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残されたモノ  作者: momo
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回想

 




 セラは言われた通り、寝台の上で微動だにせずカオスが姿を現すのを待っていた。


 両腕は自身を抱き締め、寝台に正座して座ったまま動きはしないが反して頭の方はフル回転。必死に己の置かれた状況を振り返ってみる。


 記憶の最後はどうだったろう? 勿論、呑気にシーツと戯れていたよりも以前の記憶だ。

 セラは静かに色彩の異なる瞳を閉じた。



 洞窟…鍾乳洞の中でカオスとラインハルトが剣を振るい、フィルネスは破壊の魔法を迷う事無く繰り出し、セラ自身は保護の魔法で彼らを援護した。

 剣はアスギルを傷つけ、魔法はその身を焼いたが力の差は歴然。アスギルが受ける何倍ものダメージを直接対峙する三人は受け、到底勝ち目のある戦とは程遠かった。やがてセラ以外の者達は地に膝を付き、体からは大量の血が流れ落ち力を失って行く。

 敗北を悟ったその時フィルネスが呟いた。

 

 『うまく行かねば終わりだ…』


 一言で皆がそれを理解する。


 悲鳴を上げる体を奮い立たせ、カオスとラインハルトが聖剣を鍾乳石の塊に付き立てる。満身創痍の身を引き摺るようにしてフィルネスが立ち位置を変え、アスギルとその後方にある聖剣に向かって両手を翳し眩しい光の渦を放った。


 聖剣は結界を作るための糧。フィルネスが残った魔法力の全てを聖剣に注ぎ込み、アスギルを結界へと飲み込ませようとする。が、アスギルの魔法力はフィルネスを圧倒的に上まっていた。

 その現実にフィルネスが嫌味に似た微笑を口角にたたえる。


 焦りと、落胆と…諦め?

 フィルネスの微笑にセラは彼ら三人を守護する魔法を中断した。


 ここで負けてしまうならそんなモノ何の意味もない。


 自分が今アスギルの前に立っている理由…それは平穏だったあの頃、自由を自由と気付かず何でもない幸せを蔑にしていた。失って初めて、皆がその存在に気付いた。生きるために、ただ生きる為にここに来た。沢山の人々がアスギルや彼の作り出した奇怪な魔物に殺されるのが怖かった。恐怖に怯えながらの生活に荒んで行く人の心。セラはもうそんな物を見るのがたまらなく嫌だったのだ。


 もう誰も死んで欲しくない…!


 『セラっ!!?』


 飛び出すと同時に呼び止める声が聞こえたが、それがいったい誰の声なのか判別は付かなかった。

 セラはフィルネスの放つ光の渦の中へ入り込むと、そのままアスギルへ体当たりするように飛びつき、アスギルを道連れに結界の中へと飛び込んで行った。


 結界に取り込まれると同時に世界は一転。

 フィルネスの作り出した結界の中には音がなく、真っ白な濃霧の中にいるような感覚。

 異質な世界に囚われたため、セラは一瞬アスギルから目をそらしてしまっていた。


 突然視界に黒い塊が現れたかと思うと怒りに満ちた赤い眼光がセラの目前に迫り、それはセラに向かって素早く両手を伸ばすとすかさずその腕にしっかりとセラを抱きしめ…刹那。

 体の内側から引き裂かれるような激痛がセラの全身を襲った。

 

 あまりの激痛にセラは絶叫に近い悲鳴を上げるが、その悲鳴は発した本人の耳にすら届かない。

 痛みに意識を失いかけながらもセラは必死にその手をアスギルの背に伸ばした。セラの掌から淡い光が溢れ、その光はアスギルの背中から体内へと注がれて行く。


 両者は抱き合い、お互いの魔力を相手に注ぎ込み続けた。


 アスギルは破壊の力を、そしてセラはアスギルに安らかな眠りの力を…



 どのくらい時間が過ぎただろうか。

 セラは朦朧として痛みの感覚も麻痺していたが、それでも尽きる事のない力をアスギルに注ぎ込み続ける。何時までこの時間が続くのだろうと思える中で、最初にアスギルがセラから手を離すとゆっくりとセラの頬を両手で包み込み、己の額とセラの額を突き合わせ瞳を閉じた。


 『え―――?』


 この奇怪なアスギルの行動にセラは戸惑いを覚えた。


 アスギルの唇が何かを紡いだが言葉は届かない。

 僅かな時間の後、セラと合わせた額を離し一歩後ずさったアスギルを見上げると、既にその赤い瞳から怒りの炎は消えていた。セラからもう一歩後ずさるアスギルの唇が再び言葉を紡ぐが、やはりセラの耳には声が届かない。


 (もういい―――)


 切なそうに唇がそう動いたような気がした。


 一歩ずつ後ずさるアスギルの姿はあっという間に白い空間の中に呑まれてしまう。

 アスギルの去った空間をセラはぼんやりと眺めていたが、突然セラは足元をすくわれた様な感覚に陥ると、次の瞬間には真っ黒でどろどろと気持ちの悪い物に全身を包まれ息が出来なくなり、そのまま意識を失って行った。

 





 そして次に目覚めた時。


 セラは瞳を開くと周囲を見渡す。

 広々として明るく清潔な部屋には、大きなテーブルに派手ではないが高価そうな長椅子が二脚。他にあるのは今自分が座っているしっかりとした作りの寝台。


 ここは何処なのだろう…?


 セラは腕を組んでウ~ンと唸る。


 (とりあえず…わたしは生きてるのよね?)


 息が出来なくなって死ぬのかと思ったけど、生きてる。 

 その後いったいどうなったのかは分からないけれど、その疑問もカオスが来れば判明するだろう。彼らは尋常でないくらいの怪我を負ってはいたが、ここに来るって事は動けるという事で、それなりに大丈夫ではあるのだろう。


 (あれ、来るのはカオスだけ???)


 先程シールと名乗った青年はカオスを呼びに行った。ラインハルトとフィルネスの怪我は酷いのだろうか?


 セラが不安気に考えていると、寝台からはるか向こうにある扉がノックされた。






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