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第138話 アルタクスとテバサキ2

◆近衛騎士アルタクス 視点



「そなた今、妖精と、言ったか?」

「な、なんでぃ城の兵隊かよ?俺のところに兵隊の用はねーぞ。帰った、帰った」


男は、我ら近衛隊に気後れする様子もなく、自分ペースで話してくる。

随分肝の据わった男のようだ。



「無礼な!その物言い、我らが皇国近衛騎士団と知った上での発言か!?」

「あ?無礼だと?コノエだかアロエだか知らねぇが、俺の仕込みの邪魔なんだよ。とっと帰んな!」

「な、何だと!き、貴様、私を女だと思って侮っているのか!?」

「は?女だとか男だとかも知らねーよ!ただ俺の仕込みの邪魔だけはするな、それだけだ!」



不味いな。

私と男の会話に割り込んだメイだが、ワナワナと手を震わせキレかかっている。

更に剣に手を掛けようとしている?

まさか丸腰の平民を斬るつもりなのか?!

くっ、ここは私が入るしかない!


ジャキンッ

「貴様ーっ!!」

ガッ!「其処までだ、メイ副官!」


剣を抜き男に振り下ろさんとするメイ。

私はすかさず間に入り、振りかざした剣を押さえる。


「アルタクス、殿っ!?」

「どのような理由があろうと丸腰の平民に剣を向けるのは行き過ぎている。納めよ」

「くっ、わ、分かりました」



何とかメイを引かせ馬を降り、改めて私が男と対する。

ここは身分に関わらず、男と同じ目線で会話する事が重要だ。



「部下が馬上からすまなかった。部隊長として謝罪する」

「お、おう!?わ、分かればいいんだ。とにかく俺は忙しいんだ。邪魔しなけりゃ、それでいいっ」



どうやら男は私の謝罪を受け入れたようだ。

先ほどは仕事を邪魔されて苛立っていたのだろう。

私は、これ迄の経緯や事情を説明し、彼に少しの時間を貰う事をお願いした。


少し神妙な面持ちで聞いていた蔵元の主人。

間も無く薄毛の頭を触りながら、照れくさそうに口を開いた。



「おおう!?お貴族様が何度も頭下げんじゃねぇよ。そんなに謝られたら俺も無下にはできやしねぇや」

「すまない。それでカーナ様、いや、貴殿と妖精様の関係を教えてほしい」

「様?あの小うるさい妖精との関係?大したことはねぇよ。あいつは単なる仕事仲間みてぇなもんだ」



すると、カーナ様と蔵元経営者の関わりが見えてきて、その驚くべき内容が明らかになった。

その内容とは、カーナ様が今流行りの妖精印ビールの元経営者で、更にこの傾いた皇国エール蔵元の再建に尽力し、新たな付加価値を示して見事、再建を果たしたというもの。


皇国エール蔵元を再建?

妖精印ビール元経営者??

何だ、それは???


昨今、皇国中の飲み屋や居酒屋にあり、皇国エールに並んで新たなビールの新境地を開いた、あの皇国国民を虜にする銘柄。

その味から直近では城の納入品にもリクエストされ、ガルシア帝国にも販売されていると聞く。

その経営者がカーナ様だったと?!


「はあ、カーナ様、一体貴女は何をなさるおつもりですか…………?」


カーナ様の行動は、ぶっ飛び過ぎて先が読めない。

あの方の正体は本当にスプリング▪エフェメラル様なのだろうか。

自信が持てなくなってきた。



「ん~それで?ウチから消えたオンドリのコッコドゥか。戻ってきたと?生きていたのか。てっきり妖精が報酬代わりに喰っちまったと思ってたんだ」

「いや父さん、カーナ様は魔物は喰わないわよ」

「何だと?あいつは飲んべえで食いしん坊だぞ?何でも喰うじゃねぇか。だいたいなぁ、人の軒先で屁をこいて寝てるようなヤツだぞ?こないだだってコッコドゥの卵にヨダレ流してたじゃないか」




「…………」

次々に出るカーナ様の秘話?新事実?

その驚愕の内容に、唖然としたまま言葉が出ない。

皇国エール蔵元、父娘の会話は私のカーナ様へ抱いていた神聖さ、憧れ、神への信仰心などを根底から覆すような話だった。

ああ、もう本当に止めてほしい。



ヒソヒソ「スプリング▪エフェメラル様が屁をこいて軒先で寝る?アルタクスどの??」

「聞くなメイ。聞かないでくれ……」


だがメイよ。

何故に耳打ちなのだ?

はぁ、衝撃の事実に落ち込んでいるのだ。

あまり妙な事はしないでくれ……。



「アルタクス殿。落ち込まれているご様子ですが、私は逆に安心しましたぞ」

「メイ?」

「私が子供時代に聞いたのは、スプリング▪エフェメラル様は皇国の守護神でありながら、人に罰を下す恐ろしい神でもあると聞いておりました。おそらく、ほとんどの皇国民は私と同様の伝承を聞いて育ったと思います。だから私のスプリング▪エフェメラル様に対する感情で最初に思うのは、荒ぶる神に対する畏れでした」



皇国守護神、スプリング▪エフェメラル様。

皇国の民に浸透している伝承は、その偉大さと恐ろしさだ。

《 |彼の方《スプリング▪エフェメラル》は大きな慈悲で人に生きる(すべ)を与え、大きな悲しみをもって人の悪行を呪う》

これは神殿がスプリング▪エフェメラル様の偉大さと慈悲を称え、人間の悪行を罰っする恐ろしき神と伝承する言葉である。

神殿の洗礼時、悪行を働く者には神の呪いがある、とする戒律を伝えるものであり、洗礼に訪れた子供達に対する教えであった。

こうして皇国の民は、幼少時代からスプリング▪エフェメラル様の慈悲と怒りを畏れ、神として敬うのである。



「ですが、彼らから伝わる話は正反対で、寧ろ好感でしかありません。スプリング▪エフェメラル様は実に庶民的なのですね」

「……………そう、だな」



庶民的、か。

確かに彼女が本当にスプリング▪エフェメラル様なのなら、そうなのかも知れない。


神は慈悲だけでなく時として人を罰する。

それが信仰の神聖さを増し、神殿の権威の正統性が保たれる事に繋がってきたのだ。


神が庶民的であれば、民はスプリング▪エフェメラル様を身近に感じ、更に信仰心は高まるのかも知れない。



信仰心が高まる……?

軒先で屁をこく神に信仰心………???


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