第310話 薄暗い平原リターン5(別物)
◆ダンジョン✹薄暗い平原
カーナ視点
えーお一人様放置プレイで薄暗い平原に一人でいるカーナ・アイーハです。
今どうしてるのかって?
ご覧の通りサバイバル中でーと思いきや、ジャグジー風呂を満喫中だったりします。
この泡泡が最高なんでハー癒されるわ〜っ。
はい、何で?と思われるかも知れませんが、それは便利なスキル▶お煎餅の家のログハウスです。
《毎日お煎餅が出るお茶請け皿/バスタブ温泉セット(ウォシュレットトイレ/泡ジャグジー/シャンプーリンス付き)》
ええ、スキルだから魔力は不要。
しかも《どこでもマイホーム》。
場所さえあればいつでも出せます憩いのマイホームはお煎餅の家って殆どチートで裏技です。
いやはや便利以外の何ものもありませんよね。
しかも気づいたんですが、もし日本にいたなら何と固定資産税がかかりません。
固定してませんからね。
最高でしょ!
最高でしょ!エコー
最高でしょ!エコー
などと現実逃避している場合ではないんですが、離れ離れになった皆さんの所在が分からない以上、今の私にはどうしようもありません。
既に200回は日が昇りましたが辺りに人どころか動物すら現れず、何処までも続く不毛の大地にマトモでいられるのは奇跡でしょうか。
正直ログハウスが無かったら、多分正気を保て無かったと思うし、本当に鬼畜な放置プレイはやべぇしか言葉が出ないこの現実。
私はこのまま朽ちていくしかない様です。
「人肌が恋しい、イケメン欠乏症よ。鬼煎餅も飽きたわ」
ボリ
(『おおーい⋯⋯⋯』)
ボリッバリッボリボリ
「ついに幻聴まで聞こえてきた。末期症状?」
ボリボリバリバリッバリバリッ
(『おおーい、聞こえね〜のか?』)
バリバリッボリボリッバリバリッポリ
「はあ、風がうるさいわね。そろそろ家に入ろうかしら」
(『主のコノヤロウ、無視してんじゃねー?!おい、ヤッタレや!』)
(『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』)
カチャ
「はあ、幻聴がうるさいわね。今日もサッサと早寝しよ。ん?」
(『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』)
パンッ
「オウチ!???」
(『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』)
パンッパンッパンッパンッ
「痛い!オウチ!止め、あわわわわ????!」
(『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』)
パンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッ
❇❇❇❇
ダンジョン✹神殿
アルタクス視点
「こ、ここは?!」
私が気がついた時、近衛隊とテリア達は全員が床に伏していた。
辺りを見回すと、唯一立っていたのはヒューリュリ様だけ。
流石に神の森の守護者でフェンリルであられるだけのことはある。
私は直ぐにヒューリュリ様に話かけた。
「ヒューリュリ様、私達に何が起きたのですか」
『慌てるな。回りを見てみろ』
「は?!」
ヒューリュリ様から《見ろ》の言葉。
あの方が見つめる方向に目線を移せば、辺りは森の中だった。
途中で体験したペリカン達に出会った暑い森とも違う。
むしろ、この森には何処か親近感を感じるのだ。
私はこの光景を知っている?
『お前達の世代では見る事は叶わなかったであろう。これはかつての神の森。つまり寒冷化で森が雪に覆われる前の姿なのだ』
「!?」
フワフワッ
キラキラキラキラッ
小さな光が舞い小動物?が戯れる。
何の変哲もない森の風景。
だけど我々にはどれも新鮮だ。
ただでさえ雪に埋もれ、まともに緑が茂る森を見る機会がないのが私達であり、この景色は神聖さまで感じられるところ。
しかし何故に《かつて》の神の森が目前にある?
全く持って意味が分からない。
「ヒューリュリ様、これは?」
『我にも分からん。だが、間違いなくここは昔の神の森だ。我の記憶の通りのだが』
「では、これは何かの幻影、今までの《作られし空間》と同じものでしょうか」
『おそらくな。これは間違いなく過去の神の森。現実のものである訳もないからな』
このダンジョンには防衛本能がある。
侵入者の思考に反応して幻影を駆使して対応し、徹底的な排除をするのだ。
侵入者がダンジョンに入ると、ダンジョンはそ侵入者が最も嫌うトラウマのような深層の思考を読取り幻影で再現する。
その際にダンジョンに囚われているゴーストゾンビ達は幻影に呼応して行動し、混乱して弱った侵入者に触れてその対象者をゴーストゾンビ化してしまうのだ。
本来、ゴーストゾンビの動きは人間より遥かに遅く、侵入者は容易に避ける事が出来る。
しかし幻影で弱った侵入者はその限りではない。
当然ゴーストゾンビ達の餌食となり、二度とダンジョンから出る事は叶わない。
また、作り出される幻影は通常もっと小さなエリアで再現されるもの。
今回のように大規模な空間の改変は全くの初めてで、更に目の前のような排除を目的としない一見無意味と思える幻影も、これまでのダンジョンの様相からは相当に逸脱していると云えるだろう。
つまりこのダンジョンは今、私の知る皇国が管理出来ていると思っていた時代の物とは全く別物になっているという事だ。




