強制散歩
ドンドンと扉の叩かられる音でセラは目覚めた。
(うぅ~ん…眠い)
柔らかなシーツから少し顔を出すとキラキラ輝く朝日が部屋に差し込んでいる。 眩しそうに目を細めると、セラは再びシーツの中に身を隠した。
その間も扉を叩く音が止む事はなかったが、セラはひたすらそれを無視し続ける。
フィルネスがいないのだから何時まででも寝ていいとカオスも言っていたし…と、勝手な解釈を口実に再び夢の世界に身を投じようとするが、無視すれば無視するほど扉を叩く音は大きく連続性を増す。
このままでは扉が壊れるのではないか…と思うがそれでも無視。
何の拘束も受けずに眠れるなんてここ数年なかった。扉の一つや二つ犠牲になってもらってもいいのではないかと思いながら意識が遠くなって行く―――
と、その瞬間。
セラを優しく包み込んでいたシーツが一気に取り払われた。
「鍵が開いていたぞ」
「カ~オ~ス~ぅぅぅぅ…」
シーツを払いのけ見下ろす大きな影をセラは恨めしそうに半開きの目で睨みつける。そのまま顔を背けると敷布に顔を埋めて体を丸め始めた。
碧眼の主が眉間に皺を寄せる。
「ほぅ…いい度胸だな。」
言うと同時にセラの首根っこを掴みあげた。
「うぎゃあぁぁっ!!!」
セラは突然襲われた痛みに色気の欠片もない悲鳴を上げる。
「何すんのよっ!!」
「起きたか」
セラは痛む自身の首根っこを両手でさすりながら声の主を見上げる。
「…ウェイン?」
「ご名答」
「…おやすみ」
またもや身を横たえ丸くなって寝ようとするセラの目前に、ウェインが手に持った衣服を差し出す。
「着替えろ、出かけるぞ。」
セラは目の前の服をちらりと見て一瞬考えるが―――
「…嫌よ」
目の前の世界を拒否するかに非対称の瞳を閉じた。
「何ぃ?! 俺がわざわざ朝の散歩に誘いに来てやったと言うのに何だその態度は。」
いや…頼んでませんって、そんなモノ。
「わたしは眠いの、寝るの。今日は泥のように眠ってやるって決めてるんだから。」
朝の散歩なんて一人でやってくれと言わんばかりにウェインに背を向ける。
だいたい何が楽しくて、昨日初めて一瞬偶然に会った程度の人間なんかを朝の散歩に誘いに来たりするのか理解に苦しむ。
「つべこべ言わずにさっさとしろ、嫌なら無理やり着替えさせるぞ。」
「…勝手にすれば。」
セラはウェインを無視して寝る事にした。
すると間もなくセラの足元が涼しくなり、長い寝巻が上にずりあげられる感触が伝わって来る。セラはぎょっとして驚き両目を見開いて飛び起きた。
「何すんのよ変態っ!!!」
慌てて起き上がりウェインに向かって蹴りをお見舞いしながら、ずり上げられた寝巻を慌てて元に戻す。当のウェインはセラの蹴りを見事にかわし、不敵な笑みを浮かべながら無言でセラに服を突き出した。
「分かったわよ、着替えればいいんでしょ着替えればっ!」
せっかく気持ちよく寝てたのに最っ低な目覚め。
(こいつ…フィル以上だわ…)
セラが服を受け取ると、背を向けながらも見張るようにその場から離れないウェインの後ろでセラはもそもそとやる気なく着替える。
「で、何処に行くの?」
着替えの終わりを告げるようにウェインの背中にむかって不機嫌に声をかけた。
セラが着ているのは、薄紫色の動き易そうな短めのワンピースに細身のズボンで一見町娘風。自分が着替えてから気が付いたが、ウェインも昨日の騎士の服ではなく、町に馴染みそうな兵士風の服に帯剣していた。
「ついて来い。」
それだけ言うと早足で進んで行くウェインにセラは慌てる。
「待って、シールさんに断ってからじゃなきゃ…!」
いけないのではないだろうか…??
「…何でいちいちあいつの許しを乞わねばならんのだ。」
ウェインはぴたりと歩みを止めると振り返り不機嫌そうに言う。
「えぇっ、だって…あの…よく分かんないけど…」
そんな気がするのですが…?
昨日は最初から最後までシールに面倒を見てもらったし、きっと今日もその予定だと思うし(違うの??)カオスは王様してて忙しそうだし…。
もしかして今日はウェインと過ごせって事??
等と考えているとウェインがちっ…っと舌打ちし、寝台の横にある引き出しから紙とペンを取りだしてさらさらとペンを滑らせると、それを寝台の上に投げるように置いた。
「行くぞ」
「あ、うん…」
置き手紙してくれたなら心配ないかな?
セラはちょっと不安に思いながらも早足のウェインに急いで付いて行った。