表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/427

第11話

こうして私とヒューリュリ様は、従魔契約のお陰もありますが、本当の意味で心が通じ合い、お互いの信頼を深める事が出来ました。


けれど一つ、気がかりがあるのです。


ヒューリュリ様に、私の元の姿の事を話した時、ヒューリュリ様は一瞬、険しい表情になりました。

お顔が雄犬さまでも慣れると、その機微(きび)まで判るもの。

その時の事が気になるので、私はヒューリュリ様に質問する事にしました。



「あの、ヒューリュリ様。先ほどの話しの中で私の元の姿をお伝えした時、お顔が一瞬(けわ)しく感じました。気のせいならばよろしいのですが、何か私が粗相(そそう)をしておりましたでしょうか?」


ヒューリュリ様は、私の言葉に一瞬、目を見開きました。

その後に、悲しいお顔をしながら、ゆっくりした口調で話し始めたので御座います。


『すまぬ、ご主人。顔に出てしまっていたか。特に、ご主人に向けた感情ではなかったのだが、やはり隠しおおせぬか…』

「ヒューリュリ様…?」


ヒューリュリ様は空を見上げると、感慨(かんがい)深げに目を(しば)(つむ)り、それから再び私の方に向き直りました。



『ご主人。この世界は神に見捨てられた世界。そしてその原因を作った 諸悪(しょあく)根源(こんげん)が《人間》なのだ』

「《《神に見捨てられた世界》》??人間が諸悪(しょあく)根源(こんげん)!?」

『人間は、人間同士で昔から(あらそ)っていた。そして我らを、その(あらそ)いの道具とする為に殺し、魔法の力としてきたのだ』


何か昔のアニメで、動物を主人公にした様な話しでしょうか?

人間の文明発展が自然破壊を引き起こす事に対する (いき)どおりみたいな?

はっ、殺し!?


聞き違いでしょうか。

かなり穏やかではありません。



「その、ヒューリュリ様。《道具とする為に殺す》とはどういう事でしょうか!?」

『人間が魔法を使うにはまず良質な魔石、そして魔石に入れる魔力の元が必要なのだ。魔石は大地から採掘される物と、魔物や聖獣の体内から取り出す物がある』


土の中から採掘…化石みたいなものですかね?

でも、魔物…は分からないですが、聖獣の体内からって、体内にそのような石?があるのも驚きですが、それを取り出すってどういう事でしょうか。


「あの、ヒューリュリ様。聖獣ってヒューリュリ様の事ですよね?ヒューリュリ様の中に石?が有って、それを取り出して大丈夫なんですか?」

『大丈夫…な訳がない。いかに聖獣といえど、心臓である魔石を取られれば、生きれる訳がない』

「心臓?!」


何という事でしょう。

ヒューリュリ様は淡々とおっしゃりますが、心臓を取られれば聖獣でなくとも死んでしまいます。


魔物や聖獣は人間にとって、狩りの対象なのでしょうか?

動物的な生き物は止む終えないと思いますが、ヒューリュリ様のように人語を (かい)して会話が可能な者を狩るのは、あってはならない事です。


何でしょう。

ヒューリュリ様が狩りの対象になっていると聞いて、心の平静を保つ事が出来ません。

急に怒りが込み上げて来ました。


「…許せない…です。そんな、自分達の都合で無闇(むやみ)にヒューリュリ様達を襲うなんて、絶対に可笑しいです!」

『ご主人、我らの為に怒ってくれるのか?ご主人は優しいな』


ヒューリュリ様は、口の端を上げてお笑いになりました。

悲壮感が無くて良かったです。

ですが再び真顔になると、更にお話を続けます。


『人間共が我らを狙うのはまだ理由がある。我らのような聖獣やその眷属は、聖なる気を持っている。それは《穢れ》を払う力があるのだ。我らの血や肉、骨は全てにおいて穢れが生み出す(やまい)を癒す効果がある。更に生きた魔物や聖獣から取り出した魔石には、魔力の素を込めずともよく、最初から良質な魔法を行使出来る魔力がある。だから人間にとって我らの身体は、大変都合が良いという事なのだ』


聞いていて、吐き気をもよおしてきました。

まるで捨てるところがない食材のような話です。

明らかに知能がある聖獣を自分達の都合で狩り、魔法道具を作り出す材料とする。

まったく腹立たしい限りです。


ん?

