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万引きJKGメン、盗賊に転生する。  作者: ざとういち
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第7話 オールハント

巨大トカゲを引き付けるべく、ツムギは猫の力を引き出し、必死に立ち回っていた。


「は、速い……!!」


散々走っているのに全くスタミナ切れを起こす気配もなく、トカゲはフルスロットルでツムギを追跡している。


自分がトカゲに食べられたとしても、馬車との距離が近いと次はレオとマイカが標的になる恐れがある。ツムギは出来るだけ引き離そうとしていた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


四足歩行の最高速度でトカゲを引き離そうとするが、引き離すどころか、方向転換を駆使してやられないようにするので精一杯であった。


その時。突如、トカゲの口が赤く発光する。火炎弾を撃ち出す兆候だ。


「……っ!!」


ツムギは大きく飛び上がり、トカゲを飛び越えて火炎弾を回避する。トカゲの前方は火の海になっていた。一発でも喰らえば、当然少女の身体など一瞬で吹き飛ぶであろう。


ツムギの額から冷たい汗が滴り落ちる。体力の消耗と同時に精神も追い詰められていた。


(ツムギ……!)


ツムギがトカゲを引き付けている間、マイカが岩に隠れながら、慎重にトカゲに近付こうとしている。


今のマイカは、ステータスカードにあった能力のひとつ、“隠密”を発動していた。ツムギにヘイトが向いている間、マイカは極端に狙われにくい状態になっていた。


(スキル“隠密”……。

 恐らく、万引きGメン時代の

 気配を消す特技が誇張された

 物だと思うけど……。)


(効果が実感出来なくて

 不安になるね……。)


マイカは苦笑いを浮かべながら、それでもやるしかないと勇気を振り絞る。


トカゲとツムギの動きはかなり速い。そう簡単に近付けないが、火炎弾を撃ち出す瞬間。その時だけはトカゲの動きが止まり、かなりの隙が生まれる。その瞬間を見計らって一気に接近しようとしていた。


だが、火炎弾が撃ち出される=ツムギが攻撃されることになる。疲れ果てているツムギの様子から、次の攻撃が恐らくラストチャンスであった。


(お願い……。あと一発

 頑張ってツムギ……。)


マイカが火炎弾が来るのを狙っている時であった。トカゲが別の攻撃をツムギに仕掛けたのである。


「……え?」


トカゲが突如、ツムギを追跡するのを止め、背中を見せていた。ようやく諦めたのかとツムギが油断した時であった。


大きな影がツムギの上に伸びていた。トカゲの尻尾だ。トカゲが尻尾を引き千切り、それを勢いよく切り離し攻撃に利用してきたのだ…!


「あっ……。」


反応が遅れたツムギ。慌てて身を捻って回避しようとする。


「うあぁッ!!」


直撃は免れたが、尻尾が掠ってしまった。飛び退ける瞬間、脚に当たってしまい、激痛にツムギの顔が歪んだ。


(ツムギ……っ!)


マイカはトカゲの動きが止まっている間に一気に接近していた。そのままトカゲの体にタッチする。


「“オールハント”!」


頭領の銃を手に入れた能力だ。正直、トカゲにも効くのかはイチかバチかだった。だが、これに賭けるしかなかった。


一方、頭領はなかなか仕留められない様子に業を煮やして、トカゲの元に近付いていた。


「ええい!何をモタモタやってんだ!

 さっさとぶっ殺さねぇか!?」


「と、頭領危ないですよ!!」


「おいトカゲ!!撃て!!

 もうその小娘は走れねぇ!!

 火炎弾で焼き尽くせ!!」


言われるまでもないという様子で、トカゲは火炎弾を発射する体勢に入っていた。


ツムギは急いで回避しようとするが…。


「痛っ……!

 あ、脚が……!」


走るどころか、歩くのもやっとだった。片足を引きずりながら必死で逃げようとするが、火炎弾の射程範囲から逃れることが出来ない。


「ご、ごめん兄貴……。」


死の覚悟を決め、目を瞑り火炎弾を受けようとしていた。


そんなツムギの前にレオが立ちはだかった。


「あ、兄貴……!?」


「俺が炎を受ける……。巻き込まれない

 距離までなんとか離れてくれ……。」


「嫌だよそんなの……!!

 だったらあたいも受ける!!

