0話 何を感じるか。
「荷物…持ちましょうか…?」
信号を待っていると腰の悪そうなおばあさんが荷物を抱えているのに気が付いた。だからそう声をかけた。
「ありがとうねぇ」
おばあさんも声をかけてもらうのを待っていたかのように荷物を預けてくる。助けてもらって当然だと思っている老害にはとてつもない嫌悪を感じるが、それで良いんだ。俺はこの老女の荷物を持ってやれば評価値が上がる。win-winの関係じゃないか。
あ…後で老害助けたことツイートしないとな…
…あの日から俺は変わった。
2030年4月2日、当時14歳。溢れかえる溢れかえる誹謗中傷や必要以上の批判、ハラスメントなどにより鬱病患者は年々増加し、自らの命を絶つ者も多く存在した。ただでさえ少子化によって人口減少を続けている日本で、若者の自殺は無視できない問題だった。
そこで政府はと人間評価法の導入によって人間の評価を可視化した。評価方法は単純で他人から貰った高評価、低評価をともに表示するというもの。時折他人が評価せずともAIによって善悪が定められ評価されることもある。
これによって人間の価値が生まれ、それまで人間のものさしであった富、地位、名誉、学歴などは必要とされながらも評価法による評価を得るための道具へと成り下がった。
本質的には何も変わっていないのかもしれないが………
「……ねえってば!!」
「ああ望美かごめんごめん、ちょっとボーっとしてたわ。」
「まあいいけど!てかさっきまた人助けしてたでしょ。変わったよねほんと。」
「妹救うのに難病の研究者になるためには良い大学いかなきゃだからな。そのために評価もいるし。」
「そうだね…。…勉強だけじゃなくて評価もいるなんて、難しくなったよね、進学も。」
「全くだ。」
来年の今頃には筆記試験がある。登下校のついでにでも評価を稼がないと時間もない。
にしても望美の評価値が高いことに毎度気が取られる。いくら頑張っても望美みたいな評価法導入前から他人に優しいようなやつには勝てないな。俺もこいつに助けられて…
「てか今日テストだよ!!地学苦手なんだよねー、今回も赤点取ったら留年だよー。」
「さすがに勉強してきただろ?」
「した!けど…理解してないしなんもわかってないかも…。」
「そんな素行でなんでそんな評価値高いんだよ。俺全然上がんねえのに。」
「そういう評価のことばっか考えてるから咲間は評価値上がらないんだよー。」
「うるせ。」
人気のない道。数百メートルは続く裏の道。車が通れるか通れないかの幅の道で俺と望美は並んで歩く。廃墟に囲まれて雑草が生い茂る。何気ない会話をしながら通るこの空間が心地いい。
「………助けて…。」
かすかに聞こえたその声の先を見ると血だらけの女が倒れている。とても苦しそうな表情で助けを求めている。
「大丈夫ですか…って、え……」
すぐさま駆け寄った望美が血だらけの女を見て唖然とした。明らかに表情が変わっていた。何事も理解できていなそうな表情になっていた。
…すぐさま俺も何も理解できなくなった。わからない。本当に現実か…?
「お母…さん……なの…」
望美は震えている身体から微かにそういった…。