「あの、ヒューリュリ様?お話の中で魔石は、大地から採掘するものがあると言われましたよね?」

『うむ』

「ならば、全ての魔石を大地から採掘するようにして貰えば、ヒューリュリ様達が襲われなくなるのではないでしょうか」

『その場合、魔石には魔力の素が(から)だ。だから魔力の素を込めなければならない』



ああ、なるほど。

ヒューリュリ様達を襲った方が、何かと効率的な訳ですか。

何だか、くその論理です。


んん?

「あの、魔力の素とは何でしょうか?」

『魔力の素とは生き物の【生命力】だ。奴らの魔法で生き物の【生命力】を魔石に注ぎ、魔力に変換する。【生命力】はその代償になった生き物の、(たましい)力に比例して大きくなる。だから、代償に使う生き物は我らのような聖獣を使う方がより多くの【生命力】を得られるのだ。そして代償にされた者も命がない。(たましい)を奪われるのと同義なのだ。生きていられる訳がない。しかも魔力は使えば減ってしまうし、魔石もある程度使用すると、割れて塵になってしまう。だからそれを手に入れる為に我らを狙うという訳だ。当然、代償にされた者達の怨念は行き場を失い、穢れとなってこの世に害を成す。アンデットやゾンビ、(やまい)の素になるのだ』



魔法とは、なんと不経済で非効率。

しかも罪深いものの様です。

そうまでして、魔法を使う意味があるのでしょうか。


「その、ヒューリュリ様?彼ら人間は何故(なにゆえ)、其処までして魔法を使うのでしょうか」

『それは、この外の状態にある』

「外の状態?」

『ご主人。今ご主人から見えている外は、御覧の通り雪の積もった冬の状態だ。ある時から季節が止まり一年を通して冬の世界になってしまった。原因はわからぬが、我らは神がこの世界を見捨てられたせいだと思っている。おそらく人間の争い事に呆れ、この世界を離れられたのだ。その為、この世界の人間は魔法で疑似的な春の空間を作り、その中に住まうようになった。その空間の中では、一年中を春の季節にする事ができ、そこで農耕や牧畜を行って生活する事が、普通の状態になっている。だが、それを維持する為には、絶えず大量の魔石と代償が必要になってくる。それを確保する為、人間達は我らを襲い、人間同士で奪い合うのだ』


ああ、何という世界に私は転生してしまったのでしょう。

この世界は誰かの命を糧にしなければ、生活すら出来ない世界でした。

あまりの命の軽さに、恐怖と嫌悪と吐き気しかありません。


恐ろしい世界。

何とか日本に帰れないものでしょうか。

もし日本に帰る事が出来るなら、一番に家族にヒューリュリ様をご紹介致したく思います。


あの家族なら、直ぐに受け入れてくれるでしょう。

特に妹は、家犬を飼いたいと申しておりましたし、両親は最近物騒だし、運動不足なので、毎朝の散歩犬を欲しておりましたから、きっと大喜びでしょう。

勿論、お尻に狂犬病のお注射をブスッとして、注射完了犬シールを貰わないといけませんが。

は?

ヒューリュリ様は、人語を解する聖獣様。

雄犬さまのように扱っては、失礼で御座いました。

やはりタキシードを着せて、靴を履かせるべきでしょう。

某ケータイ回線会社の宣伝マスコットか、政治家に立候補出来そうです。

【聖獣の聖獣による、聖獣の為の政治】でしょうか。

私は差し詰(さしづ)め、その秘書でしょう。

なんか凄そうです。


『ご主人、如何(いかが)致した?』


は?!

また私ったら、有りもしない妄想に(ふけ)ってヒューリュリ様を忘れておりました。



「その、ヒューリュリ様、とてもお話が恐ろしくて、少し現実逃避しておりました」


皆さま、わたくし、カーナのお話しを見に来てくれて、ありがとうございます。

今後も、私の独りよがりな、恥ずかしい私生活を公開して参りますので、何卒、今後も御贔屓(ごひきき)の上、応援お願い致します。

なお、お星さまを沢山付けて頂けますと、私の生活も充実いたしますので、宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