幕間
ザッザッザッザッザッザッ
ザクザクザクザクザクザクザクザクッ
とある森の中、雪の中を進む一団があった。
それは先ほどまでカーナ達の居た【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】のすぐ近くまで現れ、毒で瀕死のオルデアン姫の侍女、テリアを捨て置いた件の盗賊風集団である。
雪原をテータニアの国境に向け進む彼ら。
途中、集団を率いていた指導者に従者らしき人物が近寄り耳打ちした。
「ガバルト様、皇国近衛の足止めに向かわせた部隊が未だ戻りません。返り討ちにあった可能性があります」
従者の言葉は異風の指導者の気分を著しく害したようで、彼は眉間に深いシワを作った。
「……数年がかりで立てた計画だったが、結局、失敗したという事か。今回の襲撃で皇国も春の大祭の警備を厚くするだろう。二度目は難しいな」
「は、ですが、我が国の辺境にとある一族を見つけました。魔法とは違う《《呪術》》という独自の奇跡を会得する部族です。うまく活用すればテータニア皇都の結界を掻い潜り、更にはダンジョン攻略の強力な力になるやも知れませぬ」
「ほう?詳しく話せ」
「はは!」
部下の持ち出した情報に聞き耳を立て、僅かに眉を動かしたガバルト。
その内容は彼の興味を著しく引く内容だった様である。
「いいだろう。お前の思う通り進めるがいい。それで結界を越えるだけでも十分だ」
「は、畏まりました」
新たな陰謀の予感しかしない二人の会話。
果たして彼らは、テータニア皇国にとって更なる厄災の元になるのか。
カーナ達がまた巻き込まれていくのか。
未来は神のみぞ知るところである。
◆◇◇◇
そして同時刻。
その遥か反対方向、テータニア皇国の皇都に向かう街道を慎重に進む一行がある。
カーナが助けた皇国の姫、オルデアンと護衛のアルタクス、そして侍女テリアであった。
「あ、アルタクス!皇都の城壁が見えるわ。私達、やっと帰ってこれたのね!」
「はい、そうですね姫様」
「姫様、身を乗り出しては危のう御座います!」
「テリア、大丈夫よ!お父様、お母様、お兄様に早くお会いしなければならないの。カーナ様との出会いを早くお伝えしたいわ。きっと驚くと思うの。だって伝説の妖精に出逢えた訳だし、それにカーナ様は皇国の守り神、スプリング・エフェメラル様に違いないのだから。きっと皆が喜ぶと思うわ!」
アルタクス達はカーナ達と別れた後、神の森近くの村で何とか二頭の馬を手に入れた。
一頭にはオルデアンを乗せ、アルタクスが手綱を握る。
もう一頭は、乗馬経験のあった侍女テリアが単独で馬に乗る事で、ここまで来る事が出来たのである。
「……………」
無邪気にはしゃぐオルデアン姫。
その様子を見守る侍女テリアは、実は複雑な心境の渦中にあった。
この場で彼女の心に気づける者は居なかったが、カーナとの出会いはテリアにとって、吉報だけではなかったようだ。
何が彼女をそうさせているのか。
それは、彼女の心の深層に触れなければ、何人も分からない事なのかも知れない。
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◉テータニア皇国神聖伝承
世界は創造神(世界の神とも言う)ラーデ▪アテーナ神により作り出された。
創造神は海を作り、次に大陸を、動物を、最後に人間をお造りになられた。
神は自身が造りし世界に満足し、造り出した全ての生き物に祝福を与え愛でた。
だがある時、創造神ラーデ▪アテーナは人間の心無い行いに絶望しお隠れになられた。
それを知った心ある人々は、神が世界を見捨てたと深い絶望に落ちていく。
やがて、神に見捨てられた世界は徐々に冷え、雪と氷の大地と化した。
花は消え森は凍り、動物は数を減らして有害な魔獣が増えた。
作物は育たず人々は飢え、住む場所を追われた。
そうして全ての人間が絶望したとき、それに憂いた力ある妖精が人々の住む場所を作った。
それが【春の結界】であり、皇国全体を雪と氷から無縁の大地とした大魔法である。
これを作った妖精を人間達は称え、その妖精を新しい神とした。
【スプリング▪エフェメラル】
それが春の結界魔法を伝承し、人間達の新しい信仰となった神の名前である。




