第159話 ダンジョン温泉
◆ダンジョン温泉
カーナ視点
公園のような場所の中央に沢山の湯が流れ、その湯を多くの四角い箱が受けています。
その箱は湯で満たされますが、そうする事により箱の底に湯の花(温泉の成分の固まったもの)が溜まります。
そう、これは
「湯畑?」
「ユバタケとは?カーナさま」
「おお、温泉なのじゃ」
「臭いがきついです」
「グワッ!」
まさか日本の草津ソックリな湯畑があるとは思いませんでした。
本格的な温泉じゃないですか。
何かワクワクしてきます。
おっと、私としたら完全に舞い上がってしまいましたね。
もう一度我に返りましょう。
何しろココは高度に作り込まれたダンジョンという名の仮想現実アトラクション。
私達は今、あらゆる感覚を現実と錯覚させるシステムの中にいるのですから。
「でも、現実でなくとも温泉の醍醐味は味わいたいわね」
「カーナさま、楽しみたいです」
「楽しむのじゃ!」
「おねえさま、楽しみましょう」
という事で、流石に疲れがみえるオルデアンちゃん達。
ここは危険に配慮しつつ、ちょっとは楽しんでもバチは当たりませんよね?
「グワワッグワーッ!!」
「ああ、うるさい?!」
「そうです、カーナさま。ペリーがいたのでした」
「静かだったから忘れていたのじゃ」
「動けない、見捨てるな!って怒ってます」
「グワワ!」
真ん丸くなってから腹が膨れて眠っていた如く静かだったペリーボール。
背景になってたんですが流石に置いてかれるのは嫌だったんでしょう。
激しくわめきたてています。
いやいや動けないのはアンタが食べ過ぎで自業自得だし、従魔だって私の意思じゃないんですが?
ハッキリ言って迷惑の塊のようなペリーボール。どうしろと!?
「いやアンタ、私を食べたでしょ。従魔になったからって見捨てられても反論出来ないよね?それに、こんなデカイボールは邪魔だしお荷物なんだけど?!」
「グワワッ」
「《人でなし》って言ってます」
「妖精だからね」
はあ、困りました。
こんな道一杯の大きな羽毛、私には動かしようがありません。
ん?
コロコロコロンッ
「グワッ」
「カーナおねえさま、動けるって言ってます」
「動けるんかい!?」
「カーナさま、手触りがいいです」
「モフモフなのじゃ」
「そーきたか!?駄目よ皆、絆されちゃ駄目!」
自身で転がれる事をアピールするペリー。
わざとオルデアンちゃん達に寄りかかってモフモフをアピールですか。
いろいろとアザとい元ペリカン便です。
そうして少し進むと、温泉老舗旅館風の建物が一軒見えてきました。
これはココが目的地という事なんでしょう。
中に入ると番台らしきものがあり、そこに見覚えのある半透明割烹着おばちゃんがメガネを掛けて競馬新聞に集中してました。(第124話参照)
あのスキー場の観光案内所にいた競馬好きの案内おばちゃんです。
例によって競馬新聞に集中して私達に気付きません。
ちゃんと仕事をして下さい。
それにしても番台があるって事は旅館はフェイクで実は銭湯だった落ちのようです。
紛らわしいですね。
あ、そういえば入り口はペリーボールのサイズでは入れないよなって、後ろ振り向いたらペリーは小さい丸になってました。
なんだよ縮小出来るんかいです!?
「おばちゃん、女湯4人。従魔一匹」
((あら?あんた達久し振り。雪山で会った子達じゃないか。一人増えてるかね?))
「グル子といいます」
((可愛いじゃないか。顔見知りだから今日はタダにしといてやる。そっちのオネェちゃんには随分と儲けさせて貰ったしね。ああ、大浴場は混浴だから貸し水着を使うといいよ))
「おばちゃん、有り難う」
「おば様、有り難うございます」
「有り難うなのじゃ」
「有り難うなのです」
「グワ」
貸し水着。
果たして妖精サイズがあるのかって、貸し水着コーナーを物色したら普通にありました。
何という水着揃え。
グルちゃんと二人で感動ものです。
そんで待てやペリー。
当たり前のように女子更衣室に入って来たけどお前メスなのか?と問い詰めると、間を置いてから頷いたペリー。
その間は?って、その前に水着着る気満々なペリーにペリカン用水着無いからなって言っても、言う事聞かずに貸し水着を物色始めるペリー。
だいたい羽毛着てる上に水着着る意味があるのか分かりません。
でも色々拘りがあるのか、水着をとっかえひっかえ収納ボックスから取り出しては首を捻って放り投げます。
回りのゴーストゾンビ客が迷惑そうに遠巻きです。
良い子はマネしちゃいけません。
さて、そんなペリーは放って置いて、早速着替えてホールで待っている私とグルちゃん。
オルデアンちゃんと織姫ちゃんは幾つかある着替えコーナーからまだ出てきておりません。
この銭湯は番台を過ぎると広いホールのようになっており、思い思いのゴーストゾンビ客が飲食を楽しむというレストランコーナーになってます。
いわゆるスーパー銭湯というヤツでしょうか。
残念ながら私達は飲食出来ません。
(ゴーストゾンビに積極的に触れる、その食事を体内に入れるとゴーストゾンビ化してしまう為。なおゴーストゾンビはエキストラであり基本的に役柄以外は無関心)
が、それ以外の行為は問題ないので、色々と楽しみたいと思います。
他に温泉卓球コーナーとか、ユーホーコーナーとか、プリクラとか、エトセトラ。
「カーナおねえさま、このお煎餅は固いです」パリッ
「鬼煎餅は固さが売りなのよ。我慢しなさい」パリッパリッ
という事で、スキル《お煎餅の家》から持ち出した《毎日お煎餅が出るお茶請け皿》をグルちゃんと囲んでちょっとしたお茶会をしています。
因みにグルちゃんは黒のスクール水着。
私は白のスクールを着ています。
しかし妖精用スクール水着。
よくあったな?!
「二人、遅いですね?」
「そうね。まさか、ゴーストゾンビに絡まれたとか」
「おねえさま、それは大変です?!」
「冗談よ。経験からだけど、彼らは役柄以外興味ないから」
「そうなんですか?」
「多分ダンジョン運営側から、役柄以外は興味や認識が薄くなるように仕向けられてるようだわ」
「運営……」
「?」
私がダンジョンの運営に言及したら、グルちゃんが急に黙りました。
どうしたのかしら?




