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残されたモノ  作者: momo
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追跡


 セラとウェインはウィラーンの西を目指し馬を馳せた。


 朝食を済ませたセラ達の部屋を宰相のレラフォルトが訪れ、ウィラーンの西方に位置するモドリフの森近くにあるエカシと言う村が魔物によって全滅し、討伐隊としてラインハルト王が指揮を取り出立した事を告げた。

 レラフォルトはウェインに王の意向として、セラをイクサーンに連れ帰り保護して欲しいとの伝言を伝えるが、宰相自身としては、闇の魔法使いを封印したセラにも討伐に加わって欲しいと言う意があった。

 その為これほど詳しく場所を示したのだろう。

 

 アスギルの生きた時ならともかく、今の時代において村一つが全滅する程の魔物の来襲は異常である。

 レバノの封印があるイクサーンでは魔物の数は少ない。しかし、西に深く大きな森を抱えるウィラーンには魔物の生息地がいくつか存在し、度々人が襲われる事態が発生していた。

 人肉を食らった魔物は味を占め、再び人を襲う。

 そのためウィラーンでは魔物が現れたその都度討伐隊を組織し退治してきたが、今回の様にラインハルト王自らが討伐の指揮を直接取る事はなかった。

 しかし、村一つが全滅になる程の出来事は非常事態である。

 早朝に知らせを受けたラインハルト王は直ちに軍部の中から少数精鋭を組織し、自らそれを指揮してエカシの村へと向かった。

 魔物相手に大軍で押し寄せても被害が増すだけなのだ。

 マクシミリアン率いる後発隊が物資を抱えて間もなく出立すると言うレラフォルトに、セラは単独ラインハルトを追う旨を伝える。

 物資を抱えてでは追い付くのに時間がかかってしまうからだ。

 ラインハルトを追うセラに当然ウェインも巻き込まれるが嫌な気はしない。

 魔物と対峙するラインハルト王の戦いを見るまたとない好機なのだ。

 二人はエカシの場所を確認するとすぐ様荷物をまとめ先発隊の後を追った。



 


 半日近く馬を走らせウィラーンの西、エカシへと到着する。

 村は予想通りの壊滅状態で一見戦で潰されたようにも見えるが、至る所に血肉の残骸が転げ落ちており、それが人の仕業ではない事を語っている。

 魔物が逃げ惑う人々を襲い、食い荒らした傷跡。

 硬い地面だというのに魔物の巨大な足跡が幾多となく残されていた。

 夏の陽射しに血と、腐りかけの人肉が異臭を放っている。

 (こんな事…もう終わったと思っていたのに―――!)

