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残されたモノ  作者: momo
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子供の喧嘩

 ラインハルトが羽蜥蜴はねとかげを倒した時、空は既に白み始めていた。

 森を包み込んだ霧は晴れ、朝日が昇る様を眩しく迎える。

 

 腕を潰され酷い怪我を負ったラインハルト王だったが、痛みに眉一つ動かす事なく、馬上にあって真っ直ぐ前を見据えている。

 

 同じくモドリフの森に入り魔物を相手にした多くの騎士達は、軽傷から重傷まで様々な傷を負ってはいたが、幸いな事に命にかかわる傷を受けた者は一人もいない。

 一番の重症者は、羽蜥蜴と一人退治したラインハルト王だった。

 

 一行が天幕の張られた一帯に戻ると、負傷した者達は傷の手当てを受ける為救護所の天幕を潜った。

 ラインハルト王は馬を下り、セラの眠る天幕を目指す。

 ウェインと仏頂面のマクシミリアン、リカバリーもその後を追った。

 

 天幕は外の光をとり込む為入り口が開け放たれており、大きな荷物を抱えた一人の若い騎士が焦りを浮かべた表情でその中に入って行くのが見えた。

 ルビオンス―――昨日セラが助けた騎士だ。

 何かあったのか―――?!

 フィルネスが請け負ったからには何らかの間違いがある等とは考え難いが、セラが瀕死の状態であった以上ラインハルトに不安が過る。

 まさかと言う思いで天幕に近付くと、中から話し声が漏れて来た。


 



 「ホントに大丈夫かなぁ、ホントにいいの?」

 セラはパンと干し肉を同時に口へと運びながらルビオンスを見上げる。

 その周りには大量のパンと干し肉などの保存食が積み上げられていた。

 「勿論です。フィルネス様に申しつかり、食料は発注済みですので間もなく街より到着いたします。それよりセラ様には一刻も早く治癒の力を取り戻して頂きたいのです。」

 多くの騎士達が森に入り魔物と戦っている。

 彼らが戻って来た時にセラの力があればどれほど有り難いか…ルビオンスはそれを身を持って実感していた。

 「ごめんね、ルビオンスだって行きたかったんでしょう?」

 見た目ルビオンスの傷は完全に治っていたが、命にかかわる程に大量の出血をしていた為に貧血が酷く、剣を持って戦える状態ではない。

 「まったく…ちょっとくらい手を貸してくれたっていいじゃないよねぇ~」

 セラは忌々しそうに美貌の魔法使い…フィルネスを見上げる。

 フィルネスの魔法なら負傷によって失った血を造血する事も可能だし、これから傷を負った騎士が押し寄せたとしても、その手当てに苦労する程やわな力しか持ち合わせていない訳ではない。

 「こっちは手前てめえに術を使って疲れてんだ、年寄りはいたわれ。」 

 「何が年寄りよ、ねぇ?」

 「は…はぁ…」

 話を振られルビオンスは口籠る。

 フィルネスの輝き放つ異常なまでの美貌に恐れを抱いて、まともに目を向ける事すら出来ないのだ。

 「野郎なんか相手に出来るか。逆に吹っ飛ばして構わねぇってんなら手ぇ貸すぜ。」

 ふてぶてしく高笑いを上げるフィルネスにセラはそっと溜息を落とす。

 「ごめんねルビオンス…」

 絶大な力を目の前にちらつかせながら傍聴する魔法使い。

 対してセラは…必要とは言え、ひたすら食欲を満たしている。

 セラはフィルネスと不甲斐無い自分の身を、頭を下げて詫びる。

 パンを口に運びながら…ではあるが。

 そして顔を上げた時、セラは視線を感じて光の差し込む方向に目を向け―――手にしたパンをポロリと取り落とした。


 目に飛び込んできたのはラインハルトの影。

 

 額から血を流し、体中の至る所に一目で魔物の仕業と分かる怪我を負っている。 

 左腕はだらりと垂れ下がり、指の先を伝って赤い血が流れ落ちていた。

 

 「ラインハ―――」

 セラが驚愕に立ちあがり声を上げると同時に、フィルネスがセラの頭を掴んでその動きを止めた。

 「随分と遅かったじゃねぇか!?」

 言い様セラの両脇に手を滑らせるとその衣服に手をかけ、腹部から両脇に向かって服を引き裂いた。

 「ひぃっ!?!」

 セラは声にならない声を上げ硬直する。

 引き裂かれた服からは、白く柔らかな肢体が露わになっていた。

 隣にいたルビオンスは「うわぁ」と慌てた声を出して顔を背け、ラインハルトと後に続いた者達は一瞬何が起こったのか分からず釘付けになり―――事の次第を理解したリカバリーだけが背を向ける。

 「見てみろ、この完璧なまでの芸術を!」

 フィルネスは硬直するセラの脇腹を冷たい指で撫でた。

 「下手糞が血抜きに開けやがった傷も跡形もなく見事に治癒してやったぜ。骨と内臓も見せてやりたい所だがちと無理だな。いやいや…望むなら腹裂いて見せてやっても構わねぇぞぉ~!」

