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継の箱庭  作者: 福猫
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●継の箱庭

話しの展開の進み具合はかなりゆっくりです。苦手な方ごめんなさい。

 一度はないないと振り払った考えを、今度は確信を持って言い切る。



「えぇ。しっかり届いてますよ、()()として」


「! あなたは動物の言ってることがわかる不思議な人なの?」



 やっぱりそうなんだ。

 すごく稀にそんな人間がいるって、集会所でたまに見かける家猫のミケさんがテレビで聞いたって言ってた。

人間に言葉が通じるなんてはじめてだ……ちょっとワクワクしてきた。



「いえ、私が特殊な能力を持っているわけではないんです」


「?」



 ……わたしの、猫の言葉がわかるのに? それってじゅうぶん特殊だと思うけど……?



「――ここが……()()()()が、そういう特殊な場所なんです」



 よくわからないなぁ……って首を傾げてたら、もっとよくわからないことを言われた。

 ……気がする。



「この世界って……そうだ、そもそもここはどこなの? わたしが住んでた町と似てるような似てないような……でも、天国……っていうには違う気もするし」


「――もしや、とは思いましたが。どうやら貴女は、今日初めてこちらに来られたんですね」


「? うん、そう……だと思う」



 最後の記憶のアレの次はもうここだったから、きっとそうなんだと思う。



「ここが……この世界がどういう場所なのか、私でよければ説明させていただきますが」



 そう言いながら彼はわたしの隣……を少し空けて座った。



「あ、うん。ぜひ……お願いします」



 圧を掛けないように……なのかな? そのちょっとした気遣いになんだか心が温かくなる。



「では――ここは『(つぎ)の箱庭』と呼ばれる世界、天国・地獄に並ぶあの世のひとつ」


「継の箱庭……? あの世のひとつ…………やっぱり天国じゃないんだね」


「えぇ、そうですね。天国というのは主に神やその使いがおわす場所、神の裁きを受け、生前の善い行いが認められた死者が使いとして取り立てられる場所。そして地獄は生前の罪を償い魂を浄化する場所。……ここはそのどちらでもない死者のなかでも、とくに転生を望んではいない者が集められた世界」


「転生を望んでいない…………?」


「えぇ。転生を望む者はすぐに裁きを受け、数々の手続きを経て次の生へと移っていくんです。ここへ送られた者でも後々転生を望むようならその流れへ移ることはできますが…………あまり多くはないと」


「……どうして?」


「ここでの暮らしが居心地いいから、ですかね」


「…………居心地」


「ふふ、話を戻しますが――人だけでなく様々な生物が命を終えて神の裁きを受けます。天国行きの魂はもちろんそこへ留まり、地獄行きの魂は転生までかなりの時間を要する。ならば新しい命を現世に送らねばと次々に増やしていった結果、死んで戻ってくる大量の魂の処理に神は手いっぱいとなった……」



 足りないなら新しく創ればいい……って、増やしちゃったんだ。神様なら簡単にできそうだもんね。…………あとのことあんまり考えてなかったのは……どうなのかなって思うけど。



「――そこで思いついたのが、裁きを行う優先順位をつけること。善悪がはっきりしている魂は裁きやすいのでよしとして、判別に時間がかかりそうなその他の魂のうち転生を望む者を優先的に流し、そうでないものはどこか別の場所で待っていてもらおうと……そうして造られたのが――」



 『継の箱庭』という世界。



「まぁ要するに。神の都合で造られた、裁き待ちのための待合室ですね」


「待合室って……とってもスケールの大きな話だった気がするのに、なんだか一気に庶民的になったね」



 突っ込みどころがいろいろあったけど、とりあえず。

 わたしはやっぱりあのとき死んだんだな……ということはわかった。



「それにしても、あなたはどうしてそんなこと知ってるの? あなたもここへ送られてきた死者じゃないの?」



 わたしと同じように死んでここに来たんだとしたら、神様たちのことなんて知りようがない。

 なのになぜ? ――もしかしてこの世界を造った側なの? なんて疑問が浮かぶ。



「あぁ、それはですね」



 そう言ってゆっくりと立ち上がった彼は、そのまま部屋の奥へ進み何かを手にして戻ってきた。

 彼が手にしていた物、それは一冊の本だった。



「この中に記されてるんです。この世界の成り立ちやら、地図やら、この世界に住まう者について、この世界でどのように過ごしていけばいいのかなどなど。マニュアルのようなものですかね」


「え」


「わざわざご丁寧に。ありがたいですよね」



 ペラペラとめくって見せてくれたけど、私の目ではあまりよくわからなかった。

 それにしてもマニュアルとかあるんだ、わざわざ。誰が作ったんだろう……。



「そうそう、私も貴女と同じ死者です。生前はフランスで生まれ育ち二十八のときにこちらへ、かれこれもう……何年でしたっけ? んー……二十年くらいになりますかね」


「フランス……聞いたことある。二十年って……そのわりには声が若いような気がするんだけど」


「あははは、それはそうですよ。私たちはあくまでも死者。生活はしていますが、生物として生きているわけではないので成長はしません。もちろん、心臓も止まってますよ」



 彼が胸に手を当てながらそう言った。


 ……あ、そっか。生まれ変わったわけじゃないから、一応死んだままなのか。

 死後の世界で生きてる……って、言葉も状態もなんだかややこしい。



「あ、ちなみに。このマニュアルのような本を作ったのは、この世界を造った神に仕える者――神の使いたちです。彼らはとてもわかりやすい姿をしてますし、管理者としてこちらで暮らしているので、すぐお目にかかれますよ」



 ……………………頭パンクしそう。

 へぇ、そうなんだ……って軽く流せないことがいっぱいあったような。


 終始穏やかに語ってくれた彼も、二十年前はわたしみたいにハテナを頭にいっぱい浮かべてたのかな。それとも初めからこんなに落ち着いてたのかな。



「――ところで」



 この世界についてのあれこれが素直に頭に入ってこなくて、どうでもいいかもしれないことに思考を馳せていたら……



「この世界の詳しい説明はまた追々話すとして、私としては貴女のことをもっと知りたいのですが……」


「わたしの……あ、そういえばそんな……話逸らしちゃったんだ。ごめんね」


「いえいえ、お気になさらず」



 そうだった。

 結構初めのほうで聞かれたのに、気になることが多すぎてそっちに流れちゃったんだ。


 遅くなったけどちゃんと自己紹介しなきゃ。

 挨拶は大事だって集会所の爺様婆様方が口を酸っぱくして言ってたもんね。


 ソファの上でピンッと姿勢を正し、彼に向き合う。


 よし――


読んでいただきありがとうございました。

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