第337話 ダンジョン異空間2(質問)
◆ダンジョン異空間
ナレーター視点
「あの、質問いいですか?」『きゅっ、きゅいきゅいっ?』
「あーソコの人間?誰が質問していいって言ったか?って、そこな雪ウサギも何故に同時に喋る???」
「この子が質問してって言いました」『|きゅいきゅいきゅいーっ《極楽ゴクラク》!』
「は!?⋯⋯⋯⋯⋯」
黒ドレス妖精少女は眉間にシワを寄せた。
彼女が眉間にシワを寄せたのは軍服を着た女が許可していないのに質問してきた事ではない。
軍服女が飼っている雪ウサギの言葉を代弁して言ったからである。
何故そう思ったのか?
それは黒ドレス妖精少女が雪ウサギ語を分かるからで、それによればその代弁は勝手な軍服女の思い込みであり、実際の雪ウサギはそんな事を言っているわけでは無いのは丸分かりであった。
だが妖精少女の眉間のシワは、それが理由ではない。
その理由は、軍服女の胸元に潜り込んでいる雪ウサギにあったからだ。
軍服女の胸元にいる雪ウサギは常時顔が《悦》になっているのだ。
それは正直いって不気味である。
しかも軍服女は、そんな不気味な雪ウサギを平気で胸元に収めている。
その二人羽織のような二人(一人と一羽?)の姿に、その存在自体が黒ドレス妖精少女には理解しがたいものだったのである。
(何?この軍服女と雪ウサギ!?意味が分わかんない。雪ウサギの代弁はどうでもいいけど、問題なのは常時《悦顔》の雪ウサギよ。ゴクラク、ゴクラクってしか言ってないし変過ぎて恐怖すら感じるんだけど。引くわーっ)
本来なら黒ドレス妖精少女にとって聖獣雪ウサギは自在に操れる部下のようなもの。
彼女の力が作用し、沢山の雪ウサギ達を眷属化する事が出来るのだ。
しかし雪ウサギは強い絆が出来た者がある場合、その者に強く感化されて彼女の支配を受け付けなくなってしまう。
彼女の支配が及ばない雪ウサギを胸元に飼っている?異常制服女と、その女に訳の分からない感化をしてしまって終始《悦顔》の雪ウサギが不気味でドン引きするしかない。
「だから質問させて下さい」『きゅいきゅいきゅいきゅいーい』
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
怖すぎる。
いったい何を質問してくるのだろうか。
そもそも拘束されているのに制服女は何事も無かった様に目をキラキラさせて此方を見ている。
他のメンバーは拘束に憔悴してる感じが出ているのに、むしろワクワクしてる様にも感じるのだ。
全く訳が分からない。
「分かった。質問していい⋯⋯⋯」
「まあ!有り難う御座います。まずは私はメイ・オーガスタ、この子はテトと申します」『きゅいきゅいきゅいきゅきゅきゅい』
結局、制服女に質問を譲歩せざるを得なかった。
制服女は自身と雪ウサギの紹介をすると、引き続き話を続けた。
「では質問です。双子の妹さんいますか?」『きゅいきゅいきゅいきゅ?』
「居ない。私は双子じゃない」
「そうなんですね?私の知り合いにソックリなので姉妹なのかと思いました」『きゅいきゅいきゅきゅきゅきゅいい』
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」ピクッ
その言葉に妖精少女の眉が反応した。
彼女は言葉で否定したが、どうやら思い当たる事があるようだ。
少なくともメイ・オーガスタの質問は彼女に何らかの変化をもたらしたようである。
『我も質問したい。アナタ様は妖精女王の直系であるとの理解でよいのか?そうだとして、何故に女王の友人であり神の森の守護者たる我まで拘束するのか?我は聖獣フェンリルであり、あらゆる聖獣と妖精族を守護する者。疑わしいところは一切無いのだ』
そこに痺れを切らしたヒューリュリが彼女に質問した。
ヒューリュリは黒ドレス妖精少女にずっと質問したかったのだが、制服女とその胸元のテトに先を越されていただけである。
それに人間用のシートにベルトで無理やり固定されてるのは不本意。
せめてフェンリル用シートにして欲しいとか、どうでもいい事を思ってたりする、今日この頃のヒューリュリである。
「聖獣フェンリルだと?貴様、ただの犬ではないのか?何故に人間共と行動を共にしていた?」
『う、それは成り行きに過ぎぬ。小奴らは我が主が可愛がるペットのようなもの。ならば主の所有物を守るのは当然の事なのだ』
黒ドレス妖精少女はだらしなく後ろ足を前に出し、でっぷりとしたお腹をシートベルトに拘束されて苦しそうにしているヒューリュリを疑いの目で見下ろした。
彼女は信じられなかったのだ。
見るからにデップリと出た下腹をかかえる犬だか狼だか分からぬ生き物。
それが自身をフェンリルだと言っている。
あの最後まで人間達に抵抗し今も孤高の神の森守護者であり続けているであろう聖獣フェンリルがこんな情けない姿だと?
彼女には《ソレ》が聖獣フェンリルとは、全く思えなかったのである。




