第228話 あの人達は今?パート3ー①
◆ダンジョン✹亜熱帯密林
アルタクス視点
割り込んできたのはオルデアン様侍女テリア、織姫様侍女伽凜殿、そして副官のメイ•オーガスタである。
「アルタクス!今の話しを説明しなさい!」
「テリア、私も今説明を求めたところ、だ⋯⋯」
息巻いて迫る侍女テリア。
しかしその様相はとても侍女とは思えない状況だ。
アルトリンゲンも唖然としている。
一体何があった?
「その前に、その、姿は?」
「別に、いいでしょう?体面を気にする必要もないですから。そんな事より!」
「待ってくれ。君は構わなくとも私の他の部下達は全員健全な男子なんだ。その姿は刺激が強すぎだ、と思うが、君達三人、とも」
「はあ、こんな暑くてジメジメしたところで私達にドレスを着ろと?何の冗談?」
開き直るテリアと同調して頷いてる後ろの二人。
私は直視出来ずに思わず顔を手で覆った。
特にメイ、その姿はなんだ?!
「メイ、変な事を聞くが、その動物はなんだ?」
「雪ウサギですけど?」
「それは分かっている。その、何故雪ウサギを胸に付けている?というか、お前は何故上半身裸なんだ?」
「ちゃんと付けてるでしょ?雪ウサギ」
「はあ、それは衣類ではないだろう⋯⋯⋯」
女性陣は殆ど薄着だった。
テリアと伽凜殿はほぼ下着状態。
そしてメイは制服のズボンに上半身は裸だ?!
アルトリンゲンが真っ赤な顔で鼻血を垂れ流している。
しかも胸は雪ウサギがソレを隠すようにへばりついていた。
子爵令嬢がそれでいいのか?
「とにかく目のやりどころに困る。頼むから何か着てくれ⋯⋯」
「だってこの子が離れないのよ?このモフモフの上に服を着たら直ぐに汗だくになっちゃうわよ」
『きゅ?』
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
何故にこの雪ウサギは自慢げに私を見ている?
メイ、この雪ウサギの異常さに早く気づけ。
「それにこの子達も居るのよ?暑苦しくて死んじゃうわ」
「この子達?」
「ほら、皆出て来なさい!」
「「「「「「「グワワ!」」」」」」」
「何!?」
メイの声掛けに密林から現れたのは、先程空を飛んでいた絶滅した古代鳥カルブレイス•ペリルの幼鳥だった。
絶滅したカルブレイス•ペリル鳥は成長すれば5メートル以上の大鳥に育つ魔獣。
背丈10センチくらいで七羽いて、メイの声に縦列で足を揃えて歩いて来た。
完全にメイに従っている様子だ?
「何があった?」
「アナタが他の部下に周辺探索を命じた時、私も探索に出たのは知ってるでしょ?その時にある木の根元で卵を7つ見つけたの。食料調達になると思いマジックバッグから鍋を用意して温めたお湯に卵を入れたら全部孵っちゃった。それで生まれた子達を見てたら情が移ってこの通りよ」
「完全にお前を母親と認識してるじゃないか。何をやっているんだ⋯⋯⋯」
とにかくメイはその姿では駄目だ。
早く何とかしないと⋯⋯⋯!
ドサッ
「あ?」
「?!」
「「!」」
遅かったか。
何か倒れた音はアルトリンゲンだった。
原因は鼻血による貧血だ。
だからメイに何か着るように言ったんだ。
「アルトリンゲンが出血して倒れた?魔物に襲われたの!?」
「ある意味魔物だが、とにかくお前は何か着てくれ。このままでは近衛が全滅する」
「何で?」
「いいから着ろ!」
キョトンとするメイとその胸から私を見上げるニヤけた顔の雪ウサギ。
そんな目で見るな。
◆◆◆
その後、何故か雪ウサギそのままに、何とか薄手のブラウスを着て貰ったメイ。
首元は雪ウサギが頭を出せるように大きく開いており、相変わらず自慢げな雪ウサギが顔を覗かせている。
上司命令で嫌々着込んだメイは、私に暑いと目が訴えていたが無視した。
近衛男子は女性に免疫が無い。
彼女の我儘を許せば部隊が全滅してしまうのだ。
「それで説明は」
「テリア、ご覧の通りだ。部下は気絶しており答えられない。分かり次第伝えるので待ってくれ」
見合わすテリアと伽凜。
恨めしい顔をされたが私に責任は無い。
とにかく他の部下が戻る前に彼女らに泊地へ戻って貰い、これ以上被害が出るのを防ぐのが精一杯だった。
「で、コイツは何だ?」
「まあ見てて下さい。これは魔道具の一種です。これの反応するところは我々の現在位置が表示されるという事ですね。上手くすれば姫様達の居場所を特定出来るかも知れません」
間もなく意識を取り戻したアルトリンゲン。
彼が持ってきたのは、見た事もない文字やマス目で書かれた地図のような紙だった。
私の説明要求に彼が示したものがこれだったのだ。
「私は先程の説明を要求した筈だが。そもそもそんな魔道具があれば何故オルデアン姫が誘拐された時に申し出なかった?」
「まあ、待って下さい。これで我々の状態を説明出来ます」
アルトリンゲンは私の言葉を無視て魔道具の説明に入った。
何を考えているのか。
「先程アルタクス殿に翻訳魔法を掛けました。この未知の文字が読めるようになる魔法です」
「そんな便利な魔法があるのか」
「そしてこれはスゴロクというものです。この四角い黒点が入ったものをサイコロと言います。大昔のガルシア帝国にあった子供の遊びと聞いてますね」
「成る程、するとこれはガルシア語か?」
「古代ガルシア語です。海洋国家ガルシアの時代ですかね」
「前置きはいい。これをどう使えば姫様達の事が分かるのだ?我々はあの呪い人形に吹き飛ばされてここに着いてすでに5日目。一刻も早く姫様達の安否を確認したいのだ」
あの呪い人形が生み出した風魔法は巨大な竜巻を呼び出した強力なものだった。
吹き飛ばさた我々は姫様達と引き離され、いつの間にかこの正体不明な太古の密林に流れついたのだ。
ヒューリュリ様やカーナ様が姫様方についているなら大事にはならぬと思うが、万が一姫達様が単独であの黒装束一味に捕まっていたとしたら、今頃恐ろしさに泣いているやも知れないのだ。
そんな私の焦りをよそに、アルトリンゲンは正体不明な魔道具?の説明をなおも続けるのだった。




