第330話 昔の神の森18(話し合い?)
◆幻影・昔の神の森
アルタクス視点
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⚫1300年前
◆ラベンダー王国側
神の森の奥地・妖精の泉付近
ゴオアッ
バタンッバタバタバタバタバタッバタバタッ
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
「「「ぐあっ!」」」
「「「「「「ああああ???!」」」」」」
その途端である。
目の前の少女?から溢れる圧倒的な魔力圧。
それは強い敵意をむき出しにして侯爵達を森の地面に押さえつけたのである。
頭ごなしに見えない力で地べたに押し付けられた侯爵達。
この時、ラベンダー王国軍百人余り全員は完全に身動き出来ない状態であった。
(『人間共よ。妾が妖精女王と知って何とする。話しをしたいと言ったか?どの面で話し合いが出来ると思うたか。お前達は妾と人間との間で交わされた盟約を破り神の森を侵した。しかも森の回りで禁じた聖獣を狩り捨てた。そしてそれに飽き足らずに我が同胞を捉えこの妖精国に土足で踏み込んだ。このような狼藉を働いたお前達が妾と何の話しをしたいと言うか。罪人共め!』)
部隊長は後悔した。
圧倒的な力の差。
同行させた宮廷魔法師の防御術式はただの一瞬も効果は無かった。
やはり神と崇められた方だけの事はある。
多少の戦略や武力の誇示など、彼女の前では最初から意味を持たなかったのである。
(やはり神たる彼女に我ら人間が交渉出来るはずも無かったのだ)
今回の侵攻は同行者のミゲル達が好き勝手にやった事とはいえ、結果として侯爵とラベンダー王国が主導した事は間違いなく、何の申開きも出来ない。
このままでは話しすら聞いて貰えず、それどころか侵攻部隊はもとより、ラベンダー王国すら彼女の怒りに晒され滅亡する事になるだろう。
最悪の未来を想像した侯爵、絶望の色が濃くなっていた。
シュンッ
ザクッ
(「何!?」)
その時である。
圧倒的な魔力による威圧で全ての人間達が平伏していると思われた状況。
ここに動ける人間がいるなど、侯爵はもちろん妖精女王すら理解出来なかっただろう。
そんな中森の一角から放たれた矢は、誰の意識にも認識される事もなく一瞬の内に妖精女王を襲ったのである。
彼女が痛みに気付いた時、それは既に彼女の肩に深々と刺さっていたのであった。
宮廷魔法師ラクネス「は!?ああ??」
侯爵「か、身体が、動く??」
ザワザワザワッ
兵士達「「「「「「「「おお!」」」」」」」」
それと同時に拘束解かれる侯爵と兵士達。
思い思いに立ち上がり五体満足を確認する。
この時点で拘束が解かれた理由が分からなかった侯爵だが、妖精女王に許されるはずが無いと思いつつも御慈悲でもあったのかと期待しつつ目線を女王に向けて愕然する。
彼女は苦悶の中俯き座り込んでいたのだ。
その肩からは真っ赤な赤い血が滴り落ちていた。
「こ、これは何故の⋯⋯⋯?」
状況が分からない混乱の中、目の前の彼女は負傷する肩に手を当てながら誰も居ない森の片隅を鋭く睨んでいる。
『おのれ魔力がまともに循環せぬ!貴様、妾に何をした!?』
「クックックッ、流石だ。魔力を完全に隠遁し姿までも見えなくする。《陰影マント》を見破るとは、やっぱりコイツはとんでもない魔物だぜ」
誰も居ないはずの場所に恨み節で質問する彼女。
すると男の声が響いて、何の変哲も無い森の景色が蜃気楼のようにユラリと揺らいで一変する。
揺らぎが収束して現れたのは渋めの黒いマント。
その中から顔を出したのは狩人であるミゲルとギドだ。
それに目を見張る侯爵。
そういえば途中から二人の姿が見えなかった。
後方に下がってたのかと思っていたが、姿を消す魔道具だろうマントに隠れていたとは!
それはつまり侯爵達ラベンダー王国軍を囮にして妖精女王の耳目を逸らし、彼女の死角から矢を打つ為に事前に移動していた事に他ならなかった。
それに気づいた彼は内心憤りを隠せなかったが、結果として部隊は妖精女王の拘束から解き放たれたのである。
そこは理解したのだが、その結果がこの修羅場。
果たしてまともに彼女と話しが出来るのか、この先の展開に頭を抱えた侯爵であった。