 最後まで一緒が良い!!」


「ツムギ……。」


ツムギがレオに抱きつき泣きじゃくった。レオはそんなツムギを振り払うことも出来ず、このまま2人仲良く焼かれようとツムギを抱き寄せた。


「ありがとう兄貴……。」


結局自分は妹を助けてやれなかった。そんな悔しさを滲ませながら、少しでも自分が炎を受け止めようと体を前へ出す。


そして、火炎弾は無慈悲に発射されてしまった。


「へへへへへッ!!終わりだッ!!」


「……ッ!!」


ツムギがレオを強く抱き締める。レオは最後の瞬間まで炎を睨み付けようとしていた。


『ボゴオオオオオオッ!!』


その炎に別の方向から飛んできた炎がぶつかり、2人の手前で爆発した。


「な、なんだァ!?」


レオと頭領、同時に声を上げた。炎が飛んできた方向へ顔を向ける。


「マ、マイカ……!?」


「あ、あいつはさっきの

 もうひとりのガキ!?」


そこにはマイカが立っていた。口から炎を揺らめかせながらトカゲを睨んでいる。


トカゲはターゲットをマイカに変更し、再び火炎弾を発射しようと大きく口を開けた。


その瞬間を狙い、マイカも息を大きく吸い、口を大きく開けた…!


「ボオゥッ!!」


マイカの口からトカゲと全く同じ火炎弾が放たれた。トカゲが発射するより早く、トカゲの口の中目掛けて撃ち出していた!


トカゲの体内に侵入した火炎弾はトカゲが撃ち出そうとしていた火炎弾を巻き込みながら、体内で大爆発を起こした…!


『グギャアアアアアアアッ!!』


トカゲの断末魔が辺りに響き、激しい爆風を巻き起こしながら、その体はバラバラに飛び散っていた。


「な、な、な……。」


「なんじゃこりゃ……。」


ツムギとレオは抱き合いながら目を丸くするして硬直している。


「はぁ……はぁ……。

 あ、あっつい……。」


炎を吐き出す経験など当然初めてのマイカも、自分のやったことに驚いていた。


「これが“オールハント”の力……。」


オールハントは武器だけではなく、相手の特技を盗み、自分の力として行使出来る能力のようであった。


「な、なにもんだテメェは!?

 あの化け物を倒すなんて

 ありえねェだろうがァ!?」


頭領がマイカに向かって吠える。マイカも自分が何者かよく分かってなかったので、今までの肩書きを素直に教えてあげた。


「万引きJKGメン。」


「まんびきじぇい……?

 あ!?なんだって!?」


「万引きJKGメンのマイカ。

 どうぞよろしく。」


マイカはニヤリと笑いながら、口を大きく広げて火炎弾を撃ち出す真似をした。


「ひいいいいいっ!?」


頭領は腰を抜かしながら、子分に連れられてその場から慌てて逃走した。


「は、はははははっ……。

 マイカ、お前最高だな。」


「まあね。」


レオの賛辞に、マイカはドヤ顔で応えた。


「マイカ、本当に凄かったね!!

 あたい惚れちゃったよ!!」


「あ、ありがと……。」


ツムギが目を輝かせながら、マイカを見つめる。“惚れた”というワードを聞いて、レオの表情が歪む。


「お、おい。マイカ?

 例え女でもツムギを

 奪う奴は許さねぇぞ……?」


「えぇっ!?」


「ちょっと馬鹿兄貴っ!!

 恩人になに言ってんの!?本当に

 シスコン馬鹿なんだから!!」


「ぷっ……。あはははははっ!!」


マイカは思いっきり笑った。こんなに笑ったのは久々かもしれないという程、思いっきり笑っていた。


そして、疲れ果てていた一行は、今晩は馬車の中で一泊しようということになった。みんなすぐに眠りにつき、昼頃までぐっすりと眠っていたのだった。


そして翌日、一行はレオの知り合いが住む町へとやってきていた。


「マイカ。本当にありがとうな。

 お前がいなかったら俺たちは

 トカゲでお陀仏だった。」


「うぅ……。マイカぁ……。

 本当にここでお別れ

 しないといけないの……?」


「う、うーん……。」


マイカは相変わらず盗賊と一緒に行動する決心がついていなかった。だが、ツムギとレオと別れたくもない。そんな複雑な心境のまま、町に着いてしまったのだった。


「無茶言うな……。いいか?

 ここで別れなかったら、

 昨日みたいな騒動に

 マイカを巻き込み続ける

 ことになるんだぞ……!?」


「う、うん……。

 そ、そうだね……。」


「よし。偉いぞツムギ。

 ん?なんだこの張り紙?」


レオが何気なく民家に貼られていた張り紙を見た。そして、そこに書かれている内容を読み上げた。


「えーっと、お尋ね者。

 万引きJKGメンのマイカ。

 懸賞金100000G。」


「……え?」


そこにはマイカの似顔絵付きの手配書が貼られていた。3人はそれを見つめたまましばらく固まっていた…。

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