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第二十三話 秋とチンピラ


 仲間の男たちはまだ動揺していたが、枝川だけは冷静だった。


「派手にやりやがって」

 呆れるような、感心するような声音だった。

「どうせ、何をしても抵抗するんだろう?」


「ええ」と由紀は答えた。



「ならこっちも、こうするしか仕方がない」


 枝川は静かに言って、羽織っていたワイシャツを脱いだ。


「数と力の力でねじ伏せるしかない。そもそも、それが俺たちのやり方だ」


 枝川が後ろを見て「やるぞ」と言うと、周りの男たちの顔つきが変わった。頭の悪そうなチンピラみたいだったのに、目付きが険しくなっている気がする。

 枝川は窓の方を向いて、目を細めた。


「もう秋だな。月見はしたか?実は今日は、ここ数年で一番月が綺麗らしいぞ。スーパームーンって言うのか?」


 僕は工場に連れ込まれる前に眺めた満月を思い出す。枝川の顔に白い月光がかかっている。枝川は一人続ける。


「昼間は雨が降っていたけど、晴れて良かった。今はもう雲一つない、さっぱりした秋らしい夜空だ」


 数秒の間、枝川は時間が止まったように動かなくなったが、やがて僕たちの方を見て、こう言った。


「朝が来て、月が薄くなるまでには終わらせたい」


 耳元で、由紀が息を飲む音が聞こえた。僕は枝川が何を言っているのか分からなかった。

 最初は外の風の音かと思った。しかし今日は風など吹いていないことを思い出す。耳を済ませると、獣の唸り声のような声だった。耳を疑った。獣なんて風音よりもありえない。でも確かに、工場の中ではそれが何重にも重なって聞こえるのだ。


 枝川の肌の色がだんだん変わっていく。雲や鳥が月の光を隠したわけではない。肌は小麦色からへと茶色になる。同様の変化は周りの男たちにも起こっていた。


 体の表面からゴワゴワした毛が生えてくる。首からも、腕も、顔も、つるつるした肌の表面が毛布のようになっていく。体の輪郭も、人間よりも流線的にしなやかで、四つん這いの形に変化していく。

 手の爪が長くなり、指が縮んでいく。瞳が丸く、黄色になる。鼻が尖るように前に出てきて、向きだした歯茎から犬歯が伸びてくる。


 ここで、ようやく僕は枝川が何に変化しているのか、思い至った。


 そんなことが……ありえない……

 しかし、そのありえないが、まさに目の前で起こっていた。


 目の前に、狼の群れがいた。しかもその狼は大きかった。犬と呼ぶには明らかにおっかなく、オスのライオンの大きさとするとしっくりきた。


 その中でも真ん中の狼、枝川が変身した姿だけは嫌でも見分けがついた。体が二回り大きい。大きさで言えば、二メートルを超えるかもしれない。それは大きな狼と呼ぶには可愛すぎる。ほとんどの人が巨大な狼の化け物と言って腰を抜かすだろう。歯ぐきから覗く犬歯が鮫の歯のようだった。


 枝川たちの変化は終わっていた。九匹の狼はこちらを見つめていた。


「オオォ―――――ン」


 不意に、枝川と思われる狼は遠吠えを上げた。顔を少し上方に向けて、口を突き出すように上に向けて口を開けている。

 他の八匹の狼も、追随して遠吠えを上げる。何重にも声が重なっている。鳴き声は一匹で出すだけでも、大きくて威圧感があるのに、九匹同時に出されたら目の前で太鼓でも鳴らされたように、空気の振動がビリビリと伝わって来る。


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