第315話 昔の神の森3(行軍と信仰)
◆幻影・昔の神の森
アルタクス視点
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⚫1300年前
ラベンダー王国
神の森奥地・妖精の泉付近
ミゲル「先ずな、俺達が奴らを狩るのに聖獣を使う」
部隊長「妖精を捕まえるのに聖獣を使う?どういう事だ?」
ミゲル「簡単だ。奴らは聖獣も含め、森にいる動物達に仲間意識が強い。だからそれを利用する。特に聖獣の雪ウサギの声は遠くまで届く。なんていうんだ?念話とかが得意なんだったか。とにかく仲間意識が強い聖獣ですぐ感化しやがる。長くいると俺達の行動まで真似てくる笑える奴らなんだ」
部隊長「人懐っこいとは聞いている。聖獣とは本来、滅多に人前には現れない希少種だが、旅人が怪我で立ち往生していると、何故か世話やくように現れて心配そうに見守る事があると聞いた事がある」
ミゲル「ああ、お人好しで馬鹿なんだ。くくっ、それでいて仲間の危機には特に敏感でな。捕まえた雪ウサギをちょっと撫でてやりゃあ、実は簡単に仲間を捕まえられるんだ。それを神の森の奥地でやるんだ」
部隊長「撫で、る?可愛がる事か?それを森の奥地で行うのか?」
ミゲル「行う、なんて上品なもんじゃない。ようは泣き叫べるようにしてヤるんだ」
部隊長「泣き叫っ??まさか?!」ゾクッ
ミゲル「クックックッなあ?相棒」
ギド「ふふふ、ああ相棒」
部隊長はお互いに笑いを取るように話す二人の狩人に悪寒を感じた。
その笑いからは、とても《黒いもの》を感じたからだ。
二人からは人としての最低限のモラルや感情、それが全く感じられない。
部隊長は今回、戦闘は覚悟の上で軍を動かしていた。
もちろん《意に沿わない手を汚す覚悟》は当然ながらしている。
その覚悟は救国への使命感からくるもの。
私事での快楽や野望によってなされるものでは無く、止むにやまれぬ派兵であり、それは決して邪な感情で行われるべきものではない。
しかしこの狩人の二人は明らかに違う。
快楽や残虐を楽しむ人外に落ちた人間に違いなかった。
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この100年あまり。
人々は寒冷化との戦いで疲弊していったが、その戦いは決して人間相手に向けられる事は無い。
むしろ人々の結束は高まり、ある意味人々は一致団結して寒冷化と向き合う選択をしたという事ができるだろう。
そして妖精女王からもたらされた結界技術は一定の効果を上げ、いくつかの国家は滅亡したが人々は確実に生き延びてきた。
この時点で彼女は、間違いなく人間達の救世主と云えるだろう。
人々の団結は結束を呼び、国同士の争いは無くなり、小さなイザこざ程度の小競り合いはあるものの、人死の戦いは起きる事は無かった。
寒冷化はある意味、人間同士の争いを極めて最小化に貢献してきたとも云える。
そうして人々の助け合う風潮が根付いていったのだが、寒冷化の南下は止まる事は無かったのである。
それと結界技術については色々と問題もあった。
先ず、寒冷化を遮断する結界発動には魔石のエネルギーを必要とした。
魔石は魔物や魔石鉱山から採掘出来たが、結界性能は魔石の性能に左右される。
一般流通する魔石では結界範囲は村程度。
持続耐久は1ヶ月が平均である。
当然ながら魔石の取り合いで争いが起きかけたが、魔石鉱山が大陸中央に集中していて全ての国家から最短で採掘可能だった事。
また埋蔵量も豊富であった為、分け合いの精神が根づき、大した混乱も起きなかった。
その一番の理由は妖精女王が全ての国家に結界技術を伝承した事で、救世主たる彼女の残した言葉が重く人々の団結を促した事も背景にあるとされている。
《生き延びる術を与える。慎みを持ち他者を敬う事を忘れるでない。さすればいつか春は訪れよう》
こうして人々は彼女の信者となり、苦しい時でも《いつか訪れる春》を信じて争い事から遠ざかる事を真理とされていく。
そしてここに新たな信仰が生まれ、これまでの創造神アーデ・ラテーナを国教としていた国々は、一様に《スプリング・エフェメラル》を神と信仰する事になっていくのである。




