贖罪と願望、願望と贖罪
「貴方が居てくれたなら」
貴方が居てくれたならそれで良かった。
私は貴方が居てくれるだけで何でもできた。
何でも耐えることができた。
虐めにも耐えることができた。
貴方が居たから。
貴方以外の存在なんてどうでも良かった。
貴方のためなら何でもできた。
貴方のためなら何でもできる。
命だって捧げられる。
貴方のためならば
けど、あなたはもう居ない
あれ程に愛し合っていたのに、貴方だけが居ない。
貴方のためなら何でもできるのに、そんな貴方はもう居ない。
今でも貴方を夢に見る、いえ現実でも貴方を見る。
これは幽霊なのか、幻覚なのか。
恐らく幻覚なのでしょう。
けど私の世界には確実に貴方は存在する。
けど居ない。
わかっている。
貴方は消えた。
私の前で消えた。
私のせいで消えた。
目の前で起きたのだから何が起こったのか全てわかっている。
あの時、私が確認していれば貴方は消えなかった。
貴方は私を助けようとして消えた。
私の不注意のせいなのに。
私のせいで消えた。
私が周りを普段から確認する人間だったなら、貴方は助かっただろう。
けどそれが出来ていなかった。
そのせいで虐められてもいた。
私だけなら私の責任だ。
けど貴方まで私の不注意で巻き込んでしまった。
私は私の不注意が原因で虐められても生きてはいる。
けど、貴方は私の不注意で消えた。
虐められていたのだから原因も分かっていた。
なのに決してなおさなかった。
直せなかった。
何としてでも直して、周りを見るようになれていたならよかった。
けど出来ていなかった。
だから貴方は死んだ。
貴方が死んだのは全て私のせいだ。
私は責任を取って死にたい。
貴方のもとに行きたい。
けど貴方が最後に放った言葉が頭を支配する。
「大丈夫?
怪我はない?
良かった
無傷だ。
君の体に傷なんか付いていたら本当に泣くよ。
良かった。
君は無事だ。
綺麗だ。
良かった。」
最後まで貴方は私の事を心配していた。
あれほどまでに私の事を心配していたのに死ぬなんて出来ない。
きっと死のうものならあの世で貴方に怒られるだろう。
きっと一生口を聞いてくれないくらいに貴方は怒るだろう。
だからまだ私は死ねない。
彼女がそれを望んでいる筈だから。
「貴方がいてくれたなら」
貴方がいてくれたから私は生きてられた。
貴方が私の全てだった。
きっと貴方も私が全てだっただろう。
だってそう仕向けたのだから。
貴方は苦しんでいた。
だから私は貴方に手を差し伸べた。
救いの手を。
貴方は私に依存していった。
そう仕向けた。
貴方は虐められていた。
だって私がそう仕向けたから。
貴方が孤立すれば良かった。
貴方が孤立したなら私一人の言葉に依存してくれるだろうと思った。
私の醜い歪んだ愛によって貴方を苦しめた。
きっとこれは罰だったのであろう。
だから私は死んだ。
貴方を苦しめたのだから。
私は貴方に劣情を抱いていた。
それが醜く、歪んだ愛であることを自覚していた。
けど抑えられなかった。
だから私はしてしまった。
貴方が孤立するように仕向けてしまった。
何と私は醜いのだろうか。
けど、貴方から頼られ、依存され、一緒に過ごす日々というものは実に甘美な時間であった。
それこそ天にも昇るほどの時間だった。
けどそれも終わった。
死んだのだから。
死は絶対に私への罰だった。
神が私に課した罰だった。
彼女を苦しめた私への罰だった。
だから今地獄にいる。
彼女を苦しめたから。
けどそれを理解してもなお望んでしまう。
「君とここで暮らせたなら」
ここは地獄だ。
苦しい。
こんな苦しいところにも貴方を呼ぼうとしている。
私は貴方といたい。
貴方といれるなら何処だっていい。
地獄だろうが天国だろうが現世だろうが、何処でもいい。
貴方といれるのなら何処だっていい。
そしてどうか醜い私の願いを聞いてほしい。
「貴方もここに来て欲しい」
貴方とならここすらも天国な世界になるだろう。
どうか来て欲しい。
.....................
ダメだ、それは貴方に死んで欲しいと願っているようなものだ。
それはダメだ。
死者が生者を誘うなんてダメだ。(いざなう)
それだけはダメだ。
けど、願望を止められない。
それに私は貴方に生きていて欲しい筈だ。
そうでなければあんな事を言うはずがない。
そうだ。
これはあくまで私への罰。
貴方を苦しめた私への罰なのだから貴方を誘うなんて本末転倒。
決してしてはいけない。
決してだ。
決して考えてもいけないのだ。
けど望んでしまう。
貴方といられたならどれだけ楽しいだろうかと。
けどそれはダメだ、きっと私の真意は彼女に向けた最後のあの言葉にあるはずなのだから。
だからこそあの言葉を思い出して、胸に刻んで、それでいて私への罰を甘んじて受け入れなければいけないのだ。
そうあの言葉を
「大丈夫?
怪我はない?
良かった
無傷だ。
君の身体に傷なんか付いていたら本当に泣くよ。
良かった。
君は無事だ。
綺麗だ。
良かった。」