 セラは唇を噛んで硬く瞼を閉じた。


 一方ウェインは初めて目の当たりにする惨劇の現場に言葉を失う。

 村とは言え危険な森に隣接するにはそれなりの備えがあった筈だ。だと言うのに一つの村が魔物に全滅させられてしまうとは、一体何が起こったと言うのであろう。

 「群れ…か?」

 魔物が群れるのは珍しいが、ウェイン達もマクシミリアンの策だったとは言え魔物の群れに襲われた。

 「違う、多分一匹。」

 セラが閉じた瞼を開き、壊滅した村の様子を伺いながら答える。

 「羽蜥蜴はねとかげ…しかも孕んでる。」

 「羽蜥蜴?」

 聞きなれない魔物の名にウェインは説明を求める。

 「名前の通り羽の生えたトカゲみたいな魔物。飛べる訳じゃないけど羽で突風を起こせるわ。とても巨大で素早いの。」

 高さは大人の二倍程度で長さは大人が寝た状態の五.六人分はある。羽そのものは体に比べて小さいがそれでも人と比べると二人分はあるかもしれない。

 「何で孕んでいると分かる?」

 「羽蜥蜴は大きさのわりにあまり食べないの。でも雌は孕んで出産が近づくと途端に食べだして…この程度は容易く食べる。」

 一つの村程度―――ひたすら食い尽すのだ。

 「子供は雌の腹を食い破って出て来るから出産で雌は死ぬけど、必ず一度に二匹産まれるわ。孕んだって事は雄もいるだろうから…森には今の所最低二匹はいるって事。」

 雌が子を産めば最低三匹になってしまう。

 「ラインハルト王はそいつを追って森にでも入ったってか?」

 西を見やると果てにはモドリフの森が広がっている。

 何しろ巨大だから後は追い易い。

 しかし…そう簡単に殺せる相手ではない。

 セラ自身が羽蜥蜴と戦った記憶は二回…どちらも孕んだ雌相手でかなり苦戦した。かなり危険な相手だが数が増える事を考えると根絶やしにしたい魔物の一つだ。


 セラは迷っていた。

 とても危険な魔物だと言う事はラインハルトにも分かっている筈だ。だがそのままにはしておけないから森に入ったのだろう。

 セラとて村一つを壊滅させた魔物を許してはおけない、気持ちは同じだ…しかし。

 自分が行くと言えばウェインは間違いなくついて来る。ウェインは十分強いがイクサーンの王子でカオスの大事な息子なのだ。

 今までの魔物達とは違い羽蜥蜴は桁違いに危険で強力な魔物。

 自分のせいでウェインを巻き込む訳にはいかないが、セラは今すぐラインハルトを追いたい気持ちで一杯だった。

 日が暮れてしまっては更に危険が増してしまう。


 躊躇するセラの背を押したのはウェイン本人であった。

 「何やってる、行くぞ―――」

 促すと即座に馬の背に跨る。

 「ま…待ってっ!」

 セラは慌ててウェインが持つ手綱を引いた。

 「すごく危険よ、命の保証ができない―――!」

 セラの不安な眼差しがウェインに突き刺さる。

 こんな大人とも子供ともつかない娘に心配されるとは俺もまだまだだな…

 ウェインは腰の聖剣を外してセラの目前に突き付ける。

 「これはカオス王が俺に託した聖剣だ、俺はこれにふさわしい男にならねばならん。ここで逃げたら陛下の読みも俺自身もクズだ。」

 行かねばここへ来た意味も何も無くなってしまう。

 「セラ…お前今朝は相当食っただろ、その分しっかり働け。」

 「…ウェイン」

 セラは胸が詰まる。

 仮にもイクサーンの騎士団団長を捕まえて小娘が危険だと心配しているのである。誇りを傷つけられたと怒ってもいい所なのに…

 「分かった、しっかり働く!」

 セラも馬に跨りモドリフの森を…ラインハルトの向かった先を目指した。

 

 モドリフの森は鬱蒼と生い茂り昼間だというのに薄暗い。

 巨大な羽蜥蜴が進んだ後は獣道となって姿を現し、血の匂いを嗅ぎつけ姿を現したのであろう…魔物の溶けた残骸が所々に見受けられた為、ここをラインハルト一行が進んだ事が伺える。

 森に入るとじめじめして蒸し暑く嫌な汗をかく。

 二人が進んで行くと前方に一頭の馬の姿が目撃された。

 馬はゆっくりした足取りでセラ達の方に近付いて来ると、その背に全身を預け項垂れた騎士の姿を目撃する。

 赤い衣が出血で更に赤黒く染まり意識が無い。左の肩から腕は火傷の様に爛れてぼろぼろになっていた。

 魔物の返り血を浴びた結果の傷だ。

 ウェインが騎士の体を馬から下ろすと、騎士は苦痛の為か唸り声を上げ微かに目を開く。

 「あ…貴方は―――」

 セラは出血する騎士の胸元に手を伸ばす。

 「血を止める。」

 セラの触れた個所が青白く光りを帯び、瞬く間に出血が止まって行く。

 出血が止まると今度は焼け爛れた腕に手を触れた。

 「私の様な者の為に大切な力を使ってはいけませんっ」

 セラはこの騎士を知らないが、騎士の方は昨日城に現れたセラの存在を既に知っていた。

 この危険な森で、もう戦えない自分の為に力を使うのは無駄だと騎士は言っているのだ。

 だが騎士の焦りより早くセラの治療は完了する。

 あれほど痛んだ左腕は嘘のように完治し、皮膚に火傷の様な痕は残っているものの指先までしっかりと感覚が戻っている。

 騎士は自身に起こった奇跡の光景にしばし唖然とする。

 「完全に治せなくてごめんなさい。」

 セラは騎士の顔を覗き込んだ。

 「あ、いえ…そんな…」

 騎士は左右非対称の瞳に囚われる。

 「状況を教えてくれないか?」

 ウェインは時間を惜しみセラの瞳に囚われている騎士を呼び戻した。

 「魔物は―――他は皆無事なのか?」

 「羽蜥蜴には追い付いたのですが逃げられ、私は追跡の途中に三目みつめにやられました。他にも軽傷が数名おりますが動けています。陛下を含む四名が先回りし羽蜥蜴を待ち伏せ、他三名がその後を追っている状態です。」

 騎士が気を失っていた時間は定かではないが、傷の深さと出血量を見る限りそれ程長い時間と言う訳ではなかっただろう。長い時間出血した状態だったら今頃騎士の命はなかった。

 恐らくあと少しで追い付ける―――!

