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第八十八話 戦意と決戦


「ここを制した方が世界を握る事になる。全ての勝者だ。どちらかを殺しつくせば勝ち。そうなるまでは終わらない。負けたらお互い全部終わりだ。世界が地獄に染まるかどうか、今ここで決まる。さぁみんな、準備はいいかい?」


 カミヤが後ろを振り返って言った。吸血鬼が「いつでも」と不敵な笑みを浮かべながら答える。大きめの口から鋭い犬歯が覗いている。


「再び、我々が世界を支配する。はやく終わらせましょう。既に祝いのパーティー会場は予約してある。この県で一番高級なホテルです。妻や娘が楽しみに待っている。はやく終わらせないと遅れてしまう」


「血を持って帰らないとな。この空き瓶に詰めよう。お土産を待っている」


 これらの会話を聞いて狼は言った。


「お前たちが血を貰うなら、俺たちは肉を貰うぞ。狼にとって、勝利と食事は同義。殺した獲物を胃袋に入れなければ意味がない。同胞が待っているのはこっちも同じだ。俺たちは獲物を食い殺すだけだ。今回は骨まで齧り食ってやる」


 狼たちは遠吠えを上げる。辺りに鳴き声が何重にもこだまする。


 最澄は遠吠えに合わせて鼻でハモっていた。独特な鼻歌を歌っているように聞こえる。ゆっくりと首元に手を当てて、首に掛けていた細いチェーンを掴んだ。ネックレスかと思っていたが違っていた。


 そのまま最澄はチェーンを引っ張って千切った。「ブチン」と音を立てて首から外れて、チェーンは輪の形から一本の紐になる。紐を伝って下にスルスルと何かが落ちてくる。それを最澄は手で受け止める。指輪だった。チェーンには指輪に通されていたのだった。


 最澄は指輪を右手の人差し指に嵌めた。手の周りに冷気が漂い、ただでさえ氷点下に近い空気が凍っている。人差し指の周りは特に冷気が濃く、手の甲と薬指は靄で全く見えない。十中八九、あの指輪は氷具だろう。最澄はやる気満々といった様子だった。


「由紀ちゃん」

カミヤは由紀を呼んだ。

「後で渡すって言って、渡すの忘れてた。ほら」


 由紀はカミヤの方を向く。カミヤは由紀に何か投げた。由紀は上手くキャッチする。ピアスだった。由紀は安堵したような息を吐き、それを右の耳たぶに付ける。小さな銀色の氷の結晶が揺れた。


 由紀の背中から六本の太い氷が現れた。クラーゲンの足だった。しかし、その足のそれぞれに細長い棘が何本も生えていた。木の幹に細い枝が何本も脇から生えるというように。中央から六本の足が伸びている氷の結晶で、それぞれの足にさらに枝が付いているように。


 それぞれクラーゲンの足の根元は隣同士、橋を架けるように二本氷で繋がれていた。さらに背中からも短い氷が突き出ている。


 この由紀の姿は、まるで氷の結晶を背負っているように見えた。今、耳たぶで揺れているピアスと同じ形だ。氷の結晶の突き出た六本の足の部分が、六本のクラーゲンの足なのだ。ここまで荘厳な由紀の氷は見たことがなかった。


 氷具を使い続けていると、いつか氷具とそれを使う雪女が一体化する時が来ると、以前に由紀自身の口から聞いていた。そうなると雪女は劇的な進化を遂げる。その時がついに来たのだ。それを俺は歴代の銀霰姫の記憶で見た。


 僕は「アタタ」と唱える。氷を使おうとすると、自然に口が動いた。もう何百回も呟いた事があるみたいで、不思議な感覚だった。


 屋敷から逃げる時、アブダとニラブダは使えた。使用する地獄は深いほど強い。カミヤの言葉を借りると、唱えた地獄から氷の力を引き出して来るからだ。順番的には次は第三の地獄だった。


 雪女が生成する氷は第三階層のアタタから、第一のアブダと第二のニラブダよりも、自らの内面がより現れると聞いた。形状に自由が効いて、個人差が顕著になるらしい。また、想像力や練習度合いにも関係する。僕はアタタの氷の中で、一番身近で最も見た事のある由紀の蛸の足をイメージした。


 手の平から、長くて細い氷が三本現れた。だが、由紀の氷とは程遠かった。変に角ばっていて細長いので、昆虫の足が生えているようで不気味だ。カブトムシかゴキブリの足だ。


 由紀のような滑らかな足をイメージしたのだが、上手くいかずに歪な形になってしまった。やっぱりいきなりは無理だ。扱いきれなければアブダとニラブダを使おう。


 体中の骨が一気に軋む感じがする。アブダとニラブダは大丈夫だったが、これはキツい。今すぐにということはないが、三十分も使っていると骨が限界を超えてヒビが入るのではないか。


 一段階上の地獄を使えるようになるには一朝一夕にはいかないと、カミヤは屋敷で案内役の雪女を殺した後に教えてくれた。多くの雪女は第一の地獄のアブダしか使えない。第二の地獄のニラブダを使えるようになるのすら、数十年の修行を要する時がある。第三の地獄となると、使える雪女は限られる。


 僕がニラブダを使えた事さえ、カミヤは驚いていた。才能か、マカハドマの一部を直接取り込んだからか、とかブツブツ言っていた。


「修行するか、自分に合った氷具を持つか、時間が経って雪の力が体に馴染んできたら誰も手を付けられなくなるかもしれない。俺は大変な怪物を作り出してしまったかもしれない」

 カミヤはこんなことを言っていた。


 だから、僕が不十分にもアタタを使えた時、カミヤは昆虫の足のような歪な氷を馬鹿にするのではなく、ピューと口笛を吹いて「やるじゃん」と言った。


 雪女たちは僕らを睨みつけて戦闘態勢でいた。つららを出してそれを握りしめて刺しに来そうな雪女もいるが、何人かの雪女はスプレー缶やビニール袋を持っていたりする。筆を持って書道を始めそうな者も、傘を差してシャフトを肩に掛けている者もいる。全部、氷具なのだろうか?


 カミヤは右手で雪崩の箱を取り出して弄んでいる。待ちきれないという様子で今にも踊りだしそうだ。


「どうなるんだろう。ワクワクするなぁ、この興奮はそこら辺の戦争や格闘技とは比べ物にならない。こんな場面に立ち会えるなんて俺は幸せだよ。嬉ションしそうだ」


 カミヤは両腕をクロスして肩を握り「カカバ」と唱える。背中から天使のような巨大な翼が現れる。勿論、氷でできているが、表面が光沢で反射して白く光るので、本物の天使に見えてしまう。

 天使は夜空を仰ぐように手を広げて言った。


「さぁ、決戦スタートだ」




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