第92話 懺悔男と誘拐
◉カーナ教会到着1日前━━━━━━━……
◇テータニア皇国▪皇都▪平民街外れの橋
皇城専任御者バーチ視点
飛び出した二人の姫。
テリア様達の制止を振り切り、その三人の案内女性に走り寄っていく?!
オルデアン
「皆様、スプリング・エフェメラル様の遣いですの?ならば妖精族の方?早くスプリング・エフェメラル様のところに案内して下さいませ!」
織姫
「おお店の者!スイーツを、プーリンを超える幻のスイーツを所望じゃ!急ぐのじゃ!」
三人女性
「は、はい。では橋を渡り此方に来て下さい。案内致しますね」
「お姫様方、お急ぎを」
「沢山のスイーツが姫様方をお待ちですよ」
ニコニコして、比較的小綺麗な衣服の三人の女性。
橋の対岸より、馬車から飛び出した姫様方に呼びかけている。
姫様方は、その女性の呼びかけに応えながら橋を渡って対岸に走って行く。
「お待ちを姫様?!オルデアン姫!」
「織姫様、お待ちを!」
その後をお付きのテリア様達が後を追うが、あまりの素早さに初動が遅れて姫様達と距離を開けてしまっていた。
すでに二人は橋を渡り終える勢いだが、テリア様達は今、橋を渡り出したところ。
護衛の騎士二人も、まさか姫様達が馬車から飛び出し、我先にと橋の対岸に向かうなど予測できず、今だ口を開けたまま呆気に取られてその場に留まってしまっていた。
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ビゲルが指定した《《ここ》》は、平民街の外れで貴族街とを隔てる川の対岸に当たる。
川幅は大した事はない。
だが、川に沿って識別結界が張ってあり、貴族街に入る人間は通行証が無ければ不審者認定され、即座に兵士が捕縛に来る。
これは貧民街→平民街の間にも有り、同じように通行証が必要となる。
川は平民街の飲料水、洗濯場などを兼ねた生活用水路。
同様の生活用水路は平民街、貧民街の間にも有り、皇国が各々の住民の為に整備したもので、更に防火用水も兼ねていて、其れなりに水深はある。
架かる橋は貴族街と平民街を結ぶ通用橋。
ここは裏道にあたる為、人の通行用として整備され馬車の通行は不可能な橋幅になる。
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そこに現れた案内係の女性三人。
彼女らは対岸の平民街側、橋の向こう側から声を掛け姫様方を呼び寄せていた。
姫様達の突拍子無い行動に皆が大慌てだが、なんか妙だ?
姫様達が飛び出し駆け出したのはイレギュラーとしても、ビゲルが此処を指定した理由が分からない。
愛想笑いの案内女性達。
その姫様方を誘う先は貧民街に繋がる平民街の裏通りだ。
(貴族街外れ→平民街裏通り→貧民街へのルート???)
平民でも通わない人通り少ない裏通り。
しかも治安が悪い貧民街にも近い。
こんな場所に店舗を構え、果たして商いとして成立するのだろうか?
スイーツ店が在る場所としては違和感しかない。
そもそもビゲルの姿が見えないが、本当に店に案内出来るのだろうか。
そんな事を私が考えていると、姫様達が橋を渡り終え、案内女性達に接触した。
テリア様達は、まだ橋を渡っている最中で、騎士達は更にその後方にいる。
三人女性
「姫様方、よくお出で下さいました。直ぐに店に向かいます。ついて来て下さい」
「さあ、こちらへ、こちらへ」
「スイーツの店が待ってますよ」
オルデアン
「ま、待って。テリア達をおいて来てしまったの。ここで待ちましょう」
織姫
「そうじゃの。勝手に妾達だけで向かうと伽凛に叱られてしまうのじゃ。ほら、もう追いついて来ておる。皆が揃うのを待つのじゃ」
ニヤリッ
ガシッ、バッ
「な、なんじゃ?!」
「きゃっ?何!?」
なんだ?
案内女性達が突如、姫様達を掴み俵抱きで抱え上げた???
「な?!無礼者!!姫様に何をするつもりか!」
「織姫様!?」
「「!!」」
異変に気づいたテリア様達が叫び、のんびり歩きで橋を渡っていた騎士達が全速力で駆け出した?!
いったい何が起きてるんだ??
「は、放して!?歩けるわ!」
「オルデアン、これは誘拐じゃ!お主達、放さぬか!!」
姫様達を一人づつ俵抱きした女達は、貧民街に向かって走り出し、残った一人が岸に結んでいたロープに手を掛けている???
いや、あの動き!?
あれは女じゃないぞ!
は?
その女装?不審者がロープを引くと、その先端は橋の中央柱に巻き付けてあるようだ?
テリア様達はまだ橋を渡りきるかギリギリのところ。
まさか?!
「おりゃああああーっ!!」
女だと思っていたが、声は低音のハスキーボイス!??
あいつは長髪の女装男の様だ。
その女装男が今、用意していた対岸に括り付けていたロープを勢いよく引いた!
いけない!!
「テリア様!!」
ガランッガランッ、ガラガラガラッ
私が叫び声を上げるのと、ロープが引かれるのがほぼ同時だった。
ロープの先は橋を支える中央柱。
女装男が勢いよくロープを引くと橋の中央柱が引き抜かれ、一瞬で橋が崩壊した!?
「きゃああ!?オルデアンさまーっ!」
「ひゃああっ織姫さま!!」
「うわあああ━っ!??」
「なんだ!?うわっ!」
ザッバ━━ンッ、ドボンッザバンッドボンドボンッバシャバシャッザバンッ
「た、た、大変だ?!」
橋を形成していた沢山の丸太と共に、テリア様や伽凛様、二人の護衛騎士様は一瞬で用水路に投げ出され流されていく。
私は茫然と状況を眺めるしかない。
ふと、対岸を見れば、姫様方を担いでいた女性達は貧民街に向かう後ろ姿。
これはもはや間違いない?!
姫様方の誘拐だ!
しかも用水路内にテリア様達の姿が見えず、丸太と一緒に流されてしまった様。
「ああ!?どうしてだ、どうしてこんな事に……」
何て事だ。
私がビゲルの言葉を信じた事が全ての原因、つまり責任は私にある、という事だ。
ガクッ
その場で膝をつくしかなかった私。
呆然と事の成り行きを見守っていると、視線を感じ対岸を見れば、ロープを持っていた女装男が此方に目を向けている?
その口元は上がっていた。
「よう、アンタには感謝しねぇとな。まさかここまで上手くいくとは思ってなかったぜ」
「そ、その声は?!」
バサッ
女装男は頭の髪に手を掛けると、勢いよく地面に投げ捨てた!?
どうやら髪はカツラだったようだ。
「ビ、ビゲル?!」
そして男の素顔を見た私は愕然とした。
なんとその男はあの、ビゲルだったのである!
「あーっはっはっはっはっ!済まねぇなあバーチ。弟にヨロシクなぁ」




