第276話 薄暗い平原10(ゴーストゾンビ少女2)
◆ダンジョン???
ナレーター視点
夜空には沢山の銀河がある。
その一つ一つに多くの生命が溢れ、それぞれに時間と始まりと終わりがある。
その理は真理であり、全ての世界に等しく流れる絶対の法則である。
それは数多ある多次元宇宙、その全ても逃れられない。
それは観測出来ない可能性の宇宙。
確実な過去か、不確定な未来か。
確実な未来か、不確定な過去か。
様々な未来と過去が寄り集まり、この宇宙は出来ている。
だがそれは、どれも可能性の一つでしかない。
それら宇宙の命脈は、幾百万幾千万、無限の時を刻む中で、泡沫に消える夢の様なもの。
そのどれもが絶対ではなく、如何なるものも永遠に輝き続ける事は叶わない。
全てにいつかの終わりがあり、終わりあるところに始まりがあるのだ。
❇
ガチンコン、ガチンコン、ガチンコンッ
ガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッ
コッチッコッチッコッチッコッチッコッチッ
、
巨大な歯車が回る空間がある。
それは地平線の彼方、空一面に広がる余りに巨大な歯車である。
その歯車はまるで世界の根幹を成しているよう。
人には決して辿り着けない、世界の理の外の場所だ。
そしてそこにはデスクワークをしている一人の人物がいる。
見かけは何故か黒くてハッキリしない。
ただその人物には背中に黒い蝶の羽があった。
取り敢えずこの場では《彼女》と呼ぼう。
『世界の歯車は確実に運命の日に向かって時を刻む。これは誰にも関渉出来ない確定された未来。何人もコレに関渉する事は不可能。それが神が決めた世界の理。でも⋯⋯』
スッ
《彼女》はそう言いながら天空の歯車に手を翳す。
すると、一部の歯車の回転速度が僅かに緩やかになっていく。
『遅らせる事は出来る。時間は世界ごとに違い、関渉する事は実は可能。つまり神の決めた理は絶対じゃない、という事よ。だから』
ぐぐっ
《彼女》は手を拳に変え更に力を込めていく。
すると、また一部の歯車の動きが変速になっていく。
どうやら彼女は、この天空に広がる歯車の動きを、何らかの理由で変えたいようだ。
ガタンッ
『っ!』
その瞬間、《彼女》のデスクを照らす照明が破裂し、彼女は体制を崩して椅子から床に落ちた。
何か《彼女》が意図しない事が起きたようだ。
ヨタヨタと起き上がる彼女。
空を仰ぎ恨めしく睨んだ。
『やはり未だ力が足らない。全てはあの人間供が作り出したシステムのせい。本当に邪魔ばかり。だからあの時滅ぼしておけば良かったのに!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
そう叫んだ《彼女》。
だが、少しして落ち着くと、彼女の背後から黒いオーラが溢れてくる。
それは黒い霧状の負のオーラ。
憎しみや妬みが混じる圧倒的な怒りの波動だ。
その波動は大地を揺らし、波打ち、陥没し、広範囲に災害級の天変地異を沸き起こす。
先ほどまで静かな平原だった所が、今では暴風と竜巻が荒れ狂う地獄のような世界に変わっていた。
もしそこに何らかの生命があれば、その命は直ちに刈り取られる事にしかならないだろう。
だが、不思議なことに《彼女》周辺の大地だけは、何事もなく平静を保っている。
それは彼女自身の力により成された天変地異であったからだ。
《彼女》は、それだけ強大な力を持っているに違いなかった。
間もなく天変地異は止み、平原に静寂が戻った。
しかし彼女の黒いオーラは、更に深く、更に濃くなっていく。
『私が愛するのは《人間以外》。人間などはどうでもいい。姉様が人間を愛さなければ、とっくに滅ぼしてやったものを!』
そう言いながらノートパソコンを開く《彼女》。
そしてまた何かの作業を始めてようとして、はたっとある方向に視線を向けた。
『それでラリア、何故そこに隠れているの?』
ガザッ
((は、はいぃ。も、申し訳、ありません!))
すると草むらから一人の半透明な少女が現れた。
どうやら《彼女》の部下のようである。
その半透明な少女は、見つかった事に本当に申し訳なさそうにオズオズと《彼女》の前に進み出る。
その様子は冷や汗をかき、彼女を大変恐れているようだった。
『謝罪はいい。私の質問に答えなさい』
((⋯⋯その、❇❇❇様が随分とお怒りだったので、その、出るタイミングが、分からずに))
『ふん?其れだけじゃないでしょう。何があったの?』
《彼女》は興味が薄れたのか、少女から目線をノートパソコンに移し、そのまま再び作業に入った。
少女はオズオズと顔を上げ、その成り行きを見守っている。
少女は《彼女》の質問に答えるか悩んでいる様子である。
そんな少女に業を煮やしたのか、パソコンから顔を上げる《彼女》。
目線を少女にまた向けた。
それに慌てた少女。
直ちに口を開いた。
((ゴーレムは、ことごとく撃退されてます。その、あの方が守護者を置かれているようです))
『姉様が?目覚めたとは聞いていたけど⋯⋯まさか私がやってる事に気付いた?』
((いえ、それは無いかと))
『だとしたら感?姉様は時々鋭い時があったから。どちらにせよ面倒だわね』
((⋯⋯⋯⋯⋯))
『話は分かった。対策は考える。それで?』
((はい!あと宝物の件ですが、やはりヤツが持ってました。現物を確認しましたので間違いな))
ガタンッ
『やはりか?!』
少女の話に《彼女》は激しく憤りながら立ち上がった。




