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残されたモノ  作者: momo
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奇怪な来襲


 「ねぇウェイン、これってちょっとおかしくない?」

 二人の周囲を取り囲むように対峙する魔物の群れ。

 ざっと見て二十はいる。

 「あぁ、確かに変だな。」

 成人男性程の大きさをした四足の、漆黒の体に濁った白い目が三つの魔物。

 「白昼堂々三目みつめが群れをなしてるなんて初めて見たわよ。」

 三目に限らず、普通魔物は群れをなして行動する事はない。血に飢え、血の匂いに集まって来る習性はあるがセラとウェインには怪我一つないし、これ程の魔物が一度に集まる程の血の匂いがする訳でもなかった。

 

 セラはイクサーンを立つに辺りウェインの同行を言い渡された。

 自分の勝手で向かうウィラーンへの旅。

 それにウェインを巻き込むつもりなど毛頭なかったが、カオスはそれを求めた。

 セラの魔法が戻った為に予定していた騎士一師団同行は見送られたが、それにしてもアスギルもいない平和な世界に大げさな…とセラは感じた。が、今の状況をカオスが予想していたと踏まえると、強ちおかしな話ではなかったわけか。

 しかし、カオスがこれを予想していた訳ではない。

 過去はどうであれ現在の大陸で魔物の力は脅威ではなかった。存在が消えた訳ではなかったが魔物が住まうのは暗い森や人の滅多に立ち入らない場所に限られ、魔物が村を襲う事も今では稀であった。


 その魔物が群れをなして目前にいる。

 少なくともイクサーンとウィラーンの国境を越えるまで魔物は皆無だった。

 最初に魔物が現れたのはウィラーンに入ってからで、魔物との戦いに慣れたセラは当然何の躊躇いもなく魔物に向かって行った。

 騎士団長たるウェインは魔物は初めてではないにしろ、セラと自分の経験の違いに遅れを取り、改めてセラの生きた世界を垣間見た。

 ウェインの右腕に力が籠る。

 「取り合えず片づけるしかない―――」

 カオス王より預かった聖剣が銀色の輝きを増す。

 セラが腕をかざすと青白い光が辺りに立ち込め三目の動きを鈍らせると同時にウェインに結界を張ってその身を守る。

 魔物の血はそれだけで有害だ、返り血を浴びれば火傷のように皮膚が爛れる。

 セラの魔法力は完全に戻った訳ではなかったが、この程度の魔物の相手や魔法なら十分完璧にこなせる。最初の頃はセラの助言で聖剣を振るったウェインも度重なる魔物の来週に慣れ、的確に魔物の急所を突けるようになっていた。

 だがそれにしても相手が多い。

 人肉を食らおうと牙をむき出し次々に飛びかかって来る三目を、セラは身を翻してかわす。

 セラはウェインを守りながら魔物の足を止め、新たに光の球を作り出しそれを魔物にぶつける。

 光の球の直撃を受けた三目は『ギャンッ!』と叫び声を上げ、空かさずウェインが急所を聖剣で突き刺す。

 絶命した魔物はどろどろに溶けながら触れた部分の草や土を焼き、最後には何もなかったかに蒸発して焼けた台地が曝け出される。

 魔物の中でも特に三目は光に弱い。

 だと言うのに、白昼堂々と群れをなして向かって来るとは…それが今回はセラ達にとっては有利に働いていたのだが。

 「腑に落ちないわね。」

 ウェインが最後の三目に止めを刺すと同時に、セラはウェインを守る結界を解いた。

 

 


 「…にしても、よく食うな!」

 魔法を使った後は食欲が増すとは聞いていたし、この旅で呆れるほど目にする機会があったが…それにしてもセラの食欲には感嘆する。

 「そんな化け物を見るみたいな目しないでよ。」

 「いや…実際化け―――!」

 言うと同時に手付かずのリンゴが飛んで来る。

 慣れたやり取りにウェインはリンゴをキャッチするとそのまま口に運んだ。

 「悪かったわね。自分でも厄介な体質だって思ってるわよ。」

 宿を取った一階にある食堂で大量の料理を次々に平らげる小さな少女に、驚きと好奇の視線が注がれる。同時にセラの異質な瞳をいぶかしむ様も明らかだ。

 「単に大食らいなだけじゃないのか?」

 「…フィルと同じ事言わないで。」

 「そのフィルネスはどうだったんだ?」

 同じように食ったのかとウェインの碧眼が好奇心に満ちた。

 「知らない。いっつも嫌味言ってたから毒舌が魔法の根源かもね。」

 最後に残ったスープを飲み干すとやっとセラの空腹が満たされる。

 「ふ―――っ、美味しかったぁ~!」

 食事を終えた時のセラは本当に幸せそうな顔をする。

 孤児院育ちで戦火に呑まれ、命をかけた旅に巻き込まれた娘には到底思えない笑顔。いや、実際そう言う時代に生きたからこそ歓びに満ちた(お食事の)時間を大切に出来るのだろうか。

 そんなセラをウェインは微笑ましく思う。

 「なに?」

 「…付いてるぞ。」

 ウェインは手を伸ばすとセラの頬に付いた食べ残しを摘んだ。


 「お前はウィラーンの王とも剣を交えた事があるのか?」

 他に食べ残しがないか不安なセラは口元を拭きながらウェインの言葉を聞いた。

 「ウィラーン…あぁ、ラインハルトね。あるよ。」

 「―――そうか」

 「…」

 セラはちらりとウェインを見る。

 ウェインの瞳は遠くを馳せていた。

 「…やめときなよ、命がいくつあっても足んない。」

 ウェインの心を見透かすようにセラが告げる。

 カオスの利き手が左であった事や、もう昔のように剣を振るえなくなっている事は最近耳にした。それについてセラが感じる必要のない責任を感じている事も聞いている。それでもウェインは同じ剣を持つ者として、カオスから聖剣を託される者として、ラインハルトと剣を交えてみたいと思うようになっていた。

 「命が…て、お前は生きているだろ。」

 剣の腕ならセラよりもウェインが上だ。ラインハルトに勝てるとは思ってはいないがそれなりに渡り合える自信はあった。

 「一度だけ相手をしてくれて殺されかけたよ。ラインハルトは試合でも手加減が出来ないんだって。だからあれ以来、二度と剣の相手はしてくれないの。」

 「殺されかけたぁ?!」

 「ここからここまでやられて―――」

 セラは左の肩から右の脇腹までを示す。

 「傷は肺と心臓まで行ってた。」

 肺と心臓??

 「はぁ?!それで生きてる訳ないだろ!」

 「フィルがすぐに手当てをしてくれたからわたしは助かったけど…治療の自信がないからウェインはやめてね。」

 あははとセラは笑う。

 

 おいおい…本当にこいつらは恋仲なのか―――?

 

 ウェインは冷や汗をかいた。

 

 

 


 

 

 




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