第126話 サードステージ10
◆ダンジョン内ゲレンデ?
カーナ視点
「はい、先ずは歩き方から。ワン、ツー、ワン、ツーあんよは上手!」
さっそく、リフト終点前広場の軽い傾斜で練習を初めた私達。
一応、前世私は中級者でしたから、なんちゃってインストラクターを務めます。
それで意外と趣味は多彩でした。
何しろ若い時は冷え性では無かったものですから、何でもやりだがりな活発女子でした。
《若い時は冷え性では無かった》
《若い時は冷え性では無かった》
《若い時は冷え性では無かった》
なのでスキーとか、バス旅行とか、囲碁とか、将棋とか、人生ゲームとか、モノポリーとか、ゲートボールとか、凄かろう?
あれ??爺婆臭い??あれれ???
「ワン、ツー、ワン、ツー……きゃあ!?」
「ワン、ツー、じゃ!ひゃあ?」
『ワン、ワン、ワン、ワン、うお?!』
ありゃ?
オルデアンちゃんが転けて、下側にいた織姫ちゃん、ヒューリュリ様が巻き込まれました。
んー、歩き方から厳しい状態。
はたして今日中にボーゲンまでいけますかね?
ピロン
◉ボーゲンはスキーのターン技術の一つで、スキー板の先端を合わせて後端は広くしてハの字型を作り、制動をかけながら向きを変える方法。速度調節がしやすい事から 初心者入門に最適である。
はい、ナビちゃんのウンチク頂きました。
いちいち疲れるわ!
『主、こんな小さな板で本当に滑れるようになるのか?』
と、声を掛けてきたのはヒューリュリ様。
わざわざ二足歩行でスキー靴に詰め物をしてステッキ持ちながらプルプルしています。
色々とワンコにはハンデがありますが、ヒューリュリ様なら大丈夫でしょう。
「ヒューリュリ様は偉大な聖獣です。それくらいチョチョイのちょいです」
『聖獣はあまり関係ないと思うんだが』
「ヒューリュリ様なら大丈夫です」
『いや、かなり大変なんだが』
「《《大丈夫です》》」
『が、頑張るのだ』
押しに弱いヒューリュリ様。
私の言い聞かせに納得するしかありません。
まあ最悪、背中を押してしまえばいいのだし。(文字通り)
ほら、言うじゃないですか。
妖精は自分のワンコを谷底に落とすってね。
え、違う?違いませんよね?
『しかし主、結局その姿か?』
「でもヒューリュリ様、真っ黒なウェア?よりこの方がいいと思います。可愛いです」
「妾がもっと可愛いのを選んでやろうと思ったのじゃが、案外カーナたんらしくていいのじゃ!」
「アリガト、二人とも。褒め言葉として聞いとくわ」
実は私、現在雪玉状態です。
だって黒い革ツナギだけじゃブルブルです。
冷え性ですよ?
当然、革ツナギの上に羽織るでしょ。
雪ウサワンピース
雪ウサコート
雪ウサローブ
ほら、雪玉の出来上がり。
つまり、雪玉が空飛んでスキー指導をしているという状態。
だから飛んでサイタマじゃなく、飛んで雪玉が正解です。
いや、本当に寒いんです!
更にテバサキ印羽毛布団にくるまりたいー↑
(飛べなくなるから諦めしました)
━━━━━━━━━━━━━━二時間後
「カーナ様━━━っ!」
「カーナたん!」
『うおおおお~んっ!』
目の前を順番に通り過ぎる二人と一頭。
ボーゲンが何とか様になってます。
これなら一般コースで行けば、何とか下まで辿り着けそうです。
私?
前世《中級》の私です。(誇張して言う)
緩斜面でパラレルターンができるし、中級者用斜面を滑ることができます。
ターンの後半に両スキーをそろえて滑ることも勿論できます。
当然、直滑降ターンはバッチリだし、減速も停止も乱れは少なくすみます。
ええ、ちゃんとスキー板とスキー靴は装着してます。
もちろん妖精用です。
あるんですね、レンタルスキー妖精用。
お陰で二人と一頭にきっちりと教えられました。
はい?
