第321話 昔の神の森9(目的と悪意)
幻影・昔の神の森
アルタクス視点
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⚫1300年前
ラベンダー王国
神の森奥地・妖精の泉付近
「どういう事か?ラベンダー王に親書を送れ!」
時のテータニア皇国皇王はこの事態にラベンダー王へ急ぎの親書を送る事になる。
同時に神の森への軍の派遣も検討したが、神の森侵攻はラベンダー王国側の領土で起きているのと、あらぬ誤解が事態の悪化に繋がるとした考えにより結局皇国は動く事が出来なかった。
それでも何もしないわけにはいかない。
皇国領地側から神の森の状況を調査させる事にしたのだ。
調査には信頼のおける人物を皇国騎士団から選び、数名だが選ばれた騎士が神の森に向かった。
※※※※
◆テータニア皇国側神の森入り口
神の森に派遣されたテータニア皇国騎士は5名。
彼らは皇都を出発し1日程度で神の森入り口に到着した。
皇都から早馬で1日は比較的皇都に近いともいえるが、馬車で3日と考えると、まあ其れなりに離れてはいるのだろうとも云える。
調査名目では少人数だが隠密行動としては多いのかも知れない。
なにしろ神の森での危険はメンバー皆熟知している事ではあるし、元々危険な魔物も生息する場所でもある。
どちらにせよ妖精女王との盟約があってからは神の森侵入は禁忌とされていたので、ここ百年のテータニア側からの入場は無かったから、極めて情報が不足している事は否めない。
それでも選ばれた優秀な騎士の5人、そこは古い予備知識でも其れなりに装備を用意し、近くの村から案内人を雇って万全を整えた。
そうして臨んだ神の森調査であったが、入り口に差し掛かる早々異常事態に遭遇する事になる。
皇国騎士A「おい、あれは何だ!?」
皇国騎士B「分からない、案内人は分かるか?」
騎士達案内人も含めて総勢6人。
彼らが皇国神の森入り口で目にしたのは、累々と転がる獣らしき骸であった。
魔物かと思われたが比較的小さい。
小さいサイズの魔物もいるがどうもおかしい。
わざわざ神の森入り口に広く打ち捨てられるように散乱し無造作に捨てられたような状態だ。
近隣の村の狩人であれば打ち捨てるなんて勿体ない事はしないし、魔物同士の縄張り争いで群れ同士がぶつかったとも考えたが、打ち捨てられているのは単独の個体である。
騎士達は顔を見合わせた。
やや入り口から離れた場所で馬を待機させ、案内人を先頭に最も手前の骸の確認をしてみる。
すると皆の顔色が変わった。
案内人の村人「あり得ない。これは雪ウサギですだ?!」
騎士A「雪ウサギ⋯⋯聖獣ではないか」
騎士B「雪ウサギ同士の縄張り争い??」
騎士A「いや、雪ウサギに縄張りはないはずだ。彼らはそもそも同族で争ったりはしない。まして命の奪い合いなど不可能だ」
騎士Aの言葉に皆一様に頷く。
雪ウサギはとても仲間意識が高く、家族の繋がりも強い。
しかも争いを好まず、同族以外にもあまり敵対心を持たない。
そして好奇心が強く人懐っこい。
だから100年前以前は乱獲された時期もあった。
妖精女王の盟約が結ばれてからは皇国の法律でも保護対象となり、教会でも彼らを狩る事は禁忌とした。
そうして皇国内で狩人が雪ウサギを狩る事は出来なくなった。
それに逆らう狩人は村八分となるような風潮も根付いていて、皇国内でそれを行う人間は居なくなった。
ならば凶悪な魔物がこの惨事を引き起こしたのかとなるが、それにしては遺体の損傷が殆ど見られない。
調べるととんでもない事が分かった。
雪ウサギ達は刃物による刺し傷で死んでいたのだ。
つまりこれは、人為的に行われた作り出された惨劇だったのである。
案内役村人「な、なんて恐れおおい事!?」
騎士A「これは⋯⋯不味い」
騎士B「大至急、城に報告を!」
騎士C「?!」
調査した騎士達はこの事実に驚愕し事態の最悪を予想した。
雪ウサギの惨殺。
禁忌違反は勿論だが、これはもっと良くない。
間違いなく目的を持って行われている。
明らかにそれは皇国に対し悪意があるとしか考えられなかった。
『グルルルル』
「「「「「「?!!」」」」」」
そして彼らは間もなく、その悪意の最終的な目的を知る事になるのである。




