第62話 モルト君 登場(レベル50)
「チエストーッ!!」
「アウチ!???」
見事、タックルが決まりました。
ラガーマンは、だらしなく地面に沈みます。
不審者に正義の《てっちり》を、ではなく、鉄槌を下してやりました。
そーいえばフグ鍋、食べてないわね。
「このぉ不審者、捕まえたわよ!」
私は不審者の襟首を引き上げると、そのまま締め上げました。
ギリギリギリギリギリギリッ
「わ、た、し、の、ビール、タンク、に、何し、て、ん、の、あ、ん、た!」
「ぐ、る、し、い、で、す、女、王、さ、ま………」
ガクッ
あ、落ちた。
◆◇◆
◆ログハウス
ちゃぶ台
「は?私があんたを産んだ?私、まだ未婚の一歳児よ。産めるわけないじゃない!」
「た、確かに女王様のお声がしたんです。『もっと美味しいビールを沢山飲みたい』って。だから、僕が産まれたんです」
「確かにそんな事を思ったけど、って?思っただけでアンタみたいのが生まれてたら、私が困るんだけど!」
「僕は女王様に望まれて生まれたのじゃなかった?」
「ごめん、私、ラガーマンに知り合い居ないわ」
「そ、そんな……なら僕、は、何の、為に、生まれ、たん、で、しょうか……」
金ピカラガーマンはその場に崩れ落ちると、俯いたまま動きを止めました。
ポタポタポタとヘルメットの隙間から涙が落ちていきます。
私が泣かせたの!?
「ちょ、なんか私が悪者みたいじゃない!」
「す、すみません」
「いや、アンタが謝ってどーするのよ?」
「すいません、すいません」
「だから、謝るんじゃないの!」
「すいません」
「ああ、もう!」
結局、不審なラガーマンの泣き落としに合い、私は彼をログハウスに引き入れる事になりました。
そしてこのラガーマン。
ビール妖精のモルト君だそうです。
ビール妖精?なんじゃそりゃ、です。
詳しく聞き出したら、なんでも私の祈りのような力が働いて生まれてきたとの事。
だから、私が産んだ事になったわけ??
いやいや私の祈りって祈ってないし、むしろビール飲み飲み儲け話に目が眩んだ煩悩しかなかったんだけど?!
ピロンッ
(レベル50を越えました。新スキル、妖精召喚が解放されました)
WHY?ナビちゃん、今何と!?
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名前▪▪▶カーナ▪アイーハ(異世界転生者)
レベル▪▶50(?)
種族▪▪▶花妖精(新種族)
羽根▪▪▶銀色
容姿▪▪▶金髪▪碧眼▪白い肌▪長耳
衣服▪▪▶春のワンピース(淡ピンク)
性別▪▪▶女
年齢▪▪▶1歳(寿命未設定)
身長▪▪▶10cm
体重▪▪▶秘密
バスト▪▶絶壁(成長次第)
ウエスト▶これから(さあ?)
ヒップ▪▶まだまだ(ガンバ)
特技▪▪▶タンバリン応援(?)
スキル▪▶亜空間収納
スキル▪▶言語理解
スキル▪▶銀鱗粉【回復】
スキル▪▶【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】
範囲▪▪◇ ∞ (現在気力値◇97/100◇)
スキル▪▶ログハウス(毎日お煎餅が出るお茶請け皿付きの家)
スキル▪▶ご褒美セット(一日一回)
スキル▪▶テイマー
従魔▪▪◇聖獣フェンリル(個体名ヒューリュリ)◇雪ウサギ(個体名いっぱい……)
スキル▪▶花召喚
召喚可能◇ガーベラ◇チューリップ◇オオイヌノフグリ◇フリージア◇エーデルワイス◇菜の花◇ヒヤシンス◇大根の花◇大根(根)(ぬか漬けセット付)◇向日葵◇お茶の木◇大麦(ビール&パンセット付)◇ホップの木
スキル▪▶妖精召喚
カーナの煩悩が限界突破上限を越えた時、無意識に異界(妖精界)から欲しい妖精を召喚できる。
《煩悩ゲージ:120/100》(煩悩限界突破中)
(次回限界突破上限300)
◇召喚済み妖精▪ビール妖精(モルト君)
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………突っ込みどころ満載でどうしていいか分かりません。
いきなりのレベル50に妖精召喚って何?
