第61話 家政婦は見ていました。
まったく、なんでそこまで反対するかな!
あれから、ハンスさんに偽造パスポートを要求、じゃなく、ハンスさんと諸外国を回る話しは、お釈迦になりました。
理由は下僕達の反乱、クーデターです。
え?分からない?
なら、言い直しますね。
駄犬と怠惰ウサギ達による、反トラスト運動です。
ええ?もっと分からない?
はい、ナビちゃんどうぞ。
ピロンッ
(19世紀後半の独占資本の急激な発展に対し1870年の農業恐慌を契機に西部の農民から独占反対運動が起こり東部の商工業者も参加した的なものです)
だそうです。
全然分からない?
ですよね、ごめんなさい。
ようは、ハンスさんと言う黒船に私が懐柔され、皆をタダ働きさせた挙げ句、西洋かぶれ的なナントカで、皆を置いてどっかいくのは許さないぞーっみたいです。
はい、そんな事で、急速な資本主義導入は原住民からの過度な反発を招いたと。
はい?サッパリ分からなかったと!?
まあ、いいです。
とにかくハンスさんを引き込んで、妖精印のビール販売に漕ぎ着けようとしたんだけど、考えてみたら、私のビール製造セットだと、自家製ビールの量しか作れなかった事に気付き、オーマイゴットしてたんです。
なにしろ今の量では、雪ウサギだけで中ジョッキ一杯分が行き渡らず、ブーイングをかまされている最中。
仕方なく小ジョッキに格下げしてもらい、さらにヒューリュリ様を小ジョッキからグラスに格下げしても足りません。ピロン(鬼畜)
私?無論、大ジョッキのままですが?
何か?
そんなこんなで、商業ビールを始めますと宣言したら、先の反トラスト運動です。
なんでやねん?
けれど、ここに救世主登場です。
「それでですね、いきなり新キャラ紹介、じゃじゃじゃじゃーん」
『主、新キャラとはなんだ?』
『『『『『『女王様!?ソイツ、中ジョッキ、配ッテタ 親切者》!!』』』』』』
「は!?雪ウサギに中ジョッキ渡したの、アンタだったの?モルト君!」
「は、はい。皆様、改めまして。只今、カーナ様にご紹介いただいたモルトといいます。どうぞ、宜しくお願い致します」
私の紹介に、丁寧にお辞儀するモルト君。
容姿は、殆んどアメフトのラガーマン。
金色ヘルメットにショルダーパッド、グローブやシューズを装備して、完全武装しております。
おまけに背中から生えるトンボ羽根はアンバランスで、背丈も私くらいしかありません。
いやアンタ、どこのチームだよ?ではなく、何者だよって言ったのは昨夜の事。
▩▩▩
◆前日にバックトゥーザF?
私とハンスさんがビール商売の話しで意気投合。
ハンスさんをログハウスに招き、お茶のコップ片手に鬼煎餅パーティー。
二人で様々な国にビールを売りに行く夢を話していました。
「それで聞いて下さる?ハンスさん」
「は、はい。なんでしょう、カーナ様?」
「駄犬と怠惰ウサギが自分等の飲み代を削れないと主張して、ビールの商業化をボイコットして困ってるの」
「駄犬?怠惰ウサギ??はあ、では諦めますか?」
「いやいや、諦めきれないから相談してるんじゃない」
「なら、生産量を増やすしかないのでは?」
「それが出来ないから相談しているのよ」
私達はヒューリュリ様と雪ウサギ達から、自分等の飲む分は《《譲れない》》宣言をされ衝撃を受けていたのです。
まあそれ以前に、彼らは私が森を離れ国々を回る事に大反対だったんですけどね。
過保護過ぎない?
なので先に《お茶と鬼煎餅を商業化》の話しも出たのだけれど、鬼煎餅は茶請けに出てくる仕組みが分かりませんし、生産量が確保できる見通しも分かりません。
お茶は可能性あるけど、労働力を反スト中の雪ウサギ達に頼っている為、彼らとの協議が必要です。
結局結論は出ず、ハンスさんにオルデアンちゃんのピチピチプリンの箱を渡して一端、帰ってもらいました。(1個抜き)
当然、私の海外ツアーもお流れです。
しくしく。
▩▩▩
◆その夜
次のビールの仕込みをしてビールタンクを離れ、ログハウスに戻った私。
お風呂上がりに、お茶と鬼煎餅をやっていると、何やらビールタンクの辺りが金色に輝いてるではありませんか!?
私は恐る恐るビールタンクに近づきました。ええ、確かに近よったんです。
すると、せっせっと動き回っている人影を、ええ、発見してしまいました。
私くらいの大きさでした。
気づいた私は、抜き足差し足でログハウスを抜け出し、草葉の陰から観察する事にしました。(幽霊じゃないよ)
はい、しっかりと見ていました。
家政婦は見ていました。
火曜サスです。
しばらく見ていると、その人影はラガーマンである事がわかりました。
は!!?
何故にラガーマン?
いやいや意味不明でしょ、ラガーマン!?
ポウッ
『美味しくなあれ、美味しくなあれ』
何をしているのですかね、あれは?
どう見ても不法侵入の不審人物ですが、そのラガーマンがビールタンクに手を当てて何かやっています。
聴こえました。
唱えている内容は、某子供向けアニメに出てくるママレードおじさんと同じです。
あれ?ジャム?バター?
とにかくパンに塗るやつ?
そんなのはどーでもいい?はい。
ですが問題はその手です。
そのかざした手が金色に光っているのです。
は?何を勝手に私の大事なビールタンクにやらかしている訳?!
その瞬間私は、ラガーマンにタックルをかましていました。
「チエストーッ!!」
ドカッ
「アウチ!???」




