第324話 昔の神の森12(結界技術について2)
◆幻影・昔の神の森
アルタクス視点
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⚫1300年前
◆ラベンダー王国側
神の森の奥地・妖精の泉付近
⚫解説
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魔力充填▶魔力充填とは魔石に魔力を注ぐ、充填するという意味である。
基本、この世界には魔素と呼ばれるエネルギーが大気中に存在するが、それは形を変えて物理現象を引き起こす。
魔素は酸素などに特性が似ていて、酸素が様々な元素と結び付いて個体に変化を与える(酸化など)のに対し、魔素は主に生命体に結び付いて物理現象に作用する。
生命体に取り込まれた魔素は生命体が無意識に使える力となる。
これが魔素が生命体と結びついた魔力と呼ばれるもので、この世界の全ての生命体の基礎体力の様な形で存在し、通常は生命体の生命維持に無意識に消費され、寿命等に関わっているとされる。
つまり魔力は生命体しか持つ事出来ず、自然界には存在しない。
そして魔石は魔物や魔獣など人間以外に形成され、魔力を蓄える元となっている。
魔物や魔獣が魔石を形成し魔力を蓄える理由は定かではないが、個体固有の生命維持や能力に起因するものと信じられている。
そして魔力は、人間間では体温を移すイメージで意識的譲渡が可能である事が分かっており、同じ作業で魔石への魔力充填も可能となっていて一般常識となって久しい。
病気の子供の為に体力を分け与えて助ける為、自身の魔力を与える行為は本能的なもの。
また魔石の運用は古くから行われており、魔石ランプなど簡単な魔道具は既に庶民の手元にもあって一般常識となっている。
このように魔石と魔力は既に様々な魔道具を生み出す土壌となっており、魔力充填自体も一般常識となっているのである。
こうした人間社会の一般概念に基づき妖精女王が結界技術を開発した事は至極当たり前だったとも云えるだろう。
とにかくこうした背景の中で妖精女王が提供した結界技術は運用側に配慮出来る完成度があった。
が、其れだけに運用限界に到達するのも早かったという事でもあった。
基本的に《環境の温室化》を目的にしたのが結界技術の本質であり、その技術の根本は《冷気を反発する》ものだった。
これは単純な仕組みだが、内部に有害な気体が存在した場合は排出されなければならない。
だから結界は冷気にだけに反応する仕組みになっているようだ。
つまり結界内の範囲では温度を20度前後に保つようになっており、外気がどれ程冷気が強くなってもこれは変わらないようだ。
そして変わらないのは結界範囲も同じ。
結界範囲は9900㎡。
結界魔法陣を中央に円を描くように起動する。
また、魔力を充填した魔石が結界魔法陣の起動に欠かせないが、結界魔法を起動した魔石はその後壊れて使えない。
魔道具に使った魔石がある程度の魔力再充填で使用出来るのに対し、結界魔法陣に使用した魔石はほぼ連続使用される為、限界まで使われるという意味。
魔石にもよるが一般魔石で1〜3ヶ月、特殊個体の大きな魔石でも最大で6ヶ月の連続使用が限界である。
その為交換用の魔石は欠かせないが、魔法陣の中に複数の魔石を入れて交換の煩雑化を防いでいるのが実状。
それでも運用費用としはコストがかかるが、一番問題になるのは魔石への魔力充填要員を確保する事である。
その理由は魔力消費サイクルに比べ、魔力をフル充填出来る人間が少なかった為だ。
魔力は人間誰でもあるが、魔石に潤沢に魔力を充填出来る人間は魔導師などに限られてくる。
人間の魔力は魔物に比べ元々多くない。
しかも個人差は大きく、その運用には細心の注意が必要になる。
何故なら魔力消費は体力の消費に連動するからだ。
病人など、極端に体力の落ちている人間にマラソンをさせれば命に関わるのと同じ事。
そして平民などの一般人はその魔力量は微々たるもの。
当然だが魔力充填は魔力量の多い魔導師が担う事になる。
だが魔導師と認定を受ける魔力量を持つ者は百人に一人。
宮廷魔法師に成れるのは千人に一人だ。
勿論、多数の平民を用意して少しずつ充填する方法もあるが非効率だし事故も起きやすい。
平民は普段の魔力放出に慣れていないからだ。
度を越した魔力放出は気絶や最悪死亡に直結する惨事になる。
日頃から慣れている魔導師ですら事故があるのだ。
不特定多数からの魔力充填は緊急事態以外、余程慎重に行われなければならない。
そういった背景の中、結界の多数化はとても現実的ではなく、従来の国家規模に結界数を揃えるなど到底無理な話であった。
そうして人々の関心は結界技術の改良に目がいく事になるのである。




