第2話 万引きGメン指南
黒瀬に補導された万引き少女。名前は蝶乃 舞花と言っていた。彼女は黒瀬の家に連れて行かれそうになっていた。
「あのさ…。お姉さんは女の人だから
まだ良いけど…。これが男だったら
完全に事案だよ?分かってるの?」
「はい……。」
「親に内緒で勝手に人の子供を
自分の家に連れ込むなんて
性別関係なくヤバイことだって、
お姉さんもそれくらいのこと
分かるよね…?良い大人なんだし。」
「はい……。」
(えぇ……?なにこの状況……?)
黒瀬の様子を見に来たスーパーの店長は、黒瀬が逆に万引き少女に説教されている様子を見て激しく困惑していた…。
「……じゃあ、家はやめよう。
その代わり、このスーパーに
また来てくれないか……?」
「君は物を盗んだ。それは
許されないことだ。
だからその罪を償ってもらう。」
「……お姉さんが何をしたいのか
分かんないけど、まぁいいよ…。
付き合ってあげる。」
「あ、あのう……僕たちに決定権は……。」
スーパーの店長を無視して、黒瀬と舞花の間で話はまとまった。
その後。舞花は黒瀬に言われた通りスーパーを訪れていた。
「お、来たね。感心感心。
なかなか真面目だね。舞花。」
「……別に。ウチは万引きの
罪滅ぼしに来ただけだから。
真面目な奴はそもそも
こんなことになってないよ。」
そういう考え方が真面目なんだが…。と黒瀬は心の中で思いながら、舞花をここに呼んだ目的を話し始めた。
「あなたはこれから
万引きGメンになる。」
「……。」
「……は?」
また突拍子もないことを言い始める黒瀬に、舞花は開いた口が塞がらない。
「万引きGメン。万引きを
見つけて、捕まえるの。」
「いや分かってるわそれは…。
ウチはそんなもんになるつもりは
1ミリもな……。」
「……しっ。あそこの客。
ちょっと見てなさい…。」
「人の話を聞け……。」
黒瀬の視線の先には40代くらいの主婦が、精肉コーナーの前で不審な動きをしていた。
「あの腕に掛けてるエコバッグ。
あそこに入れようって算段だね。」
「いや普通に買い物してるだけじゃ…。
なんでそんなこと分かんの…?」
「勘。」
「勘かよ……。」
どこまでもめちゃくちゃなことを言っている黒瀬に呆れながら、そのまま主婦の様子を見ていると…。
「あっ。エコバッグに入れた…。」
「ほらね?」
若干得意気になっている黒瀬にイラッとしながらも、舞花はこいつは万引きGメンとしては本物なんだなと少し感心していた。
その後、黒瀬がそのまま店から立ち去ろうとする主婦を呼び止め、店内に連れ戻し、商品の確認を終えるとスーパーの店長に後を託した。
「ウチにはあんなの無理だよ…。
身体も小さいし、きっとナメられる。」
「舞花なら大丈夫だよ。目付き怖いし。」
「なにそれ…?褒めてんの…?
馬鹿にしてんの…?」
無理と言っている舞花にお構いなしに、黒瀬は淡々と万引きGメンの仕事について教授していく。
「まずは怪しい客をしっかり
観察すること。商品を隠すのを
必ずその目で最後まで見る。」
「盗ってない人を
呼び止めるのが一番
マズいからね。」
「店の印象にも関わる。
嫌な思いをさせられたら、
疑われたお客さんはもう二度と
来なくなるかもしれない。」
「まぁそりゃそうだね…。」
「じゃあさっそくやってごらん。
罪滅ぼししに来たんでしょ?」
「……しょうがないな。」
言われるがまま、舞花は店内の客を確認する。当然ながら大半の人は普通に買い物をしているだけだ。それなのに、怪しいと疑った途端、全員怪しく見えてしまう。
疑う心を必死に振り払いながら、舞花は冷静に見極める。万引きする人間か否かを。
(あ、あの人……。)
60代くらいの男性が、先程の主婦と同じようにエコバッグを持ちながら惣菜コーナーをひたすらウロウロしている。まるで人がいなくなるタイミングを見計らっているかのようだった。
舞花は男性に気付かれないように気配を殺しながら、最後までしっかりと観察しようと目を凝らす。
しかし、男性は惣菜をひとつ掴みしげしげと眺めた後、そのまま元の位置に戻した。
(あれ…?盗らなかった…。)
自分の勘を信じ凝視していたが、あっさりと外してしまい、やはりそんな上手いこと行かないかと思っていた時だった。
「あ……お姉さん?」
黒瀬が前に出て今の男性の後を付ける。舞花の目には万引きしていたようには見えなかった。一体どうしたのかと黒瀬の後をついていく。
男性は一通り店内を見て回り、缶ビールを数本買って店を後にした。やはり舞花には普通の買い物客にしか見えない。
だが、黒瀬は店を後にしようとする男性に一気に詰め寄った。
「お客さん。払い忘れてる物、
ありますよね?」
「あっ…!そ、そうそう忘れてたわ!
わはははは!つい、うっかり!」
男性はそのままお店の裏に連れて行かれ、払い忘れたという商品を黒瀬の前に出した。
(あっ!さっきのお惣菜!?)
たしかに手に取った後、元の位置に戻したはずの惣菜が万引きされていたのだ。
黒瀬は男性を店長に引き渡した後、舞花の元に戻ってきた。
「今のは惣菜を2つ取って
上をカモフラージュに、
下に重ねていた方を
バッグの中に入れたんだよ。」
「かなり手慣れていたから
今のはちょっと難しかったね。」
(す、凄い……。)
自分があっさり騙された手口を見事に見抜いた黒瀬。彼女を素直に凄いと思ってしまい悔しくなる舞花。その後も、舞花への万引きGメンの指導は続いたのだった。