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残されたモノ  作者: momo
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星空


 その夜は新月―――

 漆黒の闇の中、空には宝石箱をひっくり返した様な星が瞬いている。

 

 庭…と言うよりも特に何もない広場に寝転がってセラは星を見ていた。

 

 「夜空は変わらないんだね…」

 ぽつりと呟く。

 夜着のまま地面に転がっていると背中に硬く冷たい感触が直接伝わり、最近までこうして眠りについていた事を思い出す。

 朝から叩き起こされるは、人攫いに連れて行かれそうになるは、変な勘違いをされるはで今日も疲れて柔らかな寝具に身を守られてたと言うのに…今夜はどうしても眠りに落ちる事が出来なかった。

 どうしてだろう…命の危険にさらされていた時の様に夜の地面に寝転がると、何故か少しだけほっとするのだ。


 二十五年…話が急展開過ぎる。

 まさかこんな風に置いて行かれるとは思いもしなかった。

 カオスはイクサーンの王になったいた。その息子達はセラよりも年上で質の悪い事に一人はカオスに生写しの容姿である。

 フィルネスは十年前から音信不通。セラが結界から出て来た事は知らないにしても、いずれ結界から出て来る事を予想していたに違いない。でなければ、セラがフィルネスの作った結界から脱出など出来よう筈がないのだ。たとえ死に瀕した状況であっても、あの嫌味と完璧をこよなく愛する魔法使いが聖剣の力を利用してまで作った結界。結界その物に欠陥など持たせはしないだろう。

 そして―――ラインハルトはウィラーンの王になったと言う。

 「ラインハルト―――」

 闇に呟く。

 雄々しく気高いウィラーンの王子。威厳に満ち、獰猛で無口。常に人を射殺すような鋭い眼光を放ち…時に優しい眼差しを向ける。

 彼はどんな時間を歩んだのだろうか。

 

 会いたい―――


 けど―――

 

 ラインハルトの事はカオスに尋ねさえすればある程度は分かるだろう。だけど、怖くて聞けない自分が存在する。

 (現実を恐れてどうするのっ!)

 どう足掻いてもこの世界で生きて行く他に道はないのだ。




 「こんな所で眠ったら風邪をひいてしまいますよ」

 寝転んだセラを覗き込む人影。

 闇夜の為にはっきりと確認出来はしないがその声はシールのもの。

 「星を見ていたの。」

 セラは寝転んだままで答えた。

 「星…ですか?」

 シールがセラの隣に腰を下ろして夜空を見上げると満点の星空が広がっていた。

 星空を見上げたのはいったい何年振りになるだろうか。忙しさにかまけてそんな余裕がなくなっていたのか、星空の存在などすっかり忘れてしまっていた。

 セラは隣に座ったシールがまだローブ姿である事に気が付く。

 「もしかして、こんな時間まで仕事してたの?」

 「ええ、そうですよ。」

 既に深夜を回っている。はっきりした時間は分からないが、日を超えて二刻は過ぎている頃だ。

 「宰相って仕事も大変なのねぇ。」

 「はぁ、まあ何時もこんな感じです。」

 「何時も!?ちょっと働き過ぎなんじゃないの?」

 よく過労で倒れないものだ。

 「カオスも働き詰めなのかな?」

 「国を治める側とはこんなものです。」

 他の国の王が全てそうだと言うわけではないが、カオス王は国政に熱心だ。本意ではなかったにしろ王になったからには民の為に自らが動きたいと言う気性のせいもある。シールはその傍らで必死に学び、少しでも力になりたい…王に近付きたいのだという思いで懸命になって来た。子供の頃は遠かった父が、自分が宰相になってやっと手の届く場所にあると思えるようになった気がする。

 

 「カオスってどんなお父さん?」

 夜空を見上げたままでセラが問う。

 「お父さん…ですか?」

 「カオスってきっといいお父さんになるんだろうなってずっと思っていたの。何時も優しくて人の心配ばかりして自分の事はなんでも後回し。」

 瞳を閉じてその時の事を思い出す。

 レバノ山に入る前に立ち寄った瓦礫の街はアスギルに破壊された傷跡だ。闇の魔法使いは迷いもなく一瞬にして街を破壊する。

 「最後に立ち寄った街はここだった。あの時は廃墟同然で何処にも行き場のない人たちが身を寄せ合って懸命に生きていたのだけど、ここで男の子に会ったの。」

 セラよりも少し小さい少年は、刃毀れを起こした身丈に合わない剣を振り回してカオスに付き纏っていた。カオスはそんな少年にもしっかりと向き合い、僅かな時間であったが、少年の望み通り剣の相手をしてあげていた。

 「カオスに男の子が出来たらこんな風に相手をしてあげるのかなぁ~って思いながら見てたんだ。」

 そう言えば、セラとの手合わせもその時が最後であった。

 シールはセラの話を俯いて訊いていたが、ゆっくりと顔を上げ夜空を見上げた。

 「わたしの父はイクサーンの王でした。」

 カオスが戴冠を受けたのがシールが生まれて間もなくであったため父に遊んでもらったなどと言う記憶はない。常に王として存在したその人は父親として生きるよりも国の為に生きていた。幼少の頃は父親恋しさもあったが、我が子に対しても威厳に満ちた姿勢を全く崩さない様に、シールはそれが王たる者なのだと自然と認識するように受け入れていた。

 「セラ殿の思うような親子関係はありませんでしたが、私はカオス王が一から築き上げ守るこの国を、陛下を心より尊敬し、それが我が父である事に誇りを持っています。」

 それがシールの父に対する思いだ。

 カオスが王になる為に捨てたもの、捨てなければならなかったもの。その犠牲になったもの…

 その全ての結果が今のイクサーンにある。

 「カオスも…みんなもすごい。たった二十五年でこんなに安らかな世界を作り出せるなんて。」

 街では皆が笑っていた。

 絶望と不安だけだった世界が、今は笑顔に満ちていた。

 

 「セラ殿?」

 隣で地面に寝転がるセラに視線を落とすと、セラは瞼を閉じていた。

 規則正しく胸が上下している。

 眠っているのだ。

 地面に横たわり無防備に眠る少女の姿に、シールは優しい眼差しを向けてしばらく見入ってしまった。

 静寂の中、冷たい夜風が身を滑るとセラの金色の髪が静かに揺れた。

 初夏とは言え、さすがにこのままででは風邪をひいてしまう。

 シールはセラの肩をゆするが、セラは微動だにせず硬く瞼を閉じていた。

 「全く…最近まで危険な夜を過ごしていたのではなかったのですか?」

 呆れるが、優しい問いかけだ。

 セラの存在はカオス王にだけではなく、シールに対しても少なからず良い方に影響を及ぼしているようである。少々迷惑な事もあるのだが…。

 セラはこうも完璧に熟睡出来る程、気付かぬうちにこの世界を受け入れていたようだ。

 シールはそっとセラの背中と足に腕を滑り込ませて抱き上げる。

 こうして抱き上げるのは二度目だ、大した重さはない。

 セラを抱いて城に向かうシールは、この時間なら変な噂を立てる女達も寝付いている頃だろうと苦笑いを浮かべながら歩いて行った。


 が―――

 翌朝シールとセラが密会していたと城の女達はけたたましく噂を始めていた。

 この噂、次はどんな方向へと進んで行くのやら… 

 

 

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