第318話 昔の神の森6(狩りの対象)
◆幻影・昔の神の森
アルタクス視点
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⚫1300年前
ラベンダー王国
神の森奥地・妖精の泉付近
侯爵「お前達は神を恐れないのか」
ミゲル「ふ、神などは国家が民衆を支配する為に作り上げるもの。それ以上も以下でもないですぜ、侯爵様」
ギド「スプリング・エフェメラルは魔物。それを神にしたのは支配する側の都合による」
侯爵「何?」
ミゲル「そうだぜぇ侯爵様。妖精は身体に魔石を持っている。これを俺達の国では《精霊石》って呼んで差別化してたがな。そして魔物からも魔石が出る。つまり妖精は魔物なんだ。それを神にしたのは当時の支配者が民衆を支配するのに都合が良かったからさ。アーデ・ラテーナ神だって最初はそうだったに違いない。教会はもっともらしい教義を後付しただけさ」
侯爵「お前達に神は居ない、と?神罰を恐れないのか」
ギド「スプリング・エフェメラルが神なら俺達の国は滅びなかった。俺達の国は寒冷化で最初に滅びたんだ。スプリング・エフェメラルが結界技術を出してくるその前に」
侯爵「北部国家か」
北部国家。
寒冷化は北から南に向かって拡がり大陸に浸透した。
当然ながら北部と南部では寒冷化に時間差があり、大陸最南端のラベンダー王国に到達したのは北部が雪に埋もれてから数年後。
それまでに数十の国家が瓦解し北部国家群は完全に消滅したとみられた。
そしてラベンダー王国に寒冷化が到達し大陸中央の国家も雪に覆われた頃、妖精女王が結界技術を持ってラベンダー王国に現れたのだ。
後は全ての民の知るところである。
ミゲル「そうさ。北部十国の一つ、リベア。結界技術が間に合わなかった国家群の一つさ。スプリング・エフェメラルの結界技術公開が遅かった結果に滅んだ国家だ。神は等しく平等で有らねばならない。奴が神でない証拠だ」
侯爵「それは仕方ないだろう。その当時に寒冷化が深刻化すると予測は出来ないし、スプリング・エフェメラル様も被害を見たからこそ結界技術を開発して我らに与えた。ただ間に合わなかっただけだ。その考えは八つ当たりに過ぎない」
ギド「そうじゃない。奴は公開を遅らせただけ。それは意図して行った事。リベアが滅ぶのを待っていたからだ」
侯爵「なんだと!?」
何だろう。
二人はまるで妖精女王を目の敵のようにしていると感じる。
どういう事なのだ?
ミゲル「リベアは狩猟国家だった。皆が狩りに精通していたんだ。あらゆる魔物や獣の狩りの技術を持ち、他国からの害獣依頼も請け負うくらい狩人を生業にする人間が多かった。当然、聖獣も古くから狩りの対象だ。俺達の祖先は普通に生活の為に魔物や聖獣を狩り、それを生活の糧としていたんだ。そして奴はその聖獣を狩る事を禁じる盟約を人間の国家に示した。俺達の国が滅んだ後にだ。どうだ?意図的ではないと言い切れないだろう」
ギド「あれは魔物。魔物が神であるわけがない。聖獣も同じ。証拠は魔石がある事」
侯爵「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
二人がこれまで、どの様に生きてきたかは侯爵が知るよしもない。
だが、二人から感じるのはスプリング・エフェメラルに対する一貫した憎悪。
それは一貫した底しれない憎悪だったのだ。
侯爵「だとしても今更何を言ったところでどうにもなるまい。お前達の母国は100年以上前に既に滅んでいる。スプリング・エフェメラル様も生きてはいまい。だからこその神格化だったと思う。復讐も意味は無いと思うが?」
ミゲル「その通りだぜ侯爵様。俺達はアンタの疑問に答えただけだ。少なくとも俺達にとってはスプリング・エフェメラルは神じゃない。其れを言いたかっただけだ」
ギド「ああ、そう。つまり俺達にとっては魔物も聖獣も区別しない。妖精すらね。そのどれも狩りの対象という訳」
ああ、成る程。
ここで初めて侯爵は二人を理解した。
つまり最初から彼らは侯爵と認識が違うのだ。
侯爵がスプリング・エフェメラル様や妖精を対等以上の交渉の出来る《人》として扱っているのに対し二人は、ただの狩りの対象でしかなく魔物として見ているという事だったのである。




