第325話 昔の神の森13(結界技術について3)
◆幻影・昔の神の森
アルタクス視点
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⚫1300年前
◆ラベンダー王国側
神の森の奥地・妖精の泉付近
⚫解説
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妖精女王が結界技術を人間に授けて100年余り。
その技術の運用は人間達と寒冷化の戦いの要であったが、提供した妖精女王の考えはともかく、その技術は人間達の望むものとはかけ離れたものであった。
寒冷化は100年かけて大陸全土に波及した。
それに合わせて結界技術が使用されたが、それは人間の需要に追いついていなかった。
当時各国の為政者達は結界技術の改良を指示したが、その改良は遅々として進まず国家の盛衰を左右する状況に追い込まれた。
その理由は国土に対して結界規模が小さかった事と、多数化の運用コストが高く食糧増産に影響した事だ。
結果、本格化した寒冷化に初期に飲み込まれた北部国家の殆どは、結界技術そのものが間に合わずに瓦解。
大陸中央は結界技術の改良が進まず一部の都市の規模に国家を集約。
小さな都市国家として細々と生き永らえているのが現状である。
そして最も遅く寒冷化が到達した南部国家は、流入する北部、中央からの難民に手を焼きながら未だ、結界改良に尽力しているのが実状だ。
増えた国民の為に食糧増産が急務で、農場の結界化は優先して取組まれた。
しかし魔石と魔力充填要員の確保が問題で、多少の荒事で難民に魔力充填の義務を受け入れ条件にするなど事故に繋がる案件が多々発生。
人々の反感は為政者に向かう事になる。
どちらにせよ結界技術の改良は喫緊の課題。
結界技術の安定した《大規模化》。
もしくは《魔石や魔力消費の省力化》。
これが達成されない限り、このままでは何れ北部中央のように国家規模を保てなくなる。
ラベンダー王の焦りは、こうした危機を反映したものだったと云えるだろう。
※※※※
ザッザッザッザッザッザッ
遂に南部に到達した寒冷化は今年初めてラベンダー王国に雪を降らせた。
雪は隣接するテータニア皇国や神の森にも降雪し、積雪は数センチになった。
当然ながら国の象徴たるラベンダーの花は色褪せ、かなりの面積で枯れてしまった。
最早我が国にも余り時間は残されていない。
無理な多数結界の運用を継続しつつも、人間の手に余る結界技術の改良を妖精女王もしくはその後継者に直談判するのだ。
それしかラベンダー王国が生き残る方法はない。
だからこその神の森侵攻。
だからこその禁忌違反。
そこまでは分かる、いや、分かりたかった。
部隊長はそんな事を頭に巡らせながら、今の自身の行動を肯定しつつ神の森深部に足を進めるのである。
「あー部隊長さん、いや侯爵さまか?」
「何だ?」
先頭を歩く案内人のミゲルが何気に振り返って話掛けてきた。
何か起きたのかとその前方を見るが、特に先ほどと変わらない森の風景が続いている。
相変わらず馴れ馴れしく無礼に話掛けるミゲルに、訝しく思いながらも案内人である男に仕方なく応えるしかない。
そう葛藤しながら口を開く部隊長。
「アンタ、虫を捕まるのは得意か?」
「は?」
何だ、その質問は?!
部隊長は一瞬その思考を止めた。
この男は何を言っているんだ?
そう思いながらミゲルに顔を向ける部隊長。
男はニヤリと笑い、手を振りつつゼスチャーした。
「手前に飛んできたら立て方向にこうだ、さもないと横から逃げられる。それに力加減は立て方向がベストだ。スピードも上がる。分かるか?」
「先ほどから何だ?訳の分からん事を説明されても余計に分からんだけだ。最初からちゃんと説明しろ」
「チッこれだからお偉方は頭が固くて駄目だ。アンタに狩りのやり方を説いてんだよ」
「何を」
「いいか?真っ先に狙うのは妖精女王の側近だ。いわゆる奴の一番のお気に入りだ。それさえ捕まえてしまえば後はコッチの思い通りになる」
「?!」
その時、部隊長はミゲルが何を言っているのか分からなかった。
そう、分かりたく無かったのである。




