第290話 ???13(バグ)
◆ダンジョン✹???
※※※※視点
ジジジッ
バリバリバリバリッ
収束していく円を形成していた無数のプラズマは、やがて円の中心に集まり一本の太いプラズマに統一された。
当然、中にいた有機生命体はプラズマの熱変換で焼き尽くされ、原形すら保てないだろう。
最もそれをしてしまえば、奪われた私の宝も一緒に消し炭だが、《アレ》が持っていたのなら亜空間収納をしているはずで、その管理権限は私にも必ず共有化されているだろうから問題ない。
『つまり、邪魔者を始末出来て宝も手に戻る。まさに一石二鳥とはこの事よ』
カタカタカタカタッ
私はキーボードを叩き、修正されたグラフを確認して口の端を上げた。
それはダンジョン内異物が取り除かれ後の予測値を元に算定した《未来演算》。
間違いなく改善していたからだ。
『ナビシステム、バグの亜空間収納権限を再構築。私のアカウントに紐づけて再起動。リンク出来たか?』
ピロン
《ご依頼の命令は実行されましたが亜空間収納権限は再構築されませんでした。よって再起動による新アカウントへのリンクも無効となります》
『は??どういう事だ?バグの亜空間収納リンクは途切れ、管理権限は空白になったはずだ。ならば私のアカウントへのリンクは有効化になったはずではないか。もう一度権限の再構築と再起動を行え!』
ピロン
《現在指定された亜空間収納システムは未確認のUnknownリンクに常時接続されている状態をキープされてます。リンクするにはパスワードが必要です》
は?
意味が分からない。
リンクが途切れているから再構築を指示したのだ。
亜空間収納システムは魂にリンクする固有スキル。
離れている外部リンクが接続するには、一度システムに接触する必要があるのだ。
だから非接触に無関係な者が亜空間収納にリンクするにはパスワードが無ければ不可能。
パスワードはシステム構築時に登録された魂に刻まれた《真名》を提示しなければ起動する事はない。
つまり《本人》以外が使う事は出来ないのだ。
『本人以外は使えない、それが亜空間収納システムのセキュリティ。だからUnknownリンクに支配されるなど絶対にあり得ないはず。どういう事なの?』
ピロン
《お答え致します。一つ考えられる事は、古いリンクが優先されているという事があります》
『旧リンクが生きていた⋯⋯まさか!』
ピロン
《最も現実的な回答は、元のリンク所有者が現存しており、回線が途切れず継続リンクされているという事になります》
『!!』
私は思わず座席から身を乗り出し、下方に見える一本のプラズマを凝視した。
あり得ない。
プラズマ檻は完全に収束しており、そこに質量は感じない。
ならば考えられない事だが、奴らがプラズマ檻が収束する前に、何らかの方法で檻から離脱し何処かに潜伏した事になる。
『馬鹿げている。万が一そうであれば、奴らが私の権能を超えた力を持っているという結論になるではないか。そんな事?!』
だが、目の前の現実はどうだ?
あの時、間違いなく奴らをプラズマ檻内に閉じたはず。
そこに物理的な脱出の兆候は無かった。
可能性あるとしたら転移魔法しかないが、あの時点で転移魔法を実行した痕跡は見当たらない。
そもそも転移魔法は、正確な座標と膨大な魔力を必要とし、私の力を持ってしても転移可能なのはダンジョン内に限られる。
考えてみれば、やはり転移魔法はあり得ない。
だとしたら何だ!?
『どういう事なの?訳がわからない!』
バチンッ
ドドドドーンッ
私が混乱してあると突然収束しきったプラズマの柱が消え、何故かその大地が振動を始めた!?
まるで地面が盛り上がるように波打つ。
これは地震による地殻変動?
いや、この地に地殻変動はあり得ない。
この地は私が世界を管理する為に作り上げた仮想空間。元々そんな活動が無い不活世界だったはずなのだ。
ズゴゴゴゴッ
『一体何だ?!』
私が混乱の渦中の中、地殻変動の如く盛り上がってくるプラズマ檻があった場所。
もはや疑う余地はない。
これは間違いなく奴らの仕業に違いなかった。
『いや、この状況を作り上げたのは奴ら、ではなく、お前だったか《残りカス》』
私は今まさに大地から現れ私の目の前に浮かび上がった物体を前に、確信を持ってそう独り言を告げたのであった。