 「貴殿は戻り後発隊に知らせてくれ。」

 ウェインの言葉に騎士は頷いた。

 出血量が酷かった為にふらつく騎士が立ちあがるのをセラは手伝う。

 「傷を癒して頂いたと言うのに共に向かえず…誠に申し訳ありません。」

 「そんな事無い、あなたがもたらす情報で失われずにすむ命が沢山あるんだもの。」

 騎士が馬に跨り駆け出すのを見送ると、セラとウェインも先を急いだ。


 

 間もなくセラ達は赤い衣を着た三人の騎士に追い付く。

 三人は黒い牛に似た額に角を持つ一角獣いっかくじゅうを相手に苦戦を強いられている様だったが、幸いにも大きな怪我をしている様子はなかった。

 一角獣は突進されると一溜まりもないが、その力と角にさえ気をつけさえすれば大した魔物ではない。

 新たに現れた人間二人に憤慨するかに赤い目をぎらつかせると、一角獣は一度身をかがめてウェインの方に素早い動きで突進した。

 ウェインがぎりぎりまで引きつけてから身を翻すと、一角獣は物凄い勢いで大木に激突する。

 落雷した様な轟音が響き渡ると大木がゆっくりと軋みながら倒れ落ちる。

 一角獣はあれほど勢いよく大木に激突しながらも四本足でしっかりと地を踏んで体勢を崩す事無く、再びこちらへと突進してきた。

 同時にセラはが一角獣の前に立ちふさがると両手をかざす。

 鋭い閃光が瞬く間に一角獣を包み込むとその動きを封じた。

 騎士達はセラの放った光の魔法に怯んだがそれも僅かな間。

 一人が剣をかざして飛び出し一角獣の額の角の付け根に剣を付き立て角をえぐると、一角獣は苦痛に唸り声を上げて抵抗を見せるが、セラの魔法によって身動きを取る事は出来なかった。

 傷つけられた場所から一角獣の体液がほとばしり、剣を持つ騎士の肌を焼く。

 間もなく鈍い音を立て角が抉り取られると、一角獣は全身から汗を溢れだすように溶け始め、あっと言う間に全てが溶けて地面に残骸が残った。

 騎士は荒い息を吐きながら剣に残る魔物の体液を払い鞘に納める。

 右腕に負った火傷から白い煙が上がっていた。

 「傷を―――」

 「いらんっ!」

 セラが手を伸ばすと騎士はその手を振り払い、異形の物を見る眼差しを向けた。

 「サイファント!」

 残りの騎士が戒めるかに名を呼ぶが、サイファントと呼ばれた騎士は無視して馬に飛び乗るとあっと言う間に駆け出して行った。

 「申し訳ありません。その…奴は…」

 サイファントは魔法使い否定派。その強大な力に恐れと憤慨を持ち合わせる、今では普通に存在する心情の持ち主だった。

 恐らくここにいるもう二人の騎士もそうなのだろうと、セラは彼らの瞳を見て思う。それでも礼儀正しく仲間の保護を口にしようとする者、遠くから見るだけの者とに分かれ、極端に否定の意を表したりはしていない。

 「先を急ぎましょう。」

 セラは赤い左目を隠すように二人の騎士から顔を背ける。

 各々が馬に跨って手綱を引いた。

 「気にするなよ、今の奴らは魔法ってもんに慣れてないんだ。」

 アスギルが世界を恐怖に陥れた時代はそこら中に溢れていた魔法使いも、今は姿を隠し全く表舞台に現れて来ない。

 「そんなのは平気。それより怪我の方が心配だわ。」

 ラインハルトが選んで連れて来た騎士なのだから鍛えられた肉体を持っているだろう。多少の傷など大した事ないだろうが利き腕に負ったのは魔物の体液だ。これから向かい打つ相手を想像するとセラはサイファントが負った傷が気になった。

 だが今は話しても聞いてくれそうにない。

 馬を走らせながらも彼が気になったが、セラにはそれ以上構う事は出来なかった。




 そして間もなく、セラ達は目前に散乱する大木と大きな影…羽蜥蜴を目にする。

 

 羽蜥蜴の向こう側。


 そこには剣を構え羽蜥蜴と対峙する先回りした四人の…ラインハルト達の姿があった。

 

 

 

  

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