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残されたモノ  作者: momo
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胸中



 この日もセラとカオス王は夕食を共にした。


 多忙な王は食事の時間も書類を見ながらが常になっていたので、セラでもいなければまともな食事も採らない事が多かった。勿論その分仕事は後回しになったが、セラと顔を合わせた後は仕事のはかどり方がまるで違う。


 二十五年前の戦いでカオスはセラを失った事を悔いていた。

 当時はまだ十四歳になったばかりの少女を危険に巻き込んでしまい、守り切れなかった事をずっと後悔し続け自分を責め続けた。

 悔いても悔いても悔い足らず、同じ年頃の娘を目にする度にセラのあどけない笑顔が脳裏をかすめた。

 そのセラが一昨日突然手元に戻った時は感激で胸が熱くなった。

 あり得ない出来事にうろたえ、それが夢であったなら目覚める事を拒否しただろう。鎖で拘束された姿はあまりにも痛々しく、冷たい体に失う恐怖が蘇った。セラが意識を取り戻すまでの時間、体は日常の政務に合わせてセラへの対処を行ったが、今も自分がどうして過ごしたのか覚えていない。ただ、ずっと体が震えていたのは自覚していた。


 「城下は楽しかったか?」

 この日一日、セラが何処で何をしたのか報告は受けていた。

 脅迫状めいた置手紙にシールは憤慨したが、ウェインが共にあるなら大丈夫だと安心していた…まさか本当に人攫いの被害に合うとは想定外である。

 魔法が使えないと言う認識が甘かった。魔法の扱いに慣れてしまった今のセラは出会った頃よりも無力かも知れない。

 「すっごく楽しかった。あ、でもちょっと変な人に会ったの。」

 スープをすくう手を止めてセラが答える。

 「騎士の人で、感じは違うけどフィル並のすごい美人」

 「第一隊長のマウリーか。」

 騎士団第一部隊隊長、マウリー。

 歳は二十歳でシールとウェインの幼馴染でもあり剣の腕はウェイン並にある。頭脳明晰・容姿端麗で一見非の打ち所のない青年だが…少々(?)難有りだ。

 「変とは?」

 「わたしのね、目を見て綺麗だって言ったの。お世辞でも何でもなく、本当に自然に言ったの」

 カオスは悪癖の方の話かと思っていた。

 「セラの目は綺麗だと思うが。」

 「やめてよ、そんな風に言うのは…」

 セラはほんのり頬を染めると照れ隠しにスープをすする。

 貶されるのは馴れていたが、褒められるのは馴れていないのだ。

 「マウリーはわたしと目が合った瞬間にそう言ったの、カオスは初めて見た時驚いて一瞬時間が止まってたじゃない。ラインハルトなんて…不吉だって何カ月も口を訊いてくれなかったの覚えてるでしょ?」

 ラインハルトがセラと数カ月口を訊かなかったのは何もそれが理由でなはい。最初に失言してしまった為にセラに話しかける勇気が持てなかった…とでも言うのか。セラとの出会いが獰猛な獅子に唯一の弱点を作った瞬間であったのをカオスは思い出す。

 ラインハルト―――

 その名を口にしてからセラは遠い目をした。

 今頃どうしているのだろう…切ない気持が心を揺らす。

 まだ見ぬその人はセラの知らない二十五年をどう生きて来たのだろうか。

 愁いを帯びた瞳に、カオスはセラの心中を察した。


 しばらく無言が続いた後に言葉を発したのはセラである。

 「ねぇカオス、わたし剣の稽古をつけたいの。」

 カオスに剣の話をするには戸惑いがあったが思い切って口にした。

 「自分くらい自分で守れなきゃって思うんだ。」

 カオスはセラに剣の稽古をつけていた昔を思い出す。

 確かに身を守るために剣を進めたのも自分だった。今は魔法が使えない状態なので剣が使えるのはいい事だと思うが…昔と違う。女が剣を振るうのは極めて稀な事になってしまっていた。

 「最後に稽古をつけたのは何時だったか覚えているか?」

 「五日前よ。」

 「丁度腕が鈍って来る頃だな。」

 日頃の鍛錬がいざという時に役に立つ。

 剣を握らぬ時間は腕を鈍らせるだけだ、また今日の様な暴漢を相手にしないとも限らない。

 「明日から騎士の鍛錬場へ通えるよう指示しておこう。」

 ふとカオスはある考えが浮かんだ。

 「ウェインに相手をさせる」

 「えぇっ!?騎士団長様自らなんてそんな…!!!」

 昼間の一件でウェインは剣を抜く事はなかったが二人の屈強な男を一撃で倒した実力者だ。

 「あやつはさぼり癖があってな。セラの相手を命じておけば嫌でも鍛錬場へ通わねばならぬから丁度いいのだ。」

 それは否定できない。

 「が…頑張ります。」

 カオスの優しい稽古の経験しかないセラは早速緊張した。

 

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