第227話 あの人達は今?パート3
◆ダンジョン✹亜熱帯密林
アルタクス視点
「グワワッ」
バサバサバサッ
ビクッ
「い、今のは?!」
「絶滅したカルブレイス•ペリル鳥だ、な。古代生物図鑑で見た記憶がある⋯⋯」
「ええ、ええ、その通りです。そしてその先にある樹木はテータニア•マルチカ、コルベンドートもあります。凄い!ここは1000年以前の皇国南部密林そのもの。まさに宝の宝庫ですぞ!」
近衛隊参謀アルトリンゲンは興奮しつつ、その丸メガネを何度も拭きながら再確認している。
近衛の防諜と参謀を兼ねるアルトリンゲン。
彼は私の陰の副官にあたる。
表向きは近衛隊長の側近の一人に過ぎないが、実は魔塔の中級幹部で、現魔塔主マスター•ラクネスの直属の部下である。
つまり魔法のスペシャリストなのだ。
だが得意分野は他にある。
彼は『ダンジョン考古学』という独自に打ち立てた研究分野をライフワークとしており、魔塔に在籍する魔法使いながら研究者としての活動を優先するなんとも風変わりな趣味を持つ。
絶滅動植物を研究する事で当時の気候と動植物の関係を知り、そこから世界の創生を知る事が彼の主たる目標なんだそうだ。
そしてマスター•ラクネス。
私の魔法剣師匠でもあり、また皇国を雪や氷から守る今の《結界》の仕組みを最初に作り出した皇国最強の魔法使い。
その年齢は不明。
一説には皇国建国から存在したとの話しはあるが、王族でさえ正確な事は分からない。
数代の王族に仕えてきたのは間違いなく、年齢は数百歳との噂もある。
彼はそんな師匠を信奉する人物の一人でもある。
「アルトリンゲン、そんな事より我らの現在位置はまだ分からないのか。ココはダンジョンの何階層なのか、離ればなれの姫様達は今何処にいるのか、それを知るのが我々の急務だ」
「『そんな事より』?!隊長、その発言はあり得ませんぞ。ここは我がダンジョン研究の究極です。この地を研究する事は世界が凍結した原因究明に大きく貢献するはずなのです」
唾を飛ばしながら興奮して自分の考えを主張するアルトリンゲン。
この男は目の前の密林が宝の山に見えるらしい。
師匠、本当にアナタの部下ですか?
「アルトリンゲン、君の使命はなんだ?私を補佐し王族と皇国を守る事だろう。今の優先事項を取り違えるのではない」
「私の研究は最終的に皇国と王族の為になる崇高なものです。いかなる任務よりも優先されて然るべきなのです」
「はあ、アルトリンゲン。そう云う事はやるべき事を成してから言う事だ。我らはテータニア皇国近衛隊、如何なる事があっても王族を守る事を忘れてしまっては困る」
「分かっておりますとも。それがマスターのご指示ですから。だからこそ一近衛に徹しサードステージでもアナタの指示通りステージBOSSの茶番に付き合ったではありませんか。本来ならステージごとBOSSを焼き尽くせばステージクリアは簡単でした。今はそれをしなかった事を安堵しておりますよ。お陰でこうして太古の密林に来る事が出来たのですから」
そう言いながら、なおも密林を恋人のように見つめるアルトリンゲン。
彼の発言はとても物騒な話しだ。
幻影ダンジョンとも云われる皇都ダンジョン。
内部で火炎系魔法を使う事は禁止されている。
理由は実体と違う空間で迂闊に火炎系魔法を放つ事は自殺行為になりかねないからだ。
外部のような視界が広がっていても幻影の可能性があり、本当は閉鎖されたレンガ作りの小部屋だったりする。
視覚に頼れないのが皇都ダンジョンであり《侵入者の深層意識を利用して侵入者を排除する幻影を作り出す》のがこのダンジョンの防衛システムである。
今回の幻影は何故かカーナ様主体?の幻影らしく、だいぶ毛色が違う幻影が続いている?が基本は同じと考えている。
(サードステージの事で)
だから万が一そんな閉鎖空間で火炎系魔法を使えば、近くにいた者も含め全滅は免れない。
魔塔の魔法使いは変人が多いと聞いた事があったが事実だったか。
師匠、もっとマトモな人選は出来なかったのですか?
「とはいえ、今は近衛として給与を貰っている立場。ちゃんとその分は働きますよ?私の得意分野は《魔力感知》です。特に一度認識した魔力はどれほど離れようと感知するのは容易。ちゃんと姫達の魔力は記憶してますよ。会ったのはダンジョン内で始めてでしたがね。ですが⋯⋯⋯」
「そういえばお前は魔塔から赴任したばかりだったな。それで分かったのか?」
「《姫達はダンジョン内に居ない》という事しか分かりませんね」
「ダンジョン内に居ない!?」
突如出てきた《姫達はダンジョン内に居ない》発言?!
余りの突拍子もない言葉に私は思わずアルトリンゲンを睨み付けた。
あり得ない。
そして意味不明でもある。
アルトリンゲンの発言に真実はあるのか?
「アルトリンゲン、今の発言はどういう意味だ?もっと分かるように説明してくれ!」
「「「その話し、私達も聞きたいわ!」」」
「!?」
その時だった。
背後の密林から出てきた三人の女性。
その三人が私とアルトリンゲンの話しに突然に割り込んだのだった。




