第177話 承認欲求?
◆ダンジョン温泉▪竜宮城
カーナ視点
((うおおーんっ!うおおおーん!))
泣き出してドバドハと涙を流し続けるマグロ兵士。
その情けない姿に怖さが吹き飛んだのか、後方で様子を伺っていたはずのオルデアンちゃん達が、いつの間にか私の直ぐ後ろに来ていました。
「カーナさま、マグロさんを苛めてはいけません」
「弱い者苛めは駄目なのじゃ!」
「カーナおねえさま、見損ないました」
「ええっ!?」
何故か私が悪者認定を受けました。
どうしてくれよう大きな勘違い!
しかも半魚人は《マグロさん》になってました。
いやマグロって私、言ったっけ?
ああ、グルちゃんが私の気持ちを伝えてたみたいです。
「皆、待ってよ?!《マグロさん苛め》は濡れ衣よ。むしろ私が命の危機だったんだけど。泣き出した理由はサッパリよ?」
「そうなんですか?」
「そうなのじゃ?」
「そうでしたか」
何とか誤解を解けて良かったです。
その間も泣き続けるマグロさん。
マグロさんの足元には涙で水溜まりが出来てました。
今にも池になりそうです。
とにかくマグロさんを落ち着かせましょう。
マグロさんは一応門番さんですので、中に入るには彼の許可が必要です。
「あの、マグロさん?《当たり》という事でいいですか?」
ギョッ
「はひっ!?」
私の言葉にたった今まで天を仰ぎながら泣いていたマグロさんは一瞬で泣き止んだかと思えば、私をギョッて感じで凝視しました!?
魚顔がメチャクチャ怖い!
((俺は今、モーレツに感動している))ドンッ
「は?」
((モーレツに感動しているんだ!))ドンッ
「!?」
((もう一度だ))ドンッ
「な、何か?」
((もう一度俺の名前を言ってくれぇぇ!!))ドンッ
「はいぃ?!」
言葉を発する事に私に迫るマグロさん。
激迫してマグロ顔を近づけます。
怖いから止めて下さい。
そしてその迫力に私を置いてきぼりにして後ろに下がった三人娘達。
ちょっと薄情じゃないですか?
((俺はずっと悩んでいた。コシナガマグロである俺達は何故にマイナーなのか、と))
「はあ」
((だから決めたのだ。竜宮城門番として我が名を問い、《コシナガマグロ》の存在意義を改めて知らしめ、必ずメジャーになってやると!))
「……………」
《コシナガマグロ》の名を問う事でメジャーになれるかは知りません。
マイナーな理由はよく分かりませんが、前世スーパーに並ばない魚であった訳だし、単に流通上の不都合によるものだと思います。
それが竜宮城門番として名を問う事で存在意義?を知らしめる事になるのか意味が分かりませんが、彼なりの承認欲求を満たす行為に過ぎないという事なんでしょう。
まったく迷惑な話です。
「話は分かりました。それでは要件を満たした様なので門を通ってもいいですよね、マグロさん?」
((コシナガだ!))
「は、はい、《コシナガマグロ》さん」
((………いいだろう。行くがいい))
よし、言じりを取りました。
私は直ぐさまドン引きして下がった薄情三人娘達をお出でお出でで呼び寄せます。
そして《コシナガマグロ》さんにジッと凝視されながら、ドキマキしつつ門を通り過ぎていきます。
良かったぁ。
これでマグロさんーもとい、《コシナガマグロ》さんともお別れです。
二度と会う事もないでしょう。
良かった良かった。
((待て、お前達!))
「「「「!?」」」」
通り過ぎたところで《コシナガマグロ》さんに後ろから呼び止められました。
再び三人娘は私の後ろに下がります。
アンタ達、本当に薄情ですね?!
((コレをやる。俺の種類名を当てた礼だ))
「アリガトウゴザイマス」
手渡しで渡されたのは門番さん写真入りハートマークブローチでした。
門番さんの横顔が死んだ魚の目をしてます。
入らねーよ、こんなモン!!




