第63話 事業主
◆神の森
【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】直径50メートル内
皆、反応うっす!?
これは私の演説が面白く無いという事でしょうか。むむ、顧客満足度が低いですね。
森の引きこもりが過ぎましたか。
完全なボギャブラリー不足です。
これではジャパネット▪カーナの運営は厳しそうです。
トークの神様、お願いです。
私にもっとトーク力を!
「えーと、言葉が足りませんでした。モルト君はビール妖精であり、その力でビールの生産量を飛躍的に増やせます。つまり、皆さんのジョッキをワンランク上げても全員にビールを渡せるんです」
あーらら?
雪ウサギとヒューリュリ様のお目目にお星さまが光ます。
きらきらして天の川みたいに輝いてって、皆さん現金でいらっしゃる?
はあ、仕方有馬焼き、いえ、仕方ありません。
所詮、駄犬と怠惰ウサギ。
ケモノは飲み食いで釣るのが一番です。
「ついては、大麦とホップの召喚を私が続けますので、皆さんには効率的な収穫を行い、モルト君のビール工場に運んで下さい。あ、収穫量の多い人?聖獣?順にビールをお配り致します。宜しいですね」
これなら皆さん動くでしょう。
所詮ケモノに講釈は必要ありません。
飼い主は餌さえあげればいいのです。
ん?
駄犬が肉球を上げてます。
ほう、質問があると?
何か偉そうです。
泣き虫駄犬なんですけどねーっ。
『主、確認なのだが、そのビール工場とは何処にあるのだ?』
は?
そうでした。
まだ話だけで、私もモルト君のビール工場を見た訳ではありません。
なんて事。
これでは裏付けのない空手形をバンバン切る人と同じです。
現場確認は商売人の鉄則。
基礎の基礎を忘れてました。
「モルト君、早速、ビール工場を見せてくれる?」
「はい、カーナ様」
モルト君は駆け出すと、麦畑の橫のところに行きました。
そこは何も植えていない空き地です。
立ち止まった彼は、スッと両手を突き出し口を開きます。
何が始まるんでしょうか?
「皆、ボクに力を貸して。カーナ様を喜ばしたい。頑張って美味しいビールを作ろう」
モルト君が誰かに言うと、彼の周りから光る小さな三頭身モルト君達が現れました。
それは地面に降り立ち手を繋ぐと、ミステリーサークルを作ります。
な、何が始まるの!?
『『『『『ベントラー、ベントラー、スペースプラント、ベントラー、ベントラー、スペースプラント、ベントラー……』』』』』
ふぇ?
その三頭身モルト君達、揃って空に唄い出しました。
その姿はまるで宇宙人を呼んでいる様です。
ええっ!まさか本当に宇宙人を呼び出すつもりなんですか。
悪い宇宙人だったらどうしよう?!
ズズンッゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
「な!?」
な、何ですかね、アレ?
突如空の雲が搔き消え、現れた巨大アダムスキー型UFO。
それがどんどん近づいてきます。
まさか着陸体勢!?
本当に宇宙人が?
『『『『『ベントラー、ベントラー、スペースプラント、ベントラー、ベントラー、スペースプラント、ベントラー……』』』』』
そして、再び光になる三頭身モルト君の分身達。
それらが合唱しながら地面に吸い込まれていきます。
ええ!?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
ガコンッ
地面が震動して何かの土台がセリ上ります。
ヒューリュリ様、雪ウサギ達、口を開けたまま、フリーズをしております。
ええ、勿論、私も開いた口が閉じれません。
こっちに来て不思議ちゃんには慣れっこですが、さすがに今回は規模が違います。
その地面からセリ上がった土台にアダムスキー型UFOがピタリと着陸。
なんと、あのアダムスキー型UFOはそのままプラント母屋に早変わり??!
最新鋭のサイロ群とアダムスキーの美しい流線形デザイン母屋。
そして倉庫。
かの日本でも、一歩も二歩も先に行くインテリジェント▪インダストリアルデザインプラントが完成です。
完成まで僅か1分で出来上がりって、インスタントラーメンより早くない!?
はあ、相変わらず物理法則無視の異常現象ですが、ここは目を瞑りましょう。
なんせファンタジーですし。ですし?
さっそく、皆の配置を決めました。
まずはビールプラントで手狭になった【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】の拡張工事です。
モルト君のお陰で気分が良い私は、現在気力が120パーセントです。
○動砲が撃てます。
「《《なので》》、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】の直径を倍に!」
ブワンッ
やりました。
手を前に出して、ぶわっと。
これで直径50メートル→直径100メートルの【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】が完成です。
ええ、面倒な白鳥の湖踊りは無しで。
え?
何でそんな、ケチケチ拡げてるんだって?
実は後で知ったんですが、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】を拡げる力は私の気力と相関関係にあるようなんです。
ようは、持っている気力以上に【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】を拡げると、副作用として激しい頭痛と寒気と倦怠感に襲われます。
確認?
ええ、マイナス気力の時にやりましたよ。
そしたら僅かしか拡張出来なかった上に翌日、先ほどの症状に見舞われました。
苦しくて1日潰れましたね。
はい?
二日酔いと冷え症じゃないかって?
ええ、ええ、ようは持病的なものまで悪化するらしくて最悪なんです。
だから気力100パーセントで倍位が限界で、と、まあ、そういう事でした。
そして、気力100をキープする自体が至難の技、今回はかなりラッキーだったという訳です。
とにかく、事業拡大は計画的にです。
まずはビール会社から。
さて、収穫と生産は皆に任せ、生産計画と今年度収益見込みをグラフ化しましょう。
私はぐるぐるトンボ眼鏡、エンピツ舐め舐め未来収益予測でログハウスに籠ります。
ゼロ発進ですからグラフは右肩上がりと!
よしよし、なんか前世以来のワクワクです。
今日から私は事業主!
従業員給与は現物払い。
森の中なので税金無し。
勿論、日本で事業主が支払う法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税・消費税も無税。
雇用保険も無しでブラック企業まっしぐら。
放漫どんぶり経営でウハウハです。
酷い……




