第20話 カモフラージュ
“死神”が再びサイコロを2つ振る。“8”が出た。身軽さが8倍になり、まるで飛ぶように移動し、洞窟の天井に逆さまに張り付く。
そこからリナ目掛けて飛び掛かった。
「う……!?」
リナは振り下ろされる鎌を“熱湯粘液鞭”で必死に弾きながら、本体に攻撃する。
「熱ッ……!!」
リナの攻撃が当たり、“死神”が怯んでいる隙にマイカが一気に接近し、体に触れようとするが…。
“死神”は再び飛び上がり、天井に避難してしまった。リナが鞭を解除すると天井に狙いを付ける。
「“炭酸”ッ!!」
“死神”は炭酸の弾丸に真っ直ぐ突っ込んできた。
「な、なにっ!?」
リナが困惑する中、“死神”は鎌で炭酸の弾を吸収してしまった。
「あっ……!!」
「水は生命の源。僕にとっては
ごちそうなんだよ。さっき
見せてあげてたよね?」
リナは確かに見ていた。水の弾丸が鎌に吸収される様子を。それなのに、不用意にまた水で“死神”を狙ってしまった。
「リナッ!!」
「くはっ……。」
ショックで固まるリナに鎌が直撃していた。リナは寿命が抜かれる感覚を味わっている。
「30年分。一気に盗っちゃった。
でも、まだまだ元気だよね。」
マイカもリナも30年程寿命を抜かれてしまった。身体的にはまだまだ余裕はあるが、精神的にダメージは大きかった。…特にリナは。
「はぁ……はぁ……ごめんなさい。
マイカ……ごめんなさい……。」
「リナ……!!ウチなら大丈夫だから!
しっかりして……っ!!」
「“死神”から能力を奪えたら、
きっと元に戻せる……っ!!」
「まぁ。確かに戻せるだろうね。
その前に、君たちは僕に寿命
全部抜かれて死んじゃうだろうけど。」
「リナ足手まといだし。
リナのせいでマイカが
先に死んじゃうかもね。」
「……っ!」
“死神”は執拗にリナを精神的に追い詰めようとする。リナの泣きそうな顔を見て、満足そうな笑みを浮かべていた。
「やめろ……!!リナを
悪く言うな……ッ!!」
マイカは脚に力を込め、四方八方から“死神”に飛び掛かる。“死神”はそれを身軽さで回避し、効果が切れるとサイコロをまた2つ投げる。
“8”が出た。“死神”が8人に増える。それを見ていたリナは“熱湯粘液鞭”を発動しようとしていたが…。
「やめた方が良いよ?
マイカの邪魔になるから。」
「……ッ!」
「役立たずのリナの
攻撃がマイカに
当たっちゃうかもよ。」
リナの手が止まる。度重なる精神攻撃に冷静な判断が出来なくなっていた。
その隙に“死神”は一気にマイカを攻め立てる。
マイカは“集中”で目を凝らし、8人の攻撃をギリギリで避け続ける。
「う……!」
“集中”を長い時間酷使していたマイカだったが、つい限界が訪れてしまう…!頭痛に襲われ“集中”が続かなくなった。8人の集中攻撃を浴びてしまった…!
「うああああっ……!!」
寿命を過剰に奪われたマイカはその場に倒れた。体を起こすことが困難な状態にまで追い込まれてしまった。
「はぁ……はぁ……。」
「マ……マイカ……。」
リナが震えながらマイカを見つめる。敗北した瞬間だと感じ、心が折れてしまう。
「あぁ〜……。良いね。
2人とも良い顔してるよ。
女の子のそういう顔が、
僕は大好きなんだ。」
マイカを肉体的に、リナを精神的に追い詰め、“死神”は苦痛に歪む2人の顔を見て、満足そうに笑っていた。
リナは涙を零しながらマイカに駆け寄った。“死神”は弱々しい少女たちの様子を攻撃もせずに、ただただニヤニヤしながら眺めている。
「ご……ごめんなさいマイカ……。
わ、私のせいで……。本当に
ごめんなさい……うぅ……!」
「……リナ。よく聞いて。
ウチはまだ動ける。」
「……っ!?」
マイカが小声でリナに囁く。マイカは限界なフリをしているが、まだかろうじて戦えるだけの余力は残っていた。
「たぶんこれが最後のチャンス……。
そして、この作戦を成功させるには、
リナの力が必ず必要になる……。」
「わ、私の……?」
マイカが頷く。マイカはまだ諦めていない。ここから逆転する最後の一手を考えていた。
「さてと。もうそろそろ
終わりにしようかな。」
“死神”がマイカに近付こうとすると、リナが庇うようにマイカの前に立ちはだかった。
「役立たずは役立たずなりに、
自分の身を犠牲にして
マイカを守ろうとしてるんだね。」
「美しい友情だけど、
君を殺した後にどうせ
マイカも死んじゃうけどね。」
リナが鋭い目付きで“死神”を睨む…!次の瞬間、リナの姿が“死神”の視界から消えた。
「……な、何!?」
リナは高く飛び上がり、“死神”の上空から襲い掛かる…!リナには猫耳と尻尾が生えていた…!
