第299話 ???22(結界魔法と妖精女王)
◆ダンジョン✹???
カーナ視点
「騒乱の中、人々が未来に絶望し王家が国の行く末を諦めた、そんな時でした。王城に或る人物が現れたのです」
「人物」
「はい、その方は見た目は人間と変わりませんでしたが、その背中は大きく異なるものがありました。人々は異型の人物に警戒し、その方に武器を向けたのです。しかし、その武器はその方を害する事は出来ませんでした」
「話の流れからすると、その方が行使していた力が《結界》の力だった、という訳ね?」
「その通りです。更にその方は、当時の人間達のそんな無礼をその場で許しました。そして次の様に伝えたのです」
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇千数百年前❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
『『今の無礼、無知ゆえの所業であろうから今は許そう。それよりお前達に問おう。お前達は《生きたい》か?』』
ガタンッ
「生きたいか?それは!アナタ様なら、この寒冷化を乗り越えられると言われるのか??」
ザワザワザワザワッ
「殿下、お待ち下さい!それ以上は近づいてはなりませぬ!」
「ええい、離せ!この方は救世主様に違いないのだ。このままでは礼を逸する、離せぇ!」
突然現れた正体不明な異人。
警戒する兵士や貴族達が止める中、それを振り払い玉座を立ち上がって異人の足元に駆け寄り平伏す時の王。
その様子を静かに黙して見守る異型の人物。
その瞳には、あまり感情を感じ無かった。
「生きたい、生かしたいのです。既に余りに多くの国が、人々の命が、氷と凍てつく大地に沈みました。愛する人々も、友人達も、子ども達でさえその命の危機に喘いでいます。どうかお願いします。私達を、国を、人間をお助け下さい!」
《助けたい》、縋り激白する時の王。
その姿に何故か大きく溜め息を吐いた異型の人物。その溜め息は何を思ってだろうか。
『『その言葉、妾達にも云える事なのだがな……』』
「?」
その時、その人物は王に聞こえないくらいの小さい独り言を言ったのだが、近くにいた一部の耳のいい兵士には聞き取る事が出来たらしい。
後に、このやり取りは文献に記される事となる。
『『いいだろう。人も彼の方が愛した世界の一部。アナタ方が存続出来る魔法をここに伝えよう。但し伝えるには条件がある。妾が指定する一帯を不可侵の領域とし、その地での聖獣と妖精の保護を求める。その盟約を妾と交わしなさい。そして全ての人間に守らせよ。約束出来るか?』』
「それは、アナタ様は一体??」
『『妾は……妖精女王スプリング・エフェメラル。妖精の国を司る妖精の女王ぞ』』
これが人の前に初めて現れた妖精女王スプリング・エフェメラル、そしてテータニア皇国の王との最初の邂逅であった。
「妖精女王?!」
『『人の王よ。返答は如何に?』』
「う、受け入れる。約束を守らせます。全ての国民と他国も含めた人間に。だから頼みます。我々人間を、どうかお救い下さい」
『『よかろう。ここに盟約は成される。妾は人に生き残る術を与え、人は妾達の領域を不可侵とする。共に生きようぞ』』
こうして妖精女王と人間の王との間に盟約が結ばれ、人間の王は寒冷化を防ぐ《結界魔法》を授かる事となる。
やがて妖精女王よりテータニア皇国皇都近くにある、古くから《神の森》と称された土地が不可侵とされた。
後に他国にもテータニア皇国主導のもとに同様の条件が示され、当然ながらこれに抗う国家は無く、皆同様の条件を飲んでいく事となる。
こうして全ての国家が応じる事となり、この地に人が侵入する事はなくなった。
そして森へ入る事自体も堅く禁じられ、テータニア皇国が森の保護を主体して取り組んでいく事となる。
それから数十年、人と妖精族との交流は良好に続いたが、寒冷化自体は止まる事が無くじわりじわりと大陸は北から冷えていくのであった。
そうした中、妖精女王がもたらした《結界魔法》は其れなりに効果を上げたが、効果範囲が都市の大きさ並の出力しかなかった事や、その性能がエネルギーとなる魔物の魔石の性能に左右される事などがあり、日増しに強さを増す寒冷化に対しては絶対の対策にはなり得なかったのである。
当然ながら人間とは改良改革をする生き物である。
人々が、より広範囲により強力な《結界魔法》を求めるのは自然な流れではあった。
だがこの事が後に、大きな悲劇を呼ぶ事になるのである。




