第11話 水鉄砲
マイカたちはオアシスで倒れている少女を、レオの待つ馬車へと運んでいた。
レオは少女の様子を伺うと、馬車内に併設されているキッチンで料理を作り始めた。マイカが水を運んだおかげで、料理に使う分の水も確保出来ていた。
「お前らも腹減ってるだろ?
食っときな。」
レオはそう言うとテーブルにシチューを並べた。男らしく豪快な大きさに切られた野菜がゴロゴロ入っているホワイトシチューだ。
「ごくり……。いただきます。」
「うまーっ!やっぱ兄貴の
シチューは世界一っ!」
「美味しすぎる……。
これはプロの味……。」
「ふっ……。タマネギが今頃目に
染みてきやがるぜ……。」
褒められて感激しながら、レオはソファに寝かされている少女にもシチューを差し出した。
「大丈夫か……?食えるか?」
「…………!」
美味しそうなシチューの匂いに釣られ、少女はゆっくりと体を起こした。レオからスプーンを受け取ると、レオの持っている皿からシチューをすくってフーフーと少し冷ます。そして、小さく開けた口の中へと運んだ。
「〜〜っ!!」
少女は目を瞑って、久しぶりに刺激された味覚と、空っぽになった胃袋でシチューを体の芯から味わっていた。綺麗な銀色の瞳からボロボロと涙を流しながら、シチューを堪能する。
それを見ていたマイカとツムギもようやくひと安心出来た。
「……美味かったか?」
レオが笑顔で尋ねると、少女は涙を拭いながら力強く何度も頷いていた。そしてようやく、その口から言葉を発した。
「あ、ありがとう……ございます……。」
「倒れていたそうだが……。
何があったんだ……。」
「い、いえ……。あてもなく
一人で荒野を彷徨っていて……。
本当にただ行き倒れただけで……。」
それを聞いたレオは一枚の紙を少女に見せた。
「……水鉄砲のリナ。
手配書が出てるぞ……?」
「と、盗賊……!?」
レオが持っている手配書には、以前のマイカの物と同じように手書きの似顔絵が描かれていた。特徴をよく捉えていて、端正な顔立ちの少女とかなり似ている。
「そ、そんな……。私……
ぬ、盗みなんて……。」
手配書を受け取り、自分でもしっかりと確認するリナ。信じられない物を見ているかのような目をしている。
「何か心当たりないのか……?
安心してくれってのも変な話だが、
俺らも一応盗賊だ……。だが、
君に危害を加えるつもりはない……。」
「と、盗賊……。」
盗賊と聞き顔がこわばるリナを見て、マイカが咄嗟にフォローに入る。
「う、ウチは盗賊じゃなかったんだけど、
成り行きでここにお世話になってて、
本当に悪い人たちじゃないんだ……!」
「なんでも正直に話してくれて
良いんだよ……?」
マイカの話を聞いて深呼吸をするリナ。ゆっくりと自分のことについて喋り始めた。
「私、実は記憶喪失なんです……。」
「記憶喪失……!?」
「だから……もしかしたら
記憶を失う前に本当は
盗賊をやっていたかも
しれなくて……。」
「なるほど……。」
「ステータスカードと書かれた
カードが近くに落ちていたので、
自分の名前とスキルはそれで
確認して……。でも、本当に
私の物かどうかは分からなくて……。」
「ステータスカードは
スキルを持っている人間に
自動で精製される不思議な
カードだ……。それは君の物で
間違いないと思うぜ。」
レオは腕を組みながら何やら考え始めた。そして、手配書について気になることをリナに尋ねる。
「この手配書、依頼主が
フロッグ盗賊団、盗賊の名前に
なっているんだ。」
「何か心当たりあるか……?」
「盗賊団……。荒野を
彷徨っている時、奇妙な男たちに
襲われたことはあります。
スキルで追い払いましたが……。」
「じゃあ、マイカの時と同じか……。
盗賊に逆恨みされたんだろうな……。
依頼人がリザード盗賊団じゃない辺り、
別人の仕業だろうが……。」
「マイカ……?」
「そこのオレンジ髪のがマイカ。
隣の猫っぽいのが俺の妹のツムギ。
ついでに俺はレオだ。」
「う……。」
突然、頭を押さえながら顔を歪めるリナ。その苦しそうな様子にレオは狼狽える。
「ど、どうした……?
どこか悪いのか……?」
「わ、分からな……何か今……。
思い出し……そうで……。
うぅ……頭が痛い……!!」
さらに激しく苦しみだすリナ。記憶喪失の人間と出会うのは一同初めての経験なので、どう対処すれば良いのか分からず戸惑っていた。
「うっ……!?オェッ!!」
「お、おい!?しっかりしろ!!」
リナが食べたばかりのシチューを吐いてしまった。尋常ではない様子に馬車の中は緊張感に包まれる。
「あああああッ……!?」
「はぁッ……はぁッ……!!」
「はぁ…………。」
「リ……リナ……?」
苦しんでいた様子から一転。呼吸を整え、落ち着きを取り戻し始めるリナ。レオが様子を伺おうと顔を覗き込もうとする。
「近寄らないでッ!!」
「……ッ!?」
急に拒絶され、思わず後ろに飛び退いてしまうレオ。さっきまでと明らかに様子が違っていた。
「ど、どうしたんだリナ!?
