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Additional Time  作者: 口羽龍
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 それから、虎次郎は高校時代の仲間の事を考えるようになった。先日、亜希子と一緒に思い出の地に行ったからだろう。その様子は、教員仲間も気にしていた。


「どうしたんですか?」

「あの子たち、元気にしてるかなって」


 虎次郎がそんな事を考えるなんて。よほど気になっているんだろうな。今まで過去の事を考えなかった虎次郎が、過去と向き合うとは。


「心配?」

「うん。久々に会いたいなって」

「そっか」


 だが、不安もある。また冷たい目で見られるんじゃないかと。教員として再出発したとはいえ、戦力外になった事で、まだ冷たい目で見ているんじゃないかと。


「でも、嫌な目で見られないか心配で」

「いいじゃない。今は教員として頑張っているんだから」

「そうだね」


 ふと、虎次郎は考えた。もし、誰かと結婚したら、高校時代の仲間を招待したいな。そして、両親も招待したいな。そうすれば、新しい人生を歩み始めた自分を祝福してくれるだろう。戦力外になって以降、冷たい目で見られたけれど、もう冷たい目で見られなくなるだろう。


「いつか誰かと結婚したら、招待してみたいな。先週ね、村山先生と一緒に思い出の地を歩いて思ったんだ」


 村山先生って、あの家庭の先生と? 高木は驚いた。まだ虎次郎に知り合いがいたとは。しかも一緒に出かけたとは。亜希子はシングルマザーで、あまり遠出はしないのに。


「そっか。思い出の地か」

「たどってみるのもいいかもしれませんね」


 と、そこに亜希子がやって来た。亜希子は嬉しそうな表情だ。明らかに行く前と表情が違う。誰かと一緒に出掛けるだけで、こんなに気持ちが軽くなるんだろうか?


「あっ、村山先生」

「はい?」


 亜希子は高木に呼び止められた。どうしたんだろう。気になるな。


「杉村先生と一緒に思い出の地を歩いてきたんですか?」

「うん。高校時代に一緒だったから」


 亜希子は笑みを浮かべた。よほど先日の事が楽しかったようだ。久しぶりに仲間と一緒に出かけると、どうしてこんなに嬉しくなるんだろう。


「そうだったんですか」

「うん。高校の頃、私、サッカー部のマネージャーだったので」


 そういえばそうだったな。虎次郎と同じ学年で、マネージャーをしていたな。亜希子は真面目で、世話が良くできるが、まじめすぎてあまり話す事がなかったようだ。なので影が少し薄かったな。


「そうなんだ」

「だけど、杉村先生、忘れてたみたいで」


 それを聞いて、虎次郎は苦笑いをした。高校時代のマネージャーだったのに、亜希子の事を忘れていたとは。厳しいプロ生活の中で、高校時代のマネージャーの事を忘れていたんだろうか?


「へぇ。でも、思い出してくれて、よかったじゃん」

「そうだね」


 ふと亜希子は思った。あのときはまた行きたいと思っていたんだけど、今でもまた行きたいと思っているんだろうか? もしそうなら、またどこかに行く計画でも立てようかな?


「また行ってみたいと思ってるの?」

「うん」


 亜希子は嬉しくなった。また行きたいと思っているようだ。今度も凛空を連れてどこかに行こうかな?


「そうなんだ。俺、あの頃の友達が気になってしょうがないよ。会ってみたいよ」

「みんなも会ってみたいんだね」


 2人は思った。いつかまた、別の思い出の場所に行ってみたいな。そして、仲間と再会できたらいいな。




 その夜、亜希子は1人で考え事をしていた。あの頃の友達は今、どうしているんだろう。元気だろうか? また会いたいな。そして、いま何をしているのか聞き合いたいな。


 亜希子は立ち上がった。また思い出の地に行きたいと思っているけど、凛空は行きたいと思っているんだろうか?


 その頃、凛空は勉強をしていた。明日はテストだ。しっかりと勉強をしないと。


「凛空」


 凛空は振り向いた。そこには亜希子がいる。どうしてんだろう。凛空は首をかしげた。


「どうしたの?」

「また、思い出の地に行ってみたいと思ってる?」

「うん。あの人もいい人っぽかったから」


 どうやら、虎次郎をいい人のように思ってくれたようだ。元プロサッカー選手と言うだけで、こんなに好印象になるとは。戦力外になったとはいえ、元プロサッカー選手と言うだけでこうなるとは。


「そう。楽しかったのね」

「うん。いつか一緒にディズニーリゾートに行きたいな」


 凛空は考えた。東京ディズニーリゾートは幼少期に行ったらしいが、全く覚えていない。行けるのなら、ぜひ行ってみたいな。できれば、虎次郎と一緒に行くのがいいな。


「本当? じゃあ、いつか一緒に行ってみようよ。そうね。冬休みがいいね」

「冬休み! クリスマスだから特別なのがやっていそうだね!」


 凛空は知っている。東京ディズニーリゾートのクリスマスは、特別なイベントがあって、いつもとは違う魅力がある。ぜひ、行ってみたいな。


「うん」

「でもそのためなら、勉強を頑張らないとね」

「そうだね」


 ふと、凛空は鼻歌を歌い出した。亜希子は凛空の鼻歌が気になった。


「どうしたの?」

「いや、ただ鼻歌を歌っただけ」


 東京ディズニーリゾートに行けるかもしれないと言ったので、嬉しくなったから鼻歌が出たようだ。いつになっても、ディズニーリゾートはみんなの憧れだな。


「あの人の事を考えてたのかなと思って」

「そんなわけじゃないよ」


 亜希子は凛空の部屋を出ていった。こんなに嬉しい凛空を見たのは、久しぶりだ。虎次郎といるだけで、こんなに凛空が笑顔になれるなんて。虎次郎といれば、何かいい事が起こりそうだ。もっと一緒にいたいな。

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