第327話 昔の神の森15(道具)
◆幻影・昔の神の森
アルタクス視点
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⚫1300年前
◆ラベンダー王国側
神の森の奥地・妖精の泉付近
バサァ
『『『わああ〜ん?!』』』
「フハハハ、大漁大漁だぜ、最高だ!ギド、どうだ?」
妖精は見た目の幼子の感性そのものの様だ。
彼女らは兵士達が驚き見る中、その目の前まで近寄って人間達を観察していた。
そしてそこに投げられた投げ網。
人間達に大勢で近寄っていたのが仇となった。
「こっちも中々だ。それに兵士達も何匹か捕まえたみたいだな」
「チッたったの何匹かよ!?これだから素人は」
「予備の投げ網が20しか用意して無かった。残りの兵士は見物だ」
「だから何で20も渡して数匹なんだよ?俺達はその数倍も捕れたじゃねーか!たくよう。コイツらを当てにするんじゃなかったぜ」
付け焼き刃で兵士に渡した投げ網。
それを見様見真似で投げさせたミゲル達。
手数が足らないからと部隊長に無理を言って兵士達にやらせが、上手くいかなかったようだ。
下手なのは当たり前だが、ミゲル達に手数が足らないのは理由がある。
ミゲル達の仲間は今回の作戦で神の森全体に散って様々な工作をやったのだ。
その為にラベンダー王国軍本隊に同行できたのはミゲルとギドの二人だけ。
その為の苦肉の策だが、兵士達では数匹捕らえるのが精一杯で、妖精の大半は危機を感じて森の中に逃げ込んだようだ。
それでも10数匹?の妖精の確保に成功した。
「チッ、だいぶ逃げられた」
「仕方ない。それで側近は捕れたのか?」
「ああ、多分コイツらだ」
「ほう?妖精女王と同じ蝶の羽根か。間違いねーな。おい、侯爵は何処だ?今後の予定を話しときたいんだがよ」
狩りの成果を確認して目的を達したと喜ぶミゲル。
直ぐに次の計画に入るべく、部隊責任者である侯爵を捜した。
「後ろだ。そこに座り込んでる」
「あ?何腑抜けてんだ、コイツは?」
「さあ?俺達のあまりの妖精狩りさばきに感動したとか?」
「んな事あるか。それより妖精女王が出てこないんだがどうする」
「たぶん仲間の計画のせいだろう。あいつら、容赦ないからな」
「そうか。白き悪魔も上手くいってるみたいだし成果も上々だ。もう帰ってもいいくらいだぜ」
「それは駄目だ。約束は果たす」
「律儀なやつだ。性分か」
「なんとでも言え。ほら、そろそろ侯爵様に起きてもらおう。色々背負い込んでもらうんだから」
「可哀想に。と、まだどうなるかは分からねぇ。俺達も引き締めないとな」
ミゲルとギドは、自分達の仕事は既に終わり次は侯爵の番だと言わんばかりに彼の方に視線を向けた。
その部隊長は、何故か座り込んで呆けていた。
自身の葛藤に押しつぶされたのかも知れない。
ミゲルが側近兵士に声掛けし、部下の兵士達に抱え上げられて我に返ったようだ。
「う、あ?」
「あー部隊長、気付いたか。大丈夫かよ?」
ミゲルに声を掛けられ、自身の状況にやっと冷静になる部隊長。
それでも何かに気づいたようで、ミゲルを指差して口を開く。
「お前、その腰元はどうした?」
「何だ、腰元だと?」
「怪我をしているぞ。気づかないのか?!」
「?」
起き上がりざまにミゲルの腰元を指差す侯爵。
彼はいったい何が気になっているのだろうか?
ミゲルは慌てるように自身の腰元に手を当てた。
するとベットリと何かがミゲルの手に付いている。
それは赤い、間違いなく赤い血のりだ。
そう、ミゲルの腰元から赤い血が染み出していたのである。
「あ、ああ、道具が尽きたようだ。怪我じゃないから安心してくれ」
「道具だと?」
「ああ道具だ。道具が駄目になった。新しいのが手に入ったから問題ないがな」
「籠?」
ミゲルの服の下から出てきたのは小さな虫籠の様なもの。
そこから血が滴り落ちていた。
「何に使った道具なのだ?」
「はあ、まあアンタにも言っとくか。さっき森の中で結界を通り抜けただろう?ありゃあ妖精女王の許可がなけりゃ絶対通り抜けできない代物なんだ。人間の魔法なんて目じゃねぇ。妖精女王の独自結界なんだぜ」
「ならば何故に通れた?そうか、お前達は妖精女王に許可を貰っていたのか」
「いやぁ?アレが人間に許可を出す訳がないだろうが。許可を持っていたのはこの道具だ」
「道具が許可を持っている??」
部隊長は、ミゲルの言っている事の意味が分からなかった。
道具に結界通過の許可を与えるという言葉だ。
道具自体が結界通過の鍵のような物なら、道具に結界通過の《許可を与える》という言い方はしない。
「つまりだ。俺が道具と言ったのは言葉のあやで、この籠の中に妖精女王から通過の許可を貰った者がいたわけだ」
淡々と話すミゲルに侯爵は悪寒を覚えた。
それは彼に、ミゲルがこれから話す事が何となく分かってしまったからである。
そしてそれは、これまで侯爵が耳にしていた教会の教えや人道的道徳感の全てを根底から覆す事になるのであった。