確かに妖精用があったのは謎ですが、サイズも選べましたし、きちんと安心のメーカー品です。
ただね?
いざコースに出て、二人と一頭にアドバイスしながら並走なんて致しません。
え?
出来ないからやらないって?
先生は安全第一のお手本を示さねばなりません。だから出来ないではなく《やらない》が正解です。
本当だからね?
それにほら、私は飛べます。
つまり、スキーを使わず的確なアドバイスが可能なんです。
だって、この方が楽ですもん。
あれ?
これってレンタルが無駄じゃん?!
「えー、皆さんは私の指導によく耐えてくれました。最終試験です。ここからあの真下まで滑って一気に次のステージにいきましょう。それでこのスキー教室は卒業になります。よくここまで頑張りました。先生は嬉しいです」
「カーナ先生、有り難う御座います!」
「先生、妾も頑張ったのじゃ」
『我も頑張ったのだ』
うんうん、優秀な生徒達に先生は感動しました。私のスキー教室は大成功です。
早速、本コースにデビューさせてあげましょう。
◆
「カ、カーナ様、ここを滑っていくんですか?」
「怖いのじゃ?!」
「主、あんまりなのだ」
「え?一般初心者コースでしょ。皆、何をビビってるの??」
皆が真っ青な顔で見下ろしてます?
え、この先初心者コースって看板もあるし問題ないよね?
ザッザッザッザッザッ
「は?!」
足元に広がるのは絶壁かと見まごうコブだらけのコース?!
どうみても上級者コースにしか見えません。
だってさっき看板にこの先初心者コースって書いてありましたよね?
え?私、見間違いました?!
慌てて看板を見直します。
【この先初心者コース、ではありません】
「はあ?!何なのよこの看板!詐欺だわ!」
「カーナ様?」
「大丈夫かカーナたん?」
『主、どうしたのだ?』
「どうやら初心者コースじゃなかったの。ごめんなさい」
「カーナ様、私は平気です」
「そうじゃ。カーナたんが落ち込む事はないのじゃ!」
『主、我も平気だぞ』
「有り難う、みんな。だけど他にコースが見当たらないわ。どうしよう!?」
斜度は間違いなく30度以上、どう見ても上級者コースです。
とてもボーゲンで滑り降りる事は出来ません。
「くっ、最悪、スキーを外して徒歩で降りるしか……」
「カーナ様、あれ!」
「何、オルデアンちゃん?あのネオンがどうしたの?」
オルデアンちゃんの指差しした先に何故か、ネオンサインで文字が現れた看板が有りました。
何何??
【ホォースステージに行く方は、このコースをスキーで滑り降りて下さい。スキー以外でのコース走破は認められません。やり直しになりますのでご注意下さい】
「はあ!?どんな罰ゲームよコレ!!」
何て事!
これじゃあ、スキー上級者にならないとフォースステージに行けないって事じゃない!
あ、私もスキーでないと駄目なの!?
「カーナ先生、私行きます!」
「え?」
「妾も行くのじゃ!」
『仕方ない。我も行こう』
私が頭を抱えていると、オルデアンちゃん、織姫ちゃん、ヒューリュリ様が上級者コースに向かっていきます。
そんなの、自殺行為です。
「ま、待ってよ皆!さっきのを見たでしょう?あの斜度をボーゲンだけで滑るのは無理よ!」
私の言葉に二人と一頭は爽やかに振り返りました。
「カーナ先生、私、頑張ります」
「そうじゃ、カーナたん。任せるのじゃ!」
『主、見事に完走して見せるのだ。吉報を待つのだ』
何て格好いいのでしょう。
教え子二人と一頭の背後に後光の輝きを感じます。
しかし教え子が挑むのは上級者コース。
ボーゲンだけで挑むのは無謀と言わざるをえません。
ならば私も参戦です。
足にスキー板を装着して直ぐに後を追いました。
万が一の時は、私とヒューリュリ様でオルデアンちゃんと織姫ちゃんを守ります。
直ぐにヒューリュリ様に念話を送り、きっちり了解頂きました。
幼い二人の無傷は大前提。
ここは私とヒューリュリ様で頑張るしかないでしょう!