いやいやそれは1万歩譲ってヨシとしましょう。(健康歩数じゃないです)
それより煩悩ゲージ《120/100 》(煩悩限界突破中)って何なのよ?
まだ祈りの方が良かったわ!
そもそもこの煩悩ゲージ、100/が煩悩上限よね?
納得出来ないけど、現在値/120で限界突破中なのは判ります。
だけどその限界突破に上限があって、私がその上限を越える煩悩を持った時??に無意識に欲しい妖精を召喚するってスキル……。
ナビちゃん、私をめちゃくちゃディスってる?
ピロンッ
(……………)
待てや。お知らせチャイムしといて無言って、それは肯定よね?!
はあ……なんにしても彼を呼び出したのは私のスキルだったようです。
なら、呼び出した責任が私にあるという事。
彼の面倒を見るのは責務という事なんでしょう。
「わ、わかった、分かったから!泣き止んでくれる?」
「女王、様」
「あと、女王様じゃないから!」
「女王様は女王様です。他になんとお呼びすればよろしいのですか?」
「カーナ、カーナでいいわ」
「カーナ様?」
「様は要らない。カーナでいいわ」
「カーナ……様」
「んん、まあいいわ。其れで?貴方どんな事が出来るの?」
「美味しいビールを造ります。ボクの主な力は酵母コントロール、時短熟成、適温管理、ビールプラント召喚、水召喚です。ビールプラント召喚は、ビールプラントその物を召喚でき、仕込み、蒸留、加熱処理、ビン詰め、梱包までを一貫して行えるオートメーションラインです。また水召喚は、天然水、海洋深層水、温泉水と召喚でき、ビールの仕込みに欠かせません。このビールプラント召喚、水召喚のお陰で、ボクは短期間に大量のビールを生産する事が出来るのです」
「おおーっ、まさにビールの申し子みたい」
「エヘヘ、そ、そうですか?」
「そーだよ、あんた、凄かったんだね。見直したよ」
「じょ、カーナ様に喜んで頂いて、僕も嬉しいです」
モルト君、はにかんでヘルメットが赤く変わりました。
感情でヘルメットの色変わるの!?
よく分からないモルト君です。
うーん、でもビールプラントって、もしかしなくともビール工場そのものだよね?
と、いうことは、商業化のネックだった《生産量を大幅に増やす》って事が可能になる?
モルト君、まさに 黄金の成る木だわ!
ピロンッ
(カネノナルキは、ベンケイソウ科クラッスラ属の多肉植物。正式には、クラッスラ・ポルツラケアといい、 英語ではマネーツリー、ダラープラントなどといい、葉が硬貨に似ているのが名前の由来である)
ああ、そんなの、あったわねって、ちょっと、ナビちゃん!?
またウンチク要らないから。
ま、まあ、いいわ。
これで商業化に一気に突き進む事が出来る。
見てなさい。
必ず工場を打ち上げて地球の周回軌道に乗せてみせるわじゃなく、ビール量産化を軌道にのせてみせるわ。
そして沢山お金を貯めるの。
で、誰がなんと言おうとこの森を出て、世界を巡る海外ツアーにいくのよ!
海外旅行、海外旅行、海外旅行!!
ピロンッ
(煩悩ゲージが130に上りました)
煩悩上がった?!
いや、高血圧じゃないんだから。
◆◇◆
◆翌日
「と言うわけで、ビール妖精のモルト君でーす。拍手ーっパチパチパチッ」
ポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッ
ん、肉球だから音が違いまね。
ですが叩いてる怠惰ウサギ、駄犬、共に何やら無表情です。
何も考えてないですね。
『で、主、其奴がどうだと言うのだ?』
「ウフフ【聞いて驚け】です。なんとモルト君は私が召喚したビール妖精なのです!」
決まった!
私は鼻高々に胸をはります。
皆の衆、私に感謝せよ、おーほ、ほ、ほ。
あれ?
何か雰囲気が変わりませんね。
皆さん、首を傾げております。
シラ~ッとした空気が辺りを包みます。
なんで?