何か思い出したのか……!?」
「うるさいッ!!」
レオの問い掛けに激昂するリナ。レオに向けて右手をかざしている。
「“水鉄砲”ッ!!」
「うおッ!?」
突如、リナの手のひらから水の弾丸が発射される。間一髪でそれをかわすレオ。水の弾丸は馬車の壁に大穴を開けていた。
「…………ッ!!」
「ま、待ってリナ!!」
リナはそのまま外へと飛び出してしまった。その様子にマイカは思わず後を追ってしまう。
「マイカ!?」
ツムギも後を追おうとするが…。
『ドパァァァァンッ!!』
「うああああっ!?」
ツムギが馬車から出た瞬間、水の弾丸の流れ弾が飛んできた。水の爆風を喰らい、ツムギは馬車に叩き付けられた…!
「お、おい!?ツムギ!?
大丈夫か!?ツムギッ!!」
レオは馬車の前で倒れているツムギの様子を見る。気絶していたようであった。
「ツムギ……。」
レオはツムギを抱き締めたまましばらく動けなくなった。
「待って!!止まって!!」
荒野を全速力で逃げるリナ。マイカはツムギから借りた猫の力でそれを必死で追い掛けていた。
しかしリナは、水の弾丸でマイカの足止めをしようと攻撃し続けている。
「うわっと!?」
猫の力とスキル“集中”でなんとか回避する。追う速度はマイカの方が速いのだが、追い付こうとするとリナは水の弾丸で距離を引き離そうとしてくる。
「なんで逃げるの……!?」
「……うるさいって
言ってんのよッ!!」
「“粘液”!!」
リナはマイカの足元に大量の水の弾丸を発射する。その中のひとつがマイカの足に命中してしまった…!
「うわっ!?あ、足が……!!
なんだこれっ……!!」
“粘液”と叫びながら放たれた水の弾は、ジェル状でマイカの足に纏わりついていた。凄まじい粘着力で、足が抜けなくなっている。
「…………。」
マイカの足止めにようやく成功したリナは、冷たい目でマイカを見ながらそのまま逃げ去ろうとしていた。
「こ、このまま逃してたまるかッ!!」
猫の力をフルで発動させるマイカ。猫耳と尻尾の他に、鋭い牙と爪が生え始める。
「ウガアアアアアッ!!」
凄まじい力で強引に粘液から足を引っこ抜いた。今のマイカは、ツムギが普段使っている力の領域を超えていた。
「……なッ!?
ば、化け猫……!?」
その様子に驚愕するリナ。マイカは猛獣のような形相で、リナに再び追い付こうとする。
「くっ!“炭酸”ッ!!」
マイカに負けじと、リナが新たな水の弾丸をマイカの足元へ発射する。
炭酸を含んだ水弾が弾けるように爆発する。鋭い泡の散弾銃がマイカを襲った。
「うわッ!?」
マイカは後ろに吹っ飛びながら空中で体を縮こませ、衝撃を吸収しながらなんとか着地する。
「水の攻撃が凄くて
全然近付けない…ッ!!」
「リナが使ってた“粘液”、
あれなら捕まえられるか……。」
マイカは作戦を変更して、リナのスキル“水鉄砲”を“オールハント”で盗もうと考えた。
「……よしッ!!」
猫の力とスキル“集中”を最大限まで高め、一気にリナに近付く…!それに気付いたリナが再び“炭酸”でマイカの足元を狙い、吹き飛ばそうとしている。リナが水の弾丸を撃つ寸前、マイカの指がかろうじてリナに触れた…!
「“オールハント”ッ!!」
「“炭酸”ッ!!」
炭酸水の爆発がマイカを襲う…!マイカは吹き飛びながら、“集中”し続け、スローモーションの中、リナに狙いを定める…!
「“粘液”……っ!!」
ドパッ!と粘着力の強い弾丸がリナの足元に着弾した。リナの足は強力なジェルに拘束され、逃げることが出来なくなった。
「いだッ……!!」
吹き飛びながら“粘液”を撃ったマイカが地面に叩き付けられた。猫の力を失ったマイカは上手く着地することが出来ず、体を痛めていた。
「く……くそッ……!!
なんで私のスキルを……!?」
リナは拘束された足を必死に引き抜こうとするが、ベットリと液体が足に絡み付いている。
「はぁ……はぁ……。
リナ、どうしたの……。
ウチらはリナの
敵じゃないよ……!」
「……思い出したの。」
「な、何を……?」
「…………。」
リナが何かを言い掛けた時だった。
2人の間に小さな石がひと欠片、何者かに投げ込まれた。
「えっ?」
「な、何?」
2人が不思議そうに石を見ていると、突然その石が輝き始め、大きな爆発を起こしていた。
『ズドォォォンッ!!』
「ぐあッ!?」
爆風の衝撃で2人は吹き飛んでいた。マイカとリナは直撃は免れたものの、リナは拘束されていた足のジェルごと吹き飛び、足を負傷してしまっていた。
「痛……ッ!」
「リ……リナ……!
一体何が……!?」
2人の前に派手な髪型と服装の男が姿を現していた。
「万引きJKGメンのマイカ。
水鉄砲のリナ。HAHAHA!!
賞金首が2人もいるなんて
ラッキーだZEッ!!」




