表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/427

第81話 プロジェクト▪雪ウサギ9

◆ナレーター視点

(バッグミュージック▪地上の雪ウサギ▪作詞作曲▪中島雪ウサギ)


「はあ?ビール瓶は貸し出しだから納品本数分、返却しろだと!?」

「はい、それでお願いしたいのですが」

「おい、おい、そんな面倒、店側に押し付けるんかい。皇国エールは何時からそんな御大尽商売するようになったんだ!事を構えるなら、もう皇国エールは扱わねぇぞ!」

「………いいんですか?」

「あっ、何がだ?」

「実は、皇国エールの瓶を転売する事例が起きてまして、窃盗の疑いで皇国憲兵に訴えに行こうかと考えております」

「………何、だと?!」

「《ですが》そうした事も私共の販売の仕方が悪かった、との反省もありますので、これ迄の事は不問にしていこうかと」

「ああ、おお、そうだろうさ。瓶の返却が義務なんて聞いてなかったからな。そうしてくれると有難いな」

「では、次回からは、納品時に瓶を返却頂くという事でお願い致します」

「し、仕方ねぇな」

「………」

「………」



バタンッ

「ふう」


ハンスは皇国エール顧客店を出ると、大きく溜め息をした。

まさか自分がこんな駆け引きをするなんて思ってもいなかったからだ。

しかも交渉している内容は自身に帰ってくるブーメラン。

正直、精神的な疲れはハンパない。


だが、今日までで販売先は粗方回れた。

これからは本当の意味で、皇国エールの真価が問われる事になる。


現在、妖精印はモルト君が居ない為、工場は停止中だ。


だが倉庫には計画生産した在庫がある。

推定だが皇国での販売量から察するに、半年分の在庫になる。

つまり、妖精印ビールはモルト君が居なくても半年間は出荷が可能なのだ。



「どちらにせよ、正攻法でどれだけシェアを確保出来るかです」


ハンスは思った。

これからが勝負だと。


そうは言っても、彼にとっては妖精印も大事な取り引き相手。

複雑な心境だが、両方とも個別の顧客で住み分けられればそれが一番だと思う。



◆◇◇◇



ガキョンッガキョンッガキョンッ


数日後、自動瓶詰め機がフル稼動し、皇国エールは順調な滑り出しを見せていた。


ターナーが仕込み終えた七つの大樽(工房内生産樽)のうち、一つ目の樽が空になった。

慌てたターナーは直ぐに仕込みに入ったが、既に次の樽が半分になっている。


出荷量からすると、独占状態だった頃には及ばないものの、先ず先ずの出荷量だ。

このままでは(いず)れ、新規に従業員を雇わなければ需要に対応出来ないだろう。


皇国エールの評価は《昔ビール》。


妖精印が現代風のビールだとすれば、皇国エールは昔ながらの懐かしのビール。


あのモルト君が狙っていた通り、上手く住み分けが出来たようだ。

また、瓶による高級感と特有の味わいは、今後も安定した人気を博す事になるだろう。


なお、瓶の返却も上手くいっている。

割れた瓶については、欠片も回収で顧客には了承済みだ。



「モルト君、ハンスさん、本当に有り難う。とにかく皇国エールは、やっていけるだけの売り上げを確保出来る様になったわ」


レサは心からモルト君、ハンスに感謝を述べた。

後ろの工房では、忙しくターナーが仕込みをしている。

職人気質の彼から表立っての感謝は無いが、心の内は二人に感謝している事だろう。



「良かったです。独占ではないから、かつての量まで戻るのは難しいですが、恐らく安定的な物量で今後もいけるでしょう」

「私も貢献出来る事になって良かったです。今後は共にもり立てていければ幸いです」


赤ヘルのモルト君、頬を染めたハンス、レサの感謝に嬉しさを隠し切れない。


こうして、モルト君とハンスによる皇国エール立て直し作戦は大成功となったのである。



パシュンッ、パシッ

「はい?」、「「!?」」


三人が皇国エールで話ていると突然、モルト君のヘルメットに何かが当たった。

レサとハンス氏が音に気づいて、モルト君に目線を移したが、そこにモルト君は既にいなかった。


「え?モルト君?!」

「あれ、モルト君がいない?」


レサ、ハンス氏が辺りを見回したが、モルト君を発見する事が出来ない。


それもその筈。

モルト君はその頃、空を飛んでいた。



「ふえっ!?ボクは一体ど~なってええーっ???」


モルト君が空を飛んでいるのは、自身の羽根によるものではない。

実はモルト君は気づいてないが、彼のヘルメットに釣り針が掛かっていた。

それにより強引に引っ張られ、あたかも空を飛んでいる様な格好になっているわけだ。


バコンッ

「むぎゅっ!?」


見事に何か固い壁面に当たったモルト君。

カクンッとヘルメットが下を向き、力無く釣り糸に繋がれたままだ。

どうやら、ぶつかった衝撃で意識を失ったようだ。

果たしてモルト君の運命は?



フッ、ドサッ

落ちたモルト君、壁に当たったが釣り針に引っ掛かった状態でぶら下がっている。

釣り針には糸が付いており、その糸の先は長竿に繋がっていた。


そしてその竿を振るっているのは、冷たい目をした一羽の雪ウサギ。

その目は間違いなくスナイパーの目だ。


「……………」


彼はまるで竿を銃を構えるように扱い、器用にモルト君を手繰り寄せていた。


果たして、可愛い姿に冷酷無比に見えるその瞳を持つこの雪ウサギ、彼?は一体何者なのだろうか。


ふと、その傍らに停車するのは大型トラック。

そう、先ほどモルト君がぶつかった壁は、このトラックの銀色の車体だったのだ。


完全に丘に上がった魚状態のモルト君。

針に引っ掛けられたまま、脱力感でゆらゆらと揺れるしかない。


その揺れた先、ようやく気がついたモルト君。

その目に映るのは、冷酷な目を持つアンバランスな雪ウサギ。



「き、君は、G13?!」


モルト君は、彼の正体を知っていた。

彼の名前はG13(ジーサーティ)


妖精印ビールの運搬係にして大型トラックの運転手。

そしてスナイパーを自称する、只の雪ウサギである。


こうしてモルト君は愛でたく、元の鞘(妖精印ビール会社)に収まったのであった。




その後、皇国エールは再び人々に懐かしのビールとして認知され、妖精印と共に末永く人々に愛されたという。


メデタシ

メデタシ









はて?誰か忘れている気がするが……。

多分、気のせいだろう。


皇国エール繁盛記、これにて無事終了と相成りました。

皆様、ご静聴有り難う御座いました。


なお、面白い、と思ってくれた方は是非に星を頂きたく、今後の執筆の励みになりますれば、何卒宜しくお願い致しまする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