「ツムギの能力……!?」
不意を突かれた“死神”だったが、咄嗟にリナの爪を鎌で防いでいた。
「今のは惜しかったねぇ……!!
でもやっぱり無駄なんだよ!!」
『今のは惣菜を2つ取って
上をカモフラージュに、
下に重ねていた方を
バッグの中に入れたんだよ。』
「な……ッ!?」
“隠密”で気配を消しているマイカは、その隙に一気に駆け出す。“死神”の体に触れ、ついに能力を発動させる…!
「“オールハント”!!」
「ク、クソッ!!」
能力を奪ったマイカは巨大な鎌を精製した。“死神”は初めて怒りに満ちた表情を見せている。
「ツムギの能力をリナに
渡すなんてッ……!!」
「ウチと“死神”の力はどこか似てる。
“死神”で人に命を渡すことが
可能なら、ウチが所持してる能力も
渡せるんじゃないかと思ったんだ。」
「僕の能力を奪えたくらいで
良い気になるなよッ!!
君たちなんか“ギャンブル”で
簡単に倒せるんだ……!!」
“死神”がサイコロを2つ投げる。その瞬間をリナは狙っていた…!
「“粘液鞭”ッ!!」
“粘液鞭”はサイコロを絡め取り、“ギャンブル”の発動を阻止した…!
「何ィッ……!?」
「そこっ……!!」
呆気にとられている“死神”にマイカは鎌の一撃を浴びせる。
「ぐわああああッ……!!」
今の一撃で寿命を50年奪えたが、みんなを元に戻すにはまだまだ足りない。
「クソッ!“命の切断”!!」
斬撃が放たれるがマイカは落ち着いて回避する。マイカに気を取られている隙を、リナがすかさず狙う。
「“熱湯粘液鞭”!!」
「ぎあああああッ!!」
高熱の鞭で“死神”を滅多打ちにする。“死神”はリナを攻撃しようとするが、猫の力を同時に発動させているリナに、攻撃を当てることが出来ない。
「はぁッ!!」
「うわあああああッ!!」
そこにマイカが追い打ちを掛ける!鎌の連撃で100年、マイカの体には150年分の命が宿っていた。だが、若いマイカたちの命を完全に回復させるためには、もう少し足りない…!
「あああああッ!!
調子に乗るなァッ!!」
思い通りに行かなくなった“死神”は子供のようにキレる。
鎌をマイカ目掛けて振り下ろす。だが、リナは鞭で鎌を跳ね上げる。“死神”はマイカとリナ、2人のコンビネーションに手も足も出なくなっていた。
「クソォ……ッ!!さっきから
邪魔ばかりしやがって!!」
「これが、お前が馬鹿にした
ウチの友達の力だっ!!」
マイカは渾身の力を込めて“死神”に鎌を振り下ろす…!“死神”は往生際悪く、両手で鎌を受け止めていた。
「チクショオ……!!
お前らなんかにッ!!」
「マイカっ!!」
マイカとリナ、2人がかりで鎌を“死神”に突き刺す!そのまま“死神”から出来るだけ命を吸収した…!
「があああああ……ッ!!」
「ふ、ふざけやがって……!
す、すぐに奪い返してやる……。」
命を大量に奪われ、フラフラとした足取りで後ずさる“死神”。足元を見ていなかった彼は、足を踏み外していた。“死神”の眼下には、滝壺が全てを飲み込もうと口を開けていた。
「う……。」
「うわああああああッ!!」
滝壺に落下した“死神”はそのまま姿を消した…。マイカは尻餅をつき、荒い呼吸を整え始めた。
「はぁ……はぁ……。
や、やったよね……?
ウチらの勝ちだよね……?」
「うん……!勝った……。
これで、ツムギを救える……!」
勝利の余韻に浸りたかったが、一刻も早くツムギの元に戻らなければ、手遅れになる。2人は急いで馬車へと向かうのだった。