 また閉じればいい事だとフィルネスは自慢げに吹聴する。

 その様にラインハルト王の怒りが沸々と湧きあがって来る。

 「貴様―――」

 剣を鞘から抜き放ち、フィルネスを見据える。

 「―――殺す―――」

 物凄い殺気に反対を向いていたルビオンスとリカバリーがラインハルト王へと視線を戻すと、王の体から今まで見た事もない鋭い殺意が発せられていた。

 止める間もなく、ラインハルトがフィルネスに襲いかかる。

 接近戦ではフィルネスよりもラインハルトの方が上だ。

 しかし―――


 「何すんのよっ、この変態魔法使いっ!!」

 ラインハルトが剣を振り下ろすより早く、セラの拳がフィルネスの鳩尾みぞおちにのめり込んだ。

 「うぐっ…!!」

 息が詰まり身体を折るフィルネスにすかさずセラの膝蹴りが飛び出すが、フィルネスはそれを片手で受け止める。

 「手前てめぇ…それが師匠に、命の恩人に対する態度かっ!?」

 受け止めたセラの膝を押して突き飛ばす。

 「だったら大人しく人助けなさいよっ!」

 「はぁ?!俺様に人助けなんて愚行出来るわきゃねーだろっ、いい加減理解しやがれ単細胞女!」

 「いい加減にするのはそっちでしょ、まったく綺麗なのは顔だけ(・・・)なんだからっ!」

 「けっ、嫉妬か?!妬んでんじゃねぇよ、ションベン臭ぇ餓鬼がきが。」

 「餓鬼はどっちよっ、いい大人のくせにその我儘な性格ちょっとは治したらどうなのよっ!」

 延々と続く口喧嘩に、居合わせた誰もが呆気に取られる。


 その二人に、つかつかと歩み寄る一人の男の姿が映った。

 マクシミリアンが自身のマントをセラに差し出す。

 「…?」

 意味が分からずセラは首を傾げた。

 「お前、少しは恥じらいと言う感情はないのか?」

 「だ~から、そいつは餓鬼なんだよ。」

 フィルネスの言葉にセラはハッとする。

 怒りにまかせ、セラはとんでもない事を忘れてしまっていた。

 フィルネスによって引き裂かれた衣服からは肌が丸見えだ。

 治療時に肌着も脱がされていた為、身振り手振りに髪を振り乱し口論するあまり衣服は乱れ、その膨らんだ胸さえも露出したままになっていた。

 セラは真っ青になりながらマクシミリアンの差し出すマントを震える手で受け取る。

 「あ…りが…とう。」

 意外な人物の差し入れを受け、取りあえず剥き出しの体と…恥ずかしさでセラは顔の半分までを隠す。

 

 その様子にウェインは今までの疲れが一気に押し寄せ、とてつもなく長い溜息を吐いた。

 同じく、ラインハルトも剣を鞘に戻す。


 またやってしまったとばかりに溜息を落とすセラを無視し、フィルネスはマントを差し出したマクシミリアンを興味深げに覗き込んでいた。

 「な…何だ?!」

 マクシミリアンはそれがフィルネスだと言う事を知らない。

 黒いローブに身を包んだ、何処からどう見ても魔法使いと分かる風貌。

 いつもなら卑下し悪態を付く所だったが、マクシミリアンはその異常なまでに美しい姿に柄にもなくほんのりと頬を染める。

 そんな事はお構いなしにフィルネスは、殺人的なまでに鋭い銀の瞳でマクシミリアンの顔を覗き込み―――


 「お前―――死相が出ておるぞ。」


 それはそれは楽しそうに言い放った。


 「なっ―――?!」

 死相が出ているとの言葉にマクシミリアンは絶句し、突然の無礼にリカバリーが詰め寄って来るのをラインハルトが右手を上げて制止した。

 一同がフィルネスに注目し、天幕の中は静寂が訪れる。

 フィルネスは口元に指を当て暫く考えるとセラに視線を送り、続いてマクシミリアンにそれを戻す。

 そして少し俯くと、不敵な笑みを浮かべた。


 その仕草にセラは身震いする。

 これは、フィルネスが何か面白いモノを見つけた時の表情。

 周囲にとっては結していい状況をもたらすものではないその仕草にラインハルトも気が付いた。

 フィルネスはローブの中をまさぐると、透明に輝く小さな宝石を親指と人差し指に摘んで取りだしマクシミリアンに差し出した。

 「雫石しずくいしか?」

 ラインハルトが問いかけると、フィルネスは視線をマクシミリアンに向けたまま頷いた。

 「本当に存在したとは―――!」

 ルビオンスが感嘆の声を上げる。

 雫石。

 それは持ち主の身代りとなる石の事で、持ち主の命が尽きるその時に身代りとなり砕け散る。

 石が砕けた時、それは持ち主が一度死んだ事を意味するのだ。

 石の存在は伝説の様に語られるばかりで、実物が世間に出まわる事は一度もなかった。

 目の前に出された奇跡の石。

 しかしマクシミリアンは石を拒絶する。

 「そんな物は不要だ!」

 自分の身は自分で守れると怒りに震えるが、フィルネスは煩いとばかりに石をマクシミリアンの額に押し付け―――

 「やっ…止めろっ!!」

 手首を掴まれるも無視し、そのまま人差し指で額の中に押し込んだ。

 透明に輝く雫石はマクシミリアンの額に半分埋まってしまう。

 「クソッ―――!」

 マクシミリアンは必死になってそれを取ろうとするが、元からその場にあったかに無理に外そうとすると額に激痛が走った。

 「おのれ魔法使い、許さんっ!」

 マクシミリアンは剣を抜こうとするが、フィルネスの瞳に射抜かれ動けなくなってしまう。


 「そんな事よりも―――」

 フィルネスは後退りながら銀の瞳を細め、セラに向かって呟く。

 「さっさとラインハルトの面倒を見てやれ―――」


 言い残すとフィルネスは、その場から煙の様に忽然と消えた。

 

 






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