第197話 アホかーい!
◆ダンジョン温泉✹竜宮城
カーナ視点
湯川秀樹
物理学者1907−1981
さて第一問。
この偉人は何をやった人でしょうか?
四百字詰め原稿用紙5枚以内で述べよ。
因みに私は知りません。
などと現実逃避してる間に、私の回りを三叉持った生臭魚人兵が取り囲みました。
そして羽を摘んで虫カゴに入れてしまいます。
もっと丁重に扱えや!
「乙姫ちゃん⋯⋯⋯」
「済まぬの、カーナよ。疑わしきは捕らえよ、なのじゃ。暫しそこで待っておれ」
ほぼ冤罪確定の暫定処置?
ま、いいですか。
虫カゴなんてそうそう体験出来るものじゃありません。
虫の気持ち?
知ランガナそんなもん。
「カーナさまがカゴの中に!?」
「カーナたん、大丈夫なのじゃ?」
「カーナおねえさま?!」
三人娘は遠巻きに何か言ってます。
大丈夫よ、みんな。
私のハートは超合金。
こんな事ではメゲません。
「乙姫さま、なにゆえカーナさまが虫カゴに入らなければならないのです?!」
「そうじゃ、カーナたんはずっと妾達と一緒にいたのじゃ。犯人のはずはないのじゃ!」
「乙姫おねえさま、あんまりです!」
私を擁護する三人娘達。
あれ?
アンタ達、さっき私を犯人扱いしてなかった?
人間不信の今日このごろ。
あ、超合金ハートにヒビが?
超合金、弱!
こうして魚人兵に連れて行かれた私。
さっそく背広姿の魚人取り調べ官による尋問が始まりました。
卓上ライトが私を照らします。
眩しーわ!
((それでは尋問を始める。容疑者はカーナ・アイーハ。年齢一歳とあるが、これは詐称だな?))
「私もよく分からないんですがステイタス欄にあるんで事実かと」
((一歳はそんな流暢に喋れない))
「ごもっとも」
((本当は何歳だ?))
「う、多分、精神年齢は三十路かと」
((三十路で一歳の振りをしていたのか))
「別に振りはしてません。あーとか、だーとか赤ちゃんマネなんてしてませんよ。今も流暢に話してるじゃないですか!」
((恥ずかしくはないのか))
「年齢詐称は今回の事件に関係あります?」
((私の主観だ))
「ちゃんと取り調べ官ヤッて下さい」
((ぬ?貴様、私を侮辱するのか!))
「今の、侮辱になるんですか?」
((私の主観だ!))
「⋯⋯⋯⋯⋯」
こういうのを《話しの分からない奴》って言うんですかね?
下らない脱線はいいので、サッサと白黒つけて欲しいです。
((ふぅーっ仕方ないな。お前、バナナ食うか?))
「はいっ?バナナですか?」
((カブト虫とか甘いの好きだろ?美味いぞ))
「⋯⋯⋯⋯⋯」
と、言いながら取り調べが膠着した時の定番、カツ丼を出す勢いでバナナの皮を剥いて勧めてくる取り調べ官。
カブト虫じゃねーよ?!
((食べないの?勿体ないオバケが出ちゃうよ))
「好きに出ろや」
((しょうがないなぁ))
そう言いながら魚がバナナ食べてます。
何なの、このスチエーション?!
ズッターンッ
((!?))
「へ!?」
突然、脈絡も無く部屋の入口で盛大に転んだ魚人がおりました。
取り調べ官の目が点になってます。
何ですかね?
ホコリを払いながら立ち上がるヨレヨレのトレンチコートを着た魚人さん。
頭にはワカメの海藻がワサワサと付いて、まるで髪の毛のようです。
ただの部外者なんですかね?
((イタタ誰ですか、こんな所にバナナの皮を捨てたお馬鹿さんは?うちのカミさんなら、どやしつけてるところですよ))
((誰だ貴様!?神聖な取り調べ室に無断で入るなと⋯⋯⋯あ、アナタは?!))
取り調べ官がトレンチコートに萎縮してます?
もしかしてエライさんなんでしょうか。
((君、後はボクがやるから))
((は、はいっ!))
えー取り調べ官が頭を下げつつ後に下がりました。
トレンチコートが前に座ります。
やっぱりエライさんだったみたいですね。
選手交代ってところですか。
ニコッ
((やあ、本署のオコロンボです。オコロンと呼んで下さいね))
「はあ」
え、笑った?!
無駄に愛称呼び強要してきて何なのって思っていたら、魚顔でこの魚人さんが笑ったよ!
凄すぎでしょ。
でも無表情が基本の魚顔で《笑う魚顔セールスマン》って何か不気味。
それに魚顔に無精ヒゲって様にならないっていうか、魚に無精ヒゲ生えるんかい!
((君、妖精さんだね?皆が『虫が犯人として捕まった』って言うから、どんな虫か期待してたんだけど違ったようだね))
ここでも只の虫扱いだったんですか?
妖精の認知度低すぎでしょ。
何か腹立たしいわね。
「はあ、とにかくどーでもいいので、早く白黒ハッキリして下さい」
((君の白黒はハッキリしてるよ。アリバイは間違いなくあるし乙姫様の御客人だからね。君はたぶん白だよ))
「はあ、分かってるのなら直ぐに解放して下さい。こんな茶番はいりません」
((そうしたいのは山々なんだけど、問題は君を犯人と証言した人物が被害者という事なんだよね))
「?!」
そうでした。
今回のイレギュラーは、あの活き造り事件の被害者である鯛女中頭さんが《メカ鯛女中頭さん》として復活し、私を犯人認定したという理不尽だったのです。
アホかーい!




