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第322話 昔の神の森10(遭遇)

◆幻影・昔の神の森

アルタクス視点


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇

⚫1300年前

ラベンダー王国

神の森奥地・妖精の泉付近



「な!?調査隊が白き悪魔(フェンリル)に遭遇したというのか!」

「は!」



その報は調査隊が神の森に向かって数日後、皇王の元にもたらされた。

皇城には驚きを持って伝わり、皇王は盟約が破られた事にガックリと肩を落とした。


白き悪魔と呼ばれるフェンリル。

神の森を長年に渡り守護する最恐最悪の聖獣。

外見は白ウサギよりも白く輝く毛に覆われた狼。

だが、その大きさは馬並だ。

しかも強力な風魔法が得意で何でも切り裂く魔法を行使してくる。

その為殆ど間合いは役に立たない。


普段遭遇する事は叶わないが、神の森で雪ウサギを攻撃した者がいると何処からともなく現れ、その場の誰も無傷で神の森を出る事は叶わない。


この100年は妖精女王との盟約と皇家が法律で神の森侵入を禁じたこともあり、国民が白き悪魔に出会って被害を受ける様な事態は現皇王になってから起きた事は無かった。

それは妖精女王の神格化を通して教会が神の森侵入を禁忌としてきた事もあり、テータニア皇国民にその内容が広く浸透した結果であると云えるだろう。

この様な事で、テータニア皇国においては白き悪魔との偶発的出会いは殆ど皆無となっていた。


それが今回破られた事、それも神の森侵入や雪ウサギに危害を加えるでもなく、森の入り口での不幸な偶然なる遭遇。

皇王はラベンダー王国の不穏な動きに対する自身が下した調査命令、それを後悔する事となったのである。



皇王「して、被害は!?」

宰相「幸い死者はおりませんでしたが、全員が重傷を負ってます。救援があと数分遅れれば死者が出たところでした」

皇王「⋯⋯⋯⋯なんという事だ」



自身が下した調査命令。

それがこの様な形で盟約を破る事となるとは、皇王としては不本意である。



宰相「皇王陛下、調査隊は白き悪魔に遭遇はしましたが神の森に侵入はしておりません。盟約自体は守られたかと」

皇王「そういう事でもないのだ⋯⋯」



宰相は苦悩する皇王に免罪符として、盟約が今だ破られてはいない事を伝えたかった。

だが皇王はそうでは無いと首を振った。

宰相が言ったのはテータニア皇国だけの話で、それも今回の事案に関する事においての話だ。


問題は隣国のラベンダー王国の振る舞い。

その行動は彼女(妖精女王)らに人間全体の意向だと判断させる事になるのではないだろうか。

妖精女王は人外の女王。

100年経ち本人が生きているかは分からないが、少なくとも後継者はいるのだろう。

その後継者が人間に対してその様に思い、人間を見限る判断をするとしても何ら不思議ではないと思うのが自然だ。


とは云え盟約を結んで100年余り、以後の人間社会への接触は彼女からは無かった。

妖精女王は神の森近隣の国に現れ結界技術の伝導を行ったが盟約以外の要求はなく、その後に南下した寒冷化が現実化すると人々はこぞって彼女を神格化していった。

最終的に教会がその功績を我が物にしようと信仰を変えて今に至ったが、その後も妖精女王からの反応はない。


やがて深刻化した寒冷化に結界技術は一定の効果を上げたが、国としての運用には効果範囲が小さく、結界の多数化を選択するしかなかった。

結果として多数の魔石を必要とし、運用コストが増大するというジレンマに見舞われる。

また各連絡網の維持が未だに大きな課題となり、国々はその結界技術の改良を国是として取り組む事になっていく。


しかし今日まで結界技術が改良出来た実例はなく、内陸国から神の森に接する我が国とラベンダー王国に対し、妖精女王に結界技術の改良を頼んで欲しいという要求が来ているのが実状だ。


ただ両国は勿論、他国においても彼女に接触する(すべ)はなく、結局各国が今ある結界技術に独自の改良を加えるしかない。

そうしてその後、様々な国で改良が試みられたが、どの国も劇的な結界技術の改良は出来なかったようだ。


その後深まる寒冷化は内陸国との交流も途絶えさせ、現在テータニア皇国と交流があるのはラベンダー王国と海洋国家ガルシアくらいなもの。

内陸国は存在こそしてはいるが都市ごとに分断され国家としてのまとまりもなく、分断されている都市もやがて小さくなってしまうのだろう。


妖精女王が結界技術を提供した当時、このように寒冷化が深刻化するとは誰も予測出来ず、結界技術を伝承された当時の国家の殆どは貰えるものなら貰っておこうとし、その先の見通しなど考えるような国は無かった。


だとしても、人の魔法体系から外れた結界魔法技術は当時も今も人の手に余る技術であるのは確かな事。


その改良には、やはり妖精女王かそれに繋がる人外の力が必要なのは確かである。


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