた。
蛍が隣に座って、映画のタイトルが映し出された瞬間に思わず「あっ!」と声がでた。
本当は映画館で観たいと思っていた映画だったから。2人の予定が合わず、諦めた作品。
「これ、凄く観たかった映画!」
蛍が微笑みながら、妃奈の頭を撫でる。
「知ってる。妃奈が凄く観たがってたから選んだの」
妃奈は蛍が選ぶ映画は自分の好みばかりだと気がついた。好きなジャンルは勿論のこと、見たいと言っていた作品を蛍は選んでくれていた。
妃奈は蛍に向き直った。
「蛍、いつも私のために映画を選んでくれてたの?」
蛍ははにかむように笑った。
「蛍が喜んでくれるのが好きなの」
「ありがとう、蛍。私、いつもサプライズもらってたんだね」
「サプライズ?」
「蛍が私のために何かしてくれるのが、サプライズ」
妃奈は蛍に軽くキスをして、彼女を強く抱きしめた。
「私も蛍を喜ばすの好き。だから、私も蛍を喜ばせてあげる」
「一緒に居るだけで嬉しいよ?」
「えー?満足が早い!」
二人は微笑み合い、もう一度キスをする。
「妃奈が嬉しそうだと、それで満足しちゃうの」
「じゃあ、手始めに蛍にポップコーン食べさせてあげる、はい、あーんして」
「恥ずかしいよ」
「いいから、ほら……あーん」
頬を赤く染めた蛍がおずおずと口を開くと、妃奈が蛍の口にポップコーンを運ぶ。
「美味しい?」
「う、うん」
「はい、蛍。もう一口あーん」
「えー! もういいよ。妃奈、恥ずかしいってば」
妃奈は楽しげに笑いながらポップコーンを蛍に食べさせていく。
「妃奈も食べて!」
「私、自分の分のポップコーン食べてなかった」
二人、顔を見ながら笑ってしまう。
「妃奈って凄く可愛い」
蛍は妃奈を抱きしめて頬にキスをする。
「ねえ、ポップコーンはもういいよ。妃奈を補充したい」
「もう、蛍ったら」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……お腹すいてないの?」
「妃奈を食べたら、ポップコーン食べようかな」
「えー? 仕方ないなぁ」
二人は笑いながらキスをすると抱き合い、ソファに倒れ込んだ。
「蛍に愛されて幸せ」
「うん、私も妃奈が好きって返してくれるから幸せになる」
「いつも幸せなのに、これ以上幸せになったら私死んじゃうかも」
「死んだらダメだよ。私は妃奈が居ないとダメだもん」
蛍は優しく微笑んで、妃奈に軽いキスを送る。
「蛍、愛してる」
「私も妃奈を愛してる」
妃奈は蛍にお返しだよと、キス。
微笑み合い、何度もキスを繰り返すふたり。
幸せ……って身近にあるのかもとふたりは思う。
折角選んでくれたけれど、今日の映画はエンドロールしか観れなそうだ。
寝る前にまた初めから再生しよう。
幸せをもう一度感じながら。