第16話 襲撃
マイカとレオが街で用事を済ませている間、リナとツムギは紅茶のティータイムを楽しんでいた。
ツムギの紅茶には少しでも喉が良くなるようにと、レモンの薄切りが浮かべられていた。ツムギはゆっくりと紅茶を楽しんでいた。
「うん!美味しいね!
ティータイムって
凄く楽しいんだね……!」
どこまでも純粋で素直なツムギに、リナの心は癒やされていた。そして、つい饒舌になってしまう。
「ツムギはティータイム
初めてなのね……。」
「まぁ、そうよねぇ……。
マイカはティータイムとか
しなさそうだもんね……。」
「女子力が低いのよあの子は……。
そういうの気にするように
なれば、女の子っぽさに磨きが
掛かってもっと可愛くなるのに。」
リナのマイカの愚痴を聞いているうちに、ツムギは吹き出してしまった。
「あははっ!リナはほんと
マイカのこと好きだよねー!」
「ちょ!?やめてよ!
好きとか言うの……!
べ、別にそういうんじゃ
ないし……っ!」
リナは照れながら紅茶を啜っている。ツムギはその様子が面白くてニヤニヤと見つめてしまう。
「……なんでか分からないけど、
あの子のこと気になるのよ。」
「運命のような……何かを
感じるような気がして……。」
「う、運命の赤い糸!?」
「だーっ!?だから
やめてって言ってるでしょ!?」
「ごめんごめんっ!」
リナは恥ずかしがりながらも、楽しそうに笑っているツムギを見てひと安心していた。
そんな時、馬車の窓を横切る人影が見えた。
「……うん?もう誰か
帰ってきたのかしら?」
マイカの買い物とレオの情報収集、所要時間を考えると帰って来るにはあまりにも早すぎる。
「ちょっと様子を見てくるわね。
ツムギはティータイム続けてて。」
リナは不穏な空気を感じ、警戒しながら馬車の外へ出た。
「やあ。」
「……ッ!?」
外へ出た瞬間。包帯でぐるぐる巻きになっている細身の男の顔が目に入った。リナの背筋がゾッとする。咄嗟に男から距離を取る。
「誰……?」
「前に見た時にはいなかった
女の子が増えてるね。」
「前……?なんのこと……?」
「良いよ別に。君は気にしなくても。
僕はツムギの様子を見に来ただけだ。」
「ツムギの知り合い……?」
どう見てもただの知り合いには見えない。リナは怪しい男に警戒しながら、なるべく刺激しないように様子を窺う。
「そう。ツムギの知り合い。
ツムギのことが気になって。」
「まだ生きてるかなって。」
「……ッ!?」
リナの全身を寒気が襲う…。この男が何者かは分からない。だが、絶対にツムギに近寄らせてはならないと感じたリナは臨戦態勢に入った…!
「……今日はそういう気分
じゃないんだよね。」
「大人しく帰ってくれるなら
何もしないわ……。」
「だからツムギの様子が
見たいだけだって
言ってるでしょ。」
男が空間をなぞるような仕草をした途端、透明の巨大な鎌が姿を現した。
「……ッ!“水鉄砲”ッ!!」
リナは鎌を吹き飛ばそうと水の弾丸を放つ。だが、弾が鎌に触れた瞬間…。
「す、吸い込まれてる……!?」
“水鉄砲”は男の持っている鎌に吸収されてしまった。男が満足そうな顔で舌なめずりをしている。
「ごちそうさまでした。
でも、もういらないよ。
お腹いっぱいだから。」
「くっ……!“炭酸”ッ!!」
リナは鎌を狙うのを止め、男の足元へ炭酸の弾を発射した。炭酸が大爆発を起こし、男は勢いよく後ろに吹き飛んで尻餅をついていた。
「うわっ。……いたた。
へぇ。面白いね。君。
いろんな水が使えるんだ。」
リナが再び“炭酸”を放とうとしていた時、物音を気にしたツムギが馬車から出て来てしまった…!
「ね、ねぇなんの音?
リナだいじょう……。」
「…………ッ!?」
巨大な鎌を構える不気味な男を見た瞬間。ツムギは発狂していた。
「嫌アアアアアアッ!!」
「ツムギ!?どうしたの!?」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!
来ないで……。来ないで……ッ!!」
「いやあ。会えて嬉しいよツムギ。
意外と元気そうじゃないか。」
「余命半年からよく粘ってるよ。」
「余命半年……!?」
「僕が奪っちゃったから。
半年前、ツムギの寿命を。
残り半年分まで。」
「……ッ!?」
リナは言葉が出なかった。情報を整理するにも感情が邪魔をして頭の中が真っ白になっていた。
「そろそろ死んじゃうかなって
思ってたけど。まだ大丈夫そうだね。
もうしばらくしたらまた来るよ。」
「君が苦しみながら死ぬ顔が見たいんだ。」
「な、何を言って……!?」
「じゃあね。」
男は鎌で地面を抉り、砂埃を巻き上げて姿を消した。…男が姿を消しても泣きじゃくるツムギを、リナは必死になだめていた…。
…それからしばらくして、レオが馬車に戻ってきた。弱々しく泣いているツムギの様子を見たレオは、顔面蒼白になっていた。
「お、おい……。何があった……?」
「……あ、あの……っ。」
「何があったかって聞いてんだよッ!!」
「ひっ……!?」
壁を激しく殴るレオ。頼れる大人という印象を抱いていたレオが自分に激昂している…。そんな中、ツムギは依然として泣いている。リナは完全に萎縮してしまい言葉が出てこなくなってしまった…。
「フーッ……フーッ……。」
謝るでもなく、荒い呼吸でリナを見下ろすレオ。そして、そのまま外に飛び出した。
「出てきやがれ“死神”!!
ぶっ殺してやるッ!!」
「ウガアアアアアアッ!!」
レオは地面を蹴り砕き、辺りに破片が飛び散る。リナはそんなレオの様子に恐怖し、涙目で震えていた。
恩返しをしようとしていた空気は、完全に一変してしまった…。
「まだ遠くに行ってねぇはずだ……。」
レオはコイントスをする。
「裏。」
予想は当たった。運の良い日は必ず当たり、悪い日は必ず外れるレオのコイントス。今日は能力が使えるのを再確認すると、サイコロを2つ取り出し地面に投げる。
“12”が出た。レオの視覚が12倍に上がる。目を凝らし怪しい人物はいないか隅々まで確認するレオ。…見つけた。包帯で全身ぐるぐる巻きの男がゆっくりと森の中へ入るのを。
「……あそこだッ!!」
視覚が元に戻ると再びサイコロを2つ振る。“8”が出た。レオの脚力は8倍に上がり、そのまま男の元へと駆け出した。
それからさらにしばらく経ち、マイカが戻ってきた。リナもツムギも泣いている。あまりにも不穏な空気に動揺が隠せなかった。マイカはリナに声を掛ける。
「な、何が……あったの……?」
「マ、マイカぁ……。あ、あの……。
うぇ……。ぐすっ……。」
「落ち着いて……。ゆっくりで
良いから……。」
「か、鎌の男が現れて……。」
(鎌……!?)
マイカの恐れていた事態が現実になってしまった。自分まで取り乱す訳にはいかないと、心を落ち着けながらリナの話をゆっくりと聞いていた…。




