第189話 アーカイブ
◆ダンジョン温泉✹竜宮城
カーナ視点
「何の話じゃ?」
「ですから、映像データは過去のものです。それを再編集したのがこのDVDなんです」
「あり得ぬ?!そんな馬鹿な話があるか!そなた、何を根拠にそのような話をする。妾を誑かそうとするなら許さんぞ!」
黒髪幼女が目を吊り上げて怒ってるけど、織姫ちゃんソックリ乙姫ちゃんじゃ迫力無いわね。
はあ、やっぱり最後の製作者BYエヌエッチケーまで見て無いから信用ならないようです。
そりゃあね、身内の妹さんと私のような部外者を比べたら信じられないのも当然です。
「DVDの最後にアーカイブとなってるんです。つまりこの映像は過去に作られ保存されていたデータという事になります」
「そ、そんな馬鹿な!?」
慌てて再生機を早送りする乙姫ちゃん。
信じたくない気持ちは分かるけど事実は揺るぎません。
画像は最後尾の作成者テロップが過ぎ、ご丁寧に最終テロップでアーカイブ編集画像って表記されてました。
これは決定的な証拠になるでしょう。
ガタンッ
「な、何という事じゃ。妾は妹からのDVDを信じ込み、真実を見誤る愚行を犯したという事なのか?!それは大罪じゃ⋯⋯⋯」
真っ青な顔で膝をつく乙姫ちゃん。
何か重大な事を暴いちゃったみたいな?!
え、乙姫ちゃんのチェックが甘いからなんて言っちゃ駄目でしょ。
幼女に追い込みかけらんないですから。
「妾のチェックが甘かったのじゃ」
「寝落ちがいけなかったんですかね?」
「ぐっ⋯⋯⋯」
あ、思わず追い込みかけちゃった。
更に下を向く乙姫ちゃん。
グルちゃんの目が痛い。
私は誰?
「すまぬ。そなた達、外はどのような世界になっておるのじゃ?」
ワナワナと震えながら、やっとの事で声を振り絞る乙姫ちゃん。
先ほどまでの意気揚々とした姿からは見る影もありません。
これは一体?じゃなく、全部私のせいです。
ごめんなさい。
グルちゃん、私を『鬼畜か』のように見るのは止めて下さい。
心折れるから。
「乙姫ちゃん、外というとダンジョンの外という事ですか?」
「そうじゃ。正確には妹が作り上げたシェルターの中じゃ。そこに妾が仮住まいしておる。そして共に避難した海の者達の為、海を再現した空間を作り上げたのじゃ。ここは妾が作り出した巨大貝の中であり、その貝の中に妾の側近達と竜宮城周辺環境を再現したのじゃ」
彼女の話に私達は顔を見合わせました。
色々と情報量が多くて理解が追いつきません。
つまり乙姫ちゃんは、何らかの事情で配下の者達と共に妹ちゃんが用意したシェルターに避難したようです。
もしかしてダンジョン=シェルターなのかも知れませんが、シェルター??
「乙姫ちゃんが言う外がダンジョンの外の事を指すのなら、外は寒冷化が進行し雪と氷の世界になりつつあります」
「やはり、か。して、海は今どうなっておる?」
「海ですか?」
海、海ですか。
さすがに気付いたら神の森にいた訳で、その後の私の行動範囲はオルデアンちゃんのテータニア皇国皇都までしかなく、その道のり以外は分かりません。
そもそも海の情報自体も聞こえた事もなく、そういえば海産物もお目にかかった事がありません。
だから海の無い世界かもって、思っていた事もありました。
「オルデアンちゃん、織姫ちゃん、海って知ってた?」
「皇城の図書館に確かそんな記述があった気がします。今は存在しない場所だとしか」
「海はガルシア帝国の《白の大地》じゃ。全ての命が最初に生まれた母なる大地と聞いておる。今は真ガルシア帝国を名乗る叛徒共に占有された国土のその先にあって、何処までも続く白い平原の事じゃ。いつも吹雪が吹き荒れており、迷い込めば命の危険がある場所じゃ」
なんと織姫ちゃんが海の情報を持ってました。
今は《白い大地》と呼ばれている土地が、かつて海のあった場所だったようです。
「何とのう。済まなんだ。妾は多くの魚民を見捨てておったのじゃな。妹よ、何故じゃ⋯⋯」
乙姫ちゃんが泣き出して、大粒の涙が床に落ち手いきます。
えっ?!
カツーンッ、コンコンコロコロコロ。
ビックリしました。
乙姫ちゃんの目から落ちた涙が床に届く寸前、それが真珠に変わったのです。
え、やっぱり乙姫ちゃんは真珠姫だったのでしょうか?!
とりあえず勿体ないから拾います。
グルちゃんの目が痛い。
オホホホ。
「そうかガルシア。そなた、海洋国家ガルシアの末裔であったのじゃな、織姫よ」
「海洋国家ガルシア???それは1000年以上前の帝国の始祖様の国じゃ。かつて大陸の端、小さい島国であった頃の国家の名じゃ」
おお、また新たな情報が聞けました。
織姫ちゃんの母国の前身が海洋国家ガルシア。
それも1000年前の国家のようです。
何やら織姫ちゃんと乙姫ちゃん、因縁があるような?
「あの、乙姫ちゃん?ガルシアと何か関係あるの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ありゃ、黙ってしまいました。
これは聞いてはいけない事だったんですね??
「カーナとやら。そして織姫、オルデアンにグルちゃんよ、聞いてたもれ。妾の昔話をの」
ああ、とっても長ーくなるお話のようです。
成り行きですから致し方ありません。
腰を据えて聞きましょう。
すかさず鯛女中にエスプレッソを人数分お願いしました。
モチロン私だけはコーヒー牛乳です。
瓶のコーヒー牛乳、風呂上がりに最高ですよね。
二度とエスプレッソは飲みません。
グルちゃんからジト目を頂きました。
慌ててホゥローに入ります。
結局、全員コーヒー牛乳になりました。
やだわグルちゃん、そんな目で見ないで。
何事も経験が大事なのです。
私だけ経験者は不公平だから皆の経験値獲得の為にお願いしただけですって。
信用無い?
ごめんなさい。




