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第80話 プロジェクト▪雪ウサギ8

◆ナレーター視点

(バッグミュージック▪地上の雪ウサギ▪作詞作曲▪中島雪ウサギ)


「そ、その………瓶でビジネスをしようとしてました……」


「やっぱり!」


レサが腕組みしてハンス氏を見下ろし、彼はその威圧に耐え兼ね床に正座した。

大の大人が10歳の少女に見下されている姿は何とも情けない。



「どういう事何ですか?」


さっぱり訳が分からないモルト君。

理由を知りたいと、懇願する様にレサを見上げる。

レサは勝ち誇った様にハンスを指を差し、鼻息荒く声を上げた。


「モルト君、ハンスはね。空の瓶を転売しようとしたのよ!」

「瓶を転売?」


瓶の転売と聞いて、ますます訳が分からないモルト君。

ビール空瓶は工房が引き取る際、店や個人に回収の促進とその労力の対価として、2本で小銅貨一枚を予定していた。

これは、日本における価値観をそのまま踏襲したもの。

日本なら1本五円程度、ビールケースでも200円だったので、皇国の最低貨幣価値基準、2本で小銅貨一枚としたのだ。

(小銅貨10円と判定。これが皇国における最小貨幣で小銅貨を分ける事が出来ない為、2本単位の引き取りとした)


ようは回収の労力に対してのリターンが余りに少なく、回収業としての就労を防ぐ意味もあった。

しかし、そうした日本の価値観は、カーナやモルト君の知らない皇国の価値に気付きようがなかった。


モルト君やカーナが知らない皇国の価値観。

それは………


「ビール瓶自体の価値が高いからよ!」

「ええーっ!?」


レサの言葉にヘルメットが七色に変わり、感情の起伏を自在にメットで表現しているモルト君。

中々に器用なヘルメットだ。


因みにカーナは、未だにチクチクやっている。

結構、悪戦苦闘しているようで、手は絆創膏だらけである。

謎だ。




脱線したが、皇国でガラス製品は高級品である。

もう一度言おう。

【ガラス製品は高級品である】


皇国に限らず、この世界におけるガラスの価値は、宝飾品に近い価値観になる。

理由は様々あるようだが、ガラス製品を作る工房が小規模で加工技術が未熟。

量産化へのハードルが高く、巧みな造形を作る職人も限られるなどで、高級品との位置付けになっていたのだ。

回収出来ないのは当たり前である。


「あーっ、何となく、こうなるような気がしたのよねぇ」

「一体、ビール瓶はいくらになるんです?」

「それは、そこに正座してる人が詳しいわよ!」


モルト君の問いに、今だ正座しているハンス氏に目線を向けるレサ。

レサの言葉を受けて、モルト君に顔を上げたハンス氏。

ここでビール瓶の真の価値が明らかになる。



「………貴重なガラス製品であの造形。比較対象が貴族専用の物になるだけに、大銅貨(千円)以上でしょうか。下手をしたら小銀貨(一万円)並みになるかも知れません」


なんと、中身のエールを中銅貨五枚(五百円)で売るつもりが、その入れ物の方が倍から10倍以上の価値があるというのだ。

ビール瓶が戻らないわけである。




チクチクチク

「これだと中身より入れ物だよね。何だか本末転倒?」


何故か、布団を縫っているカーナの独り言が工房内に響き渡り、皆が一様にカーナの方を見てドキッとする。

まるで心の中を見透かされた様な気になったからだ。



「ん?何???」


お惚け顔のカーナ。

皆の視線を敏感に感じ顔を上げる。

その顔から、何も考え無しに出た独り言と分かり、レサ達にナイナイアピールされて再び針仕事に没頭する。

もはやカーナにとって、羽毛布団以外は眼中にないようだ。




取り敢えず三人、もう一度現状把握に努める事にした。


本来皇国エールを支え、皇国国民にその味を再認識させる計画だったのに、これだとお金を付けて販売するリベート販売になってしまう。


「こんなの、皇国エールのやり方じゃない。失敗も同然よ」

「はあ、まさか、ガラス瓶にそんな価値があるなんて盲点でした」

「黙っていて申し訳ない。私も今から心を入れ替え、皇国エールの復権を全力で支えるつもりです」


工房に閉じ籠り、エール作りに没頭するターナー。

羽毛布団作りに目覚め、使い物にならないカーナ。

この二人を置いてけぼりにし、新たにレサ、モルト君、ハンス氏の団結が深まったが、果たしてこれで再スタートが切れるのか。


皇国エール復権は、前途多難である。


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