負けた方が全員女体化する男子校の体育祭
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
「倒せえええええええええええええ!」
白組、紅組。
双方が必死にぶつかり合う。
行われている競技は棒倒し。
無数の男子たちが棒へ群がり、必死の攻防を繰り広げている。
その光景はまるで戦。
どうして彼らは必死になっているのか。
それは負けた方が全員女体化してしまうからだ。
女体化した生徒たちは女性の姿で一定期間を過ごさなければならない。
一部の生徒たちは非常に嫌がるのである。
「てめぇ、裏切んのか!」
「裏切ってねぇよばーか!」
女体化することを嫌がる生徒ばかりではなく、むしろ積極的に負けようとする者もいる。
そのため、内外で様々な思惑が働き、混沌とした状況に陥りがちであった。
「さて……今年はどちらが負けるのかしらね」
学校一の美人である女性教師のミサは戦いの行く末を見守る。
彼女はこの学校の出身者であり、女体化したまま大人になった。
いまだに元の性別に戻れていないが、一生このままでいいと考えている。
女体化した生徒が望めば性別はそのまま。
女性として生きていくことができるのだ。
「いやぁ、みんな元気で何よりですなぁ」
ニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべた小太りの校長がミサに話しかける。
「ええ、今年もみんな元気いっぱい。
体育祭を楽しんでいますね」
「懐かしいなぁ、僕も昔を思い出すよ」
「ふふふ……そうでしょうね」
意味ありげに微笑むミサ。
何を隠そう、この校長。
もとは女性であった。
性転換する不思議な体育祭の噂を聞きつけ、男装して男子校に入学し、敗北することで性別を変えたのだ。
そのまま大人になって教師になり、出世してこの高校の校長となった。
誰もそのことを知らない。
「この中から僕たちのように目覚める子がいるかもしれないね」
「もしそうだとしたら、それはとても素晴らしいことですね」
にっこりとほほ笑むミサ。
二人はこの体育祭で本当の自分を見つけることができた。
だからこそ、続けなければいけないと切に願う。
ジェンダーの問題がセンシティブな話題として取り上げられるようになり、体育祭を中止すべきという声が内外から上がっている。
もしかしたら数年後には中止せざるを得ない状況に追い込まれるかもしれない。
「うおおおおおおおおお!」
元気いっぱいの男子生徒たちは、その内側に様々な思いを抱えている。
誰もが真剣で、誰もが本気。
決して変えることのできない価値観を賭けて体育祭に臨んでいるのだ